過去と思い
終わりのチャイムが鳴り、私はそそくさと帰る用意をしていた。
はぁ…少しだるいなぁ…。
寝不足が原因だな…。
「怜、帰ろう!」
そんな事を考えていると誰かから声を掛けられ振り向いた。
「ん…?あぁ…明と奈穂ちぃか…」
だるさを堪えて話すといきなり顔を覗き込まれた
「怜ちゃん。今日変ですよ」
「やっぱり!奈穂ちぃもそう思うよね!」
「はい。そう言えば昨日、胸騒ぎがするっていってなかなか眠れない様子でしたけど、本当に寝不足だけが原因ですか?」
「あぁ…そうだ」
これ以上踏み込まれて欲しくないので、しらを切り続けてあえてにこやかに返答する
まぁ、顔ひきつりまくりだろうが…。
「困った時は何時でも相談乗るからね!あんまり自分1人で抱え込まないようにね」
それを察したのか明が心配そうに言って来たのだから笑える。
そんなにわかり易かっただろうか。
「その時は、私にも頼って下さいね。同室ですし」
そして奈穂ちぃもそう付け足して来た
「ありがとう」
私はペコリと頭を下げ2つの意味でお礼を言う
なんというか考えるのが面倒くさくなってどうでも良くなってきたのだ。
「さっ!!帰ろう」
そんな事を思っていたら明が話に区切りを付け寮に帰ろうと歩を進める
「そうね」
奈穂ちぃもそれに返事をして行こうとした。
だが…その時、桐に呼び止められたのだ。
「れーちゃん。ちょっと待って!話があるんだけどいいかな」
唐突過ぎて何とか動揺を抑えて答えるのが精一杯だった。
「いいけど…なんの用だ」
首をかしげながら平常を装い訊ねたが曖昧な返事が返ってきたのだがイラッとしたのは言うまでもないだろう
「ん…ちょっと…ね。場所を変えようか」
また面倒事が増えるだけなのになぁーって思いながらも着いていくわたし自身にも笑えてくる
「なら、私達はここで待っときましょうか」
奈穂ちぃがそう言って気を使ってくれたのだが正直、怖かったのできーちゃんに奈穂ちぃ達も一緒でいいよな?と聞いた。
きーちゃんは少し嫌そうにだが分かったと言ってくれたので多少安心した
「場所は、屋上でいいかな」
きーちゃんが尋ねて来たので頷いて付いて行く事にした
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「あのさ…あの時はごめんっ」
そう言って桐が突然謝って来た。
「えっと…」
あの時…そう私達が最後に会った日。
そして、私が男嫌いになった日。
私がきーちゃんと初めて会ったのはお父さんが経営する病院の近くの公園だった。
私は昔から体が弱かった為、兄妹は気を使ってなのか外で遊ぶ時は誘ってくれなかった。
その日も私を置いて3人でどこかに遊びに行っていた。
なので検診の後、私は退屈しのぎに公園に行った。
そして、なんとなくベンチに腰を掛けてボーッとしてるといっときして同じ年位の男の子と女の子がやって来て鬼ごっこやかくれんぼを始めた。
それを私は羨ましげに見ていると1人の男の子が私の元にやって来て誘ってくれたのだが、その男の子こそきーちゃんだ。
私は断る理由もなく仲間に入った。
むしろとても嬉しかった。
それ以降良く一緒に遊ぶようになって…。
だから、私はあんなに優しかったきーちゃんが怒った顔して、凄い剣幕で睨みつけられ、しまいには胸ぐらを掴まれた事がショックだったしとても怖かった…。
それ以来、同じ年位の男の子や男性に話掛けられる度に足がすくんだ…。
それっきり家に閉じ隠って、体調を崩して中等部ほぼ丸々入院した。
その途中でこの事より最悪な出来事があって完全に男嫌いになったのだが…。
そして親や兄妹にたくさん迷惑をかけた…。
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「僕はあの頃から何でも出来て一番だった。だから、れーちゃんと遊ぶようになって、少なからず君に嫉妬してたのかも知れない」
「……」
「中等部から一緒の学校に通う事を知って最初はとても嬉しかった。だけど良く考えて見ると一緒の学校に行くって事は、僕が今まで培って来た1位の座をれーちゃんにとられると、思った。僕何かより何でも出来てしまう君に」
そこで数秒黙ってまたはなしを再開する。
「そんな事を考えたら急に悔しさがこみ上げて来たんだ…僕よりずっと弱い癖にって…気づくとれーちゃんを凄い剣幕で睨みながら胸ぐらを掴んでたんだ」
「んなっ!!」
明が血相を変えて勢い良く反応した。
「完全に怯えた顔してた…。それで怖くなって逃げてしまったんだ…本当にどうかしてた。ごめんなさい」
ほんとに申し訳なさそうに深々と頭を下げて謝ってきたからもういいやと思った
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「今の話を聞く限り完全に桐、あんたが悪い!奈穂ちぃも何とか言ってやりなよ」
話を全て訊き終えた明がきーちゃんにむかって指を指しながら言った。
「面目次第もこまざいません…」
いまにも泣きそうな顔で謝って来たのだから逆に可哀想にも見えてきた。
「桐くんの事全く知らないので言えた義理じゃありませんが、酷すぎます!怜ちゃんがどれだけ苦しんだか…」
奈穂ちぃの言葉が響いたのか完全にきーちゃんは黙りこくってしまった。
そして手を鳴らして話はここまで!よしっ。帰ろう!と明がそういい話は打ちきりになった。
話している内に外は夕方になっており、夕空に染まっていてだいぶ肌寒かった。
「ほら、怜ちゃんと桐くんも行きますよ」
うんと返事しながらも私も行かなくちゃと思い足を動かそうとする。
だけど…視界がぐるぐるする…。
終いには、頭もくらくらしてきたのだ…。
「つっ…」
立ってられなくなるほど具合悪くなり私はその場にしゃがみこんだ。
「怜っ!どうしたの!?」
いち早く明が気付き声を掛けて来た。
だが…立ち上がる事が出来ない…。
「怜ちゃん!ヒヤッとするから体が冷えたんでしょうか!?」
そう奈穂ちぃが解説をしているがそれどころではない…。
「とりあえず怜、動ける?」
無理と精一杯こえを出すもしんどくて伝えるのいっぱいいっぱいだった…。
さらに視界が揺れる…。
と…そこで誰かに抱え込まれた。
『優!!』みんな一斉にそう言った
「ナイスタイミング!と言いたいところだけど、盗み訊きしていましたね」
奈穂ちぃは知っていたとばかりにそう言った。
「恋華もいるぞ!」
恋は…と言うと、盗み訊きしてた事に対して、ばつが悪そうな顔をして扉の向こうから出てきた。
そんな顔をするくらいなら最初から着いてくるか、堂々と入って来ればいいのにと、私は思ったけど敢えて言わないでおこう
「優、とりあえず怜を部屋の前まで連れて行って」
「あぁ。そのつもりだ。怜、しっかり掴まっとけよ」
「う…ん…」
やっぱり、声を出すだけで精一杯だ。
ほんと…情けないなぁ…
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「じゃあ奈穂、後は任せたぞ…」
「はい」
そう言い残して桐と、男子の階つまり三階に登って行った。
「恋、私達も部屋に戻ろう。本当は、居たいけど何人もいたら怜も寝れないだろうし」
そうねと、そう言い残し明と恋は渋々部屋をでて行った。
「怜ちゃん大丈夫ですか?何か飲み物はいる?」
そう言って心配そうに顔を覗いて来た。
「い…い」
「分かった」
そこでガチャっとドアノブが回った音がしたので振り向いて見ると隼田さんが帰って来たのだ
「お疲れさま。遅かったね」
そう言って奈穂ちぃが七華に労りの言葉をかけた。
「あぁ、ちょっと買い物に行ってたから遅くなった。って…怜ちゃんは、どうしたんだ!?」
「何時間かずっと外に出てたから気分が悪くなってしまったのよ」
「なんでまた。まだ外は冷えるのに」
「色々積もる話が有りまして…」
「そうなのか?」
「でも…大丈夫なのか?」
「う~ん。何とも言えないわね」
「そ…そうか」
そんな会話を聞きつつ、私はいつの間にか寝ていた。
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私は桐の話を聞いた後無性に桐を殴りたい気分になった。
だって、私にとって何よりも大切で大好きな怜にあんな酷いことをしたんだから…。
私は俗に言うシスコンだと思う。
元々は一心同体だったからかも知れないけど。
だからこそお互いに何を考えているかが自然と分かってしまう。
そして怜を庇うように今の話を聞く限り完全に桐、あんたが悪い!とはっきりと言ったのだ。
その後も幾つか文句を言うと、とてもばつが悪そうな顔をしていたのでこれくらいでいいかなと思い話は打ちきりにした。
「話はここまで!よし。帰ろう」
そう言い残し、さっさと扉の近くまで移動した
「ほら、怜ちゃんと桐くんも行くよ」
奈穂ちぃは2人を促しながらゆっくりと扉の近くまで来た
うんと返事をして桐も素直について来ている。
そう言えば怜、さっきから一言も喋ってないな。
そう思い怜の方を見て見ると辛そうに顔をしかめいた。
「つっ…」
「怜っ!どうしたの!?」
慌てて怜の方へ駆け寄る
「怜ちゃん!!ヒヤッとするから体が冷えたんでしょうか!? 」
そう奈穂ちぃは言っているがそれどころではないと思うんだけど…。
「とりあえず怜、動ける?」
「無…理…」
怜はふらふらしていてそれどころでは無さそうだった。
…と、そこで優が来て怜を抱え込んだ。
『優!!』みんな一斉にそう言った。
「ナイスタイミング!!と言いたいところだけど、盗み訊きしていましたね」
私は奈穂ちぃの言った言葉に驚きを隠せなかった。
だってさ気配なくて全く気付かなかったもん。
「恋華もいるぞ」
優と恋って…。凄く珍しい組み合わせだなぁ~と思った。
だが…いやいや!!その話は置いといて…。
ってか、こんな状況でノリツッコミしてる自分がいるし。
取り敢えず怜は軽いから私がおんぶして運んでもいいけど優の方が力強いし安定するから優にまかせよう。
「優とりあえず怜を部屋の前まで連れて行って」
「あぁ。そのつもりだ。怜、しっかり掴まっとけよ。」
優は当然とばかりに頷いた。
「う…ん…」
怜はと言うと相変わらず具合悪そうにしていた。
私じゃどうにも出来ない事がもどかしいが仕方ないよね
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「じゃあ奈穂、後は任せたぞ」
そう言い残して桐と、男子の階つまり三階に登って行った。
「恋、私達も部屋に戻ろう。本当は居たいけど何人もいたら怜も寝れないだろうし」
それが妥当な判断だと思った
「そうね」
そう言い残し明と恋は部屋を出た。
部屋をでて隣の部屋つまり私達の部屋に入ってすぐに恋が、あんたから帰ろうって言い出すなんて珍しいわねと突然言って来た。
「えっそう?」
特に何も考えずとった行動だったから多少疑問系になった。
「うん。いつもの事だから私も一緒にいるとか言い出すかと思ったのに」
そう言い恋は不思議そうな顔をして私を見てきた。
まぁ実際のところ付きっきりになりたいことは事実だけど…それにしてもね…。
「ひっどーい!私だって気を使う時ぐらいあるよっ」
そういって言い返す
「それは悪かったわね」
対して悪気が無さそうに謝られても嬉しく無いけど恋の事だしまぁいっか。
悪い点が有りましたらお教え下さると助かります!!