文化祭
今、メチャクチャ人目を集めてます。
一度通り過ぎてから振り返られるくらいに…。
恥ずかしすぎて、何処かに隠れたい…。
事の発端は、文化祭の出し物です。
まぁ、簡単に言えばカフェなんだけど…ね。
普通のカフェじゃなく、執事&メイドカフェですが……。
何故か、皆さん、私をマスコットキャラに仕立ててます(どうせ私が邪魔だったのであろうが)。
バイトで培った給事は、得意なんだけどなぁ……。
…で、そのマスコットキャラが、メイド服を着て、猫耳のカチューシャをし、手は猫の手でしかも、尻尾までついているのだ(色は統一色の黒。服に合わせてるのもあるんですが)。
それにプラカードを手にし。
「2ーCで、執事&メイドカフェ営業中ニャン。是非、一度お立ち寄りくださいニャーン」
って、台詞までついてるって……。
もう、恥ずかしすぎて、どこかに隠れたい!
朋子も彼も教室での接待組。
私もさ、彼の執事姿を見たいのに今日は、全然会えずしまい。
だって、文化祭実行委員に言われたのだ。
「マスコットキャラは、一度教室からでたら終わるまで戻ってこなくてよし!」
だよ。
何となくお気付きでしょうが、それを言い放ったのは有美さんです。
しかも、私が居なければ他の女子も気兼ね無く彼とのツーショット写真が撮れるとクラス中で、盛り上がっていた。
まぁ……いいんだけど……。
その分、どこかで隠れてれば(これをサボりという)…。
取り敢えず、自分の仕事さえしてればいいってこと……。
でも、この格好じゃ、逆に目立つわけで……。
結局、何も出来ない状態なのだ。
ホント言うとさ。
彼と一緒に廻りたいって思ってたんだ。
けど、今年は無理そうだから、諦めてる。
どうせ、クラスでも彼が一番人気なのもわかってるから、休憩なんて取る暇無いだろうし……。
はぁー。
「あーずさ」
不意に声をかけられた。
顔を上げると目の前にはお兄ちゃん。
「何て顔してるんだ?マスコットキャラなら、それらしい顔をしろ!」
って、激が飛ぶ。
「だって……」
私が、暗い顔を見せると。
「じゃあ、俺と廻るか?どうせ、時間あるんだろ?」
お兄ちゃんが茶目っ気一杯で言う。
「いいの?」
「お前さえよければだが」
お兄ちゃんの申し出に私は頷いた。
「では、お嬢さん。お手をどうぞ」
野暮ったい台詞を口にして微笑むお兄ちゃんに私は、猫の手を重ねた。
それから、お兄ちゃんと一緒にあっちこっちを廻り、時にはクラスの宣伝をしながら歩いた。お兄ちゃんは、その度にクスクス笑ってたけどね。
「梓とこうして歩くのって、六年振りか?」
って、お兄ちゃんが愉快そうに言う。
私も少し考えて。
「それくらい経つかも…」
そう答えていた。
小学生の頃は、何時もお兄ちゃんと一緒じゃないと出してもらえなかったから……。
何処に行くにもお兄ちゃんが一緒だった。
友達と遊ぶだけにしても、親が心配だからっと言っては、お兄ちゃんを付けてた。
「懐かしいなぁ。何処に行くにも梓の手を引いて歩いてたな。時おり、面倒だって思ったこともあるが…。今じゃ、それも叶わないと思ってたが、またこうして繋いで歩けるとはな」
苦笑するお兄ちゃん。
も…もう……。
「何、不貞腐れてるんだ?」
お兄ちゃんが、私の頬を突付いてくる。
「お兄ちゃんが……」
「俺が、何?」
「昔の事を言うから…」
益々、頬を膨らませる。
お兄ちゃんは、私をからかって遊んでいるだけ。
そんなことは、わかってる。
けど、恥ずかしい思いをしてるのは、私だけ。
不公平に思えてなら無い。
射的にクレープ屋さん、輪投げに焼きそばやたこ焼きの屋台(全部お兄ちゃんの奢りです)、それぞれ回ってお兄ちゃんとキャーキャーと楽しんでいたら。
「梓ー!!」
突然の叫び声にビクリと体をはねらせる。
声を聞いただけで判る、愛しい人の声だもの。
でもその声は、少し焦ってるような声で……。
横でお兄ちゃんがクスクスと忍び笑いをしてる。
「王子さまが登場だ」
さも、可笑しそうに笑ってる。
「梓。お前、オレ以外の男と何廻ってるんだよ!」
背後から抱きつかれた。顔は見れないけど、多分怒ってるんだろうなって声音だった。
でも、さっきの言葉は嫉妬なのかな?でも、違うのかも…。
嫉妬ならちょっと、嬉しいかな。
横目でお兄ちゃんに目をやると。
お兄ちゃんは、したり顔で彼を見た。
「久し振りだね、紫音くん 」
お兄ちゃんが、不適な笑みを浮かべて言う。
「エッ…あっ…。あれ?梓のお兄さん?」
一瞬言葉が濁ってたけど、直ぐ持ち直すとは……。
「君が、何を耳にして飛んできたかわかるから、いいよ。じゃあな、梓」
お兄ちゃんが、含み笑い……。
お兄ちゃん、策士ですか。
私が、寂しい思いをしてるのを気にして、敢えて私の相手になってくれて、それでいて彼を呼び出したのだ。
「ちょ…梓。何で、お兄さんと…」
困惑状態の彼。
「オレは、“梓が、オレ以外のイケメンと仲良く歩いてる”って聞いたから、飛んできたんだけど…」
それでか。
着替えもせずに飛んできてくれたんだ。
動揺を隠せてない彼に。
「う~ん。イケメンねぇ~。まぁ、寂しそうにしてた私を気遣って、お兄ちゃんが一緒に廻ってくれただけだよ。他意はない。ただ、端から見れば、親密のやり取りはしてたのだと思う」
店を廻ってる間、ずっと手を繋いでいたから……。
「寂しかったのか?」
彼に問われて、どう答えようか悩む。
マスコットキャラとしての仕事って割りきれずにいた自分がいたから…。
「梓?」
心配そうな彼の顔。
「寂しかったって言うより、恥ずかしかった。こんな格好で、全校舎を回るなんて、私には…耐えられないって思ってた。そんな時にお兄ちゃんが手を貸してくれたの。一緒に廻りながら、クラスの宣伝して、寂しさをまぎらわせてくれたの」
私は、目線を足元に移した。
彼の顔が見れない。
「なぁ、梓。何で、あの時言わなかったんだ?」
あの時?私は、顔をあげた。
「マスコットキャラに選ばれたとき」
「言えるわけ無いじゃない。皆…特に女子は、紫音くんの執事姿を見たいが為に言ったんでしょ。彼女である私が居たら、自由に紫音くんに触れることが出来ないと思ったからだから、有美さんも私を遠ざける為にマスコットキャラに私を推薦して、一日中教室に近付けないようにしたんじゃない!」
自分の感情が、制御できない。
一旦火がついたら、どうにも出来ない。
そして、凄く虚しくなってきた。
私、一人が邪魔物だって…。
何時しか、目に涙が溜まって、溢れそうになる。
涙を堪えるためにも唇を噛み締める。
「梓…」
「私は、未だに紫音くんの彼女には相応しくないんだって、思わされて……。どんなに努力しても彼女たちには、敵わない。だったら、紫音くんと離れてた方がいいのかなって……」
最近、特に思うんだ
声は、震えてたと思う。
今までの事を考えると、言わずにいられなかった。
何時も、自分の中では、彼はモテるのだから、しょうがないって諦めてた。
その度に彼は、私に誠意ある対応で接してくれていたのもわかってる。
でも、心の中の不安を拭い去るのは、その時だけで、何時彼から別れを告げられるのか、気が気じゃなかった。
今だって、不安で押し潰されそうになってる。
「梓…。何で、もっと早く言ってくれなかたんだ。オレにとって、梓が一番大切な人で、他の男にかっさわれるのが嫌で、梓に気持ちを打ち明けたんだぞ。梓が不安に思ってること、全部此処ではいちまえよ」
って…。
本当にいいの?
彼の顔を見る。
眼差しが、真剣だ。
「紫音くんが何時“お前なんか要らない”って言い出すか不安だった」
「そんなこと言うかよ!」
「彼女たちに優しい紫音くんに嫉妬してた」
「エッ…、マジ。梓、表情に出さないから、嬉しい」
って、笑顔で言う。
「後、紫音くんと有美さんが並ぶと美男美女で、一枚の絵みたいに羨ましかった」
「何それ。オレは、描かれるなら、梓とがいい!」
おどけて言う。
「梓。オレは、梓の笑顔が見たいんだけどなぁ…」
何時しか、流れ落ちてきた涙を彼の手が拭う。
「梓ってさ。誰にも頼らずに解決しようとするじゃん。だから、少しは彼氏であるオレを頼れよ。ましてや、今は同じクラスなんだぞ。目で訴えてくれれば、オレが代わりに言ってやることも出来るんだ」
彼は、私の両頬を両手で挟見込み、覗き込んできた。
「梓は、唯一オレが一番可愛いって想ってる女なんだからな」
真顔で言われれば、俯きたくなるのは、仕方ないと思う。
けど、彼の両手は、それをさせてくれなかった。
「梓、わかった?」
目を細めて私を見つめてくる彼に頷くことで答える。
彼が、そっと抱き締めてくれた。
「じゃあ、このまま廻ろっか?」
私が泣き止むのを待ってから、彼が言う。
「うん!」
私は、飛び切りの笑顔を彼に向けたのだった。
執事服の彼も様になってカッコいい!
って、何度も見いちゃいました♪。
勿論写メも一緒に撮ったよ、笑顔のね。