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第九話 不信感と関係

   ~未来浮島区海上~


「小太郎先輩、魚って凄いですよね」

 忍くんはサケにエサを撒きながら言う。

「ん? 何で?」

「食べられると分かりながら、せっせとこうやってエサを喰らおうと頑張るんですよ」

「……分かっていないから喰らっているんじゃないかな」

「でも、もしかしたら食べられるって分かっているサケもいるかもしれないじゃないですか」

「そうしたら随分、賢いんだな」

「ええ、そうでしょうね。でも周りに合わせて食べる……」

 ふっとそこで忍くんは寂しそうな笑みを漏らした。

「悲しいですね。何で他に合わせる必要があるんでしょうか? それはそれなのに」

「どうだか分からないけどね」

 僕はそう言って肩を竦めると、こももがたたたっとこちらに寄ってきた。

「コータ、こっちはエサ、終わったよ?」

「ん、分かった」

 そして腕時計をチラッと見る。時間は少し遅くに始めたからもう昼だった。

 昨日は港の食堂でみんなで定食を食べたが……。

「なぁ、こもも、一匹水揚げして味見しないか?」

「え……?」

「ほら、忍くん達にも新鮮なサケの味を食べて貰いたいし」

「んー……そうだね。一匹ぐらい、大丈夫だろうし」

 こももはちょっと考え込んでいたが、ニコッと微笑んで頷く。

 先生もちょっとやってしまうことで、割と生徒の間でも横行していた。

 正直、千や二千もの莫大なサケを飼っているのだ。一匹や二匹食べてもそんなに支障はない。

 そう決めると、僕は網を取ってそれを操って粋の良いサケを一匹掠めるのであった。


「今日も観光、ありがとうございました」

 今日も忍くん達の案内をし、原生林まで案内した後で住宅街まで戻ると、彼らはペコリと頭を下げて見せた。

「いろいろと参考になりました」

「そりゃ、良かった。えっと……これからどうするんだい?」

「食料を調達してから学園に戻りますが」

「……ちょっと思ったんだけどさ」

 ふと思って僕は訊ねる。

「合宿って何の部活なの?」

「…………」

 忍くんはニコリと笑顔を浮かべて答えない。詮索するな、ということだろうか。こももは眉を潜めて僕の方を見た。

 彼女は警戒している。彼も。

 だが、知らねばならない、と思って踏み込む。

「日の出ている間はいつも一緒だったけど……つまりそれって、夜に活動しているんだろう? そんな不健全な部活があって良いはずがないよ」

 天文部のような部活なら良い。心の中で僕はそう念じながら、彼に尋ねる。

「第七実習室を使っている以上、僕やこももにも知る理由はあるはずだよ」

「……どうしても、知りたいですか?」

 笑みを浮かべたまま、忍は訊ねる。そこには不気味な色があった。

 僕が答えに詰まると、忍は笑みを浮かべたまま踵を返した。

 僕は咄嗟に手を伸ばす。その瞬間、彼の言葉が刃のように襲いかかった。


「聞くか聞くべきか悩んだときには、聞かないべきですよ。関係を、変えたくなければ」


 心を抉る、その言葉。

 別の何かを対象にしたような言葉。

 何か当然と思ったような感情を動かすような言葉。

 それに、その手は止まる。

 忍くんに続くように、剛くんとシオンさんが続いて立ち去る。そのとき、シオンさんがそっと気を遣うようにこももを見た気がした。

 しかし、気付いた時には三人はもう遠くにいた。

 何だろう、三人とは、住んでいる世界が違う気がする。

「……帰ろう? コータ」

 こももがそっと後ろから言葉を投げかける。僕は何とか頷くと、その場で踵を返した。


「にゃー」

 ベッドに突っ伏していると、不意にそんな鳴き声が響き渡った。

 思わず顔を上げると、そこにはこももの姿があった。

「……え?」

「いい顔をしますね。やっぱり」

 思わず動揺した僕にこももが無表情に言う。いや、この声は……。

「アメリ……さん?」

「はい」

 ぐにゃりと姿が崩れ、そしてまた形取る。そしてその後にはいつもの凛々しい女性の姿があった。

 それを見ると、すっと心が落ち着く。そして訊ねた。

「悪戯、ですか?」

「実験ですね。面白い結果が取れたので満足しました。食事はいかがですか?」

 そう言えば、帰ってきてすぐ寝てしまったのだ。時計を見ると、もうすでに八時だ。

 机には簡単な食事が用意されていた。

「あ……すみません、用意して貰って」

「いいえ、先程までポ○モンとナ○トを見させて貰いましたから。なかなか興味深かったです」

 アメリさんの声にどこか熱が覚えている。どうやら面白かったらしい。

 僕は箸を取ってその食事を有り難く頂きながら視線をアメリさんに向けた。

 その視線に気付いてアメリさんは微笑む。

「私を見て面白い事はありませんよ」

「……ですね」

「何の感情も揺れ動きませんね」

「当たり前でしょう」

「いえ、異常です」

 アメリさんはきっぱり断言する。

「……そうなんですか」

「そうですよ」

 アメリさんはそう言うとふぅ、とため息をついた。

「……分からなくは、ないですけどね」

 何が、だろうか。

 僕は何が何だか、分からない。

 この騒動も、僕自身に起きている事も。

 それでも、今まで日常だと思っていた事が覆されようとしている事がよく分かった。

「……嫌、だな」

 環境が変わる事。それは僕が忌み嫌っていた事だ。

 今のままが、良いんだ。この環境が心地よいのだから。

 僕はベッドに寝転がりながらそう思っていると、目蓋が重たくなっていく。

 意識を手放す事は造作なかった。

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