水紋
「話したいことがあるんだ。俺のことについて」
ミロはしばらく何も話さなかった。日は落ちかけてその気配を消しているが、まだ星が出るほど暗くはなかった。風もぱたりと止み、辺り一面、静まり返っている。
「ミロさん、怪我はもう…いいんですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
何故だか話し出さない彼に違和感を覚えた。
「ミロさん…?」
「昨日、言ったこと、気にしてるか?」
「気にしているというか……あまり意味が分かりませんでした」
「信用できなくなったか?」
「いいえ、そんなことはありません」
昨日、私はそれについて悩んだ。答えはもう出ているのだ。たとえ、誰に何と言われようと、私を闇から救い出してくれた人たちを、美しい世界のために前を向く人々を信じない道などない。いや、その道以外私にはもう残されていない。
「それでは矛盾があるな」
「え?」
「俺らを信用するのなら、俺の話を信用することにもなる」
ミロは笑った。黒き髪に隠されてはいるが、彼の笑顔を見たのはこれが初めてかもしれない。
「意味が分からない、と言ったな。少しだけ手がかりをやろう」
既にいつも通りの真顔に戻ったミロは淡々と言った。
「俺の過去だ。誰にも言ったことはない。いや、正確にはシリウスは知っているようだが…」
彼は髪をかき上げた。やはり、その闇をまとった髪を除けるとその紫紺の瞳は光を取り入れた。まるで、光をもう二度と離さんとばかりに。
「俺は、小さな村で生まれた。物心ついた頃から、家族と言うものを知らずに生きた。俺は孤児だったんだ」
今回は短いですが、次話からはいつもより多めに書いていく予定です。




