第八話 平和な朝
~未来浮島区原生林~
「んー……」
ペガサス座を父親が作った展望台で眺めながら思わずため息をつく私。
そして、すぐにそこから滑り降りると、そこには二人の男女がのんびりとお茶を啜っていた。
「……お、こももさん、天体観測はいかがでしたか?」
「今日は少し見えづらかったですね。……それで……お探しの物の件なんですけど……」
私は少し言いにくく思いながら言った。
「すみません、昨日、あの後、お力になると言ったんですけど……図書館で調べた結果、ここで発見されている隕石はまだ発見されていないそうなんです」
「なるほど……そうですね、ありがとうございます」
キャンプ用の椅子に座る着物の男性……孔明さんはそう言うと頭を下げた。
孔明さんに出会ったあの日、孔明さんの遠回しのお願いを承諾して言われたものを探していた。
それは隕石。
時空間転送装置、というのは特殊なエネルギーを必要としているらしく、星の力というものが必要ということらしい。
ここには過去に一度、隕石が落ちたという文献がある。
それに基づいて図書館で夕方、探してみたのだが結果はどれもハズレで見つからなかった。
どうやら、発見出来ていないらしい。
その言葉を半ば予想できていたように孔明さんは涼しげな顔でお茶を啜る。
香さんは訝しげにその顔を眺めた。
「本当に何とかできるんでしょうね……?」
「ええ、もちろんです。夕方、その分の証拠を確認できましたし。……こももさん、その図書館とやらには私達でも入れるのですか?」
「え、ええ……それはもちろんですが」
「なら良いのです。明日、訪問したいと思います」
「は、はぁ……あまり不審に思われないよう気をつけて下さいよ?」
「ええ、それはもう」
孔明さんは大仰に頷いてみせると、ふと、何か気になったように眉を顰めて訊ねる。
「そう言えば、こももさん、この島に黒い生物というのは出現しますか?」
「く、黒い生物? ……ええと、海にクロウンモクラゲという珍しいクラゲがいるぐらい、でしょうか」
「了解しました。ありがとうございます」
孔明さんはそう言ってお茶をのんびり啜る。それは分かり切った運命を確信しているようで。
私は不安になって香さんを見たが、彼女は柔らかく微笑んで見せた。
「大丈夫よ。こももさん」
「大した自信ですね……」
私が呆れて言うと、香さんはん、と不思議そうに小首を傾げて見せた。
「貴方には、信じられる人、っていない?」
「……信じられる人、ですか?」
「そう、無条件に背中を任せられる人。私は……不本意だけど、このエロ軍師だったらどんな事でも任せられる」
「え……その、根拠は?」
「根拠なんてないのよ。強いて言うなら……本質が、惹かれ合っているのかしら?」
香さんはくすくすと笑うと、お茶を啜る。
私は何となく答えに困って孔明さんに視線を向けると、彼は何もかも見通したような視線で私を見つめてフフフと笑って見せた。
……この二人には、ついて行ける気がしない。
私は頭上の星空を見上げて嘆息するのであった。
~未来浮島区住宅街~
「んー」
僕は歩きながらぐっと背伸びをした。
今朝、起きるとそこにはアメリという別の妖霊がいて、レイズは暫し休みだと告げられた。
何かがあったのだろうか? 黒い塊と戦って負傷したのだろうか?
いろいろと聞きたかったが、アメリさんはテキパキと朝食の用意をして僕に有無を言わさず食べさせると学園へと追い出されたのだ。
もちろん、アメリさんは猫の姿で後ろからついてきているのだが。
少し気になって、キッチリとした足取りでついてくる猫の様子を伺った。
「……昨日何かあったんですか?」
「にゃ~」
「……襲われた、とか?」
「……にゃー」
「黒い塊、ですか?」
「なー」
「別の?」
「にゃぁー」
「……よく分からんな」
「なー」
「……明日の?」
「なーじゃ」
「いや、何で分かるんだよ」
「……それは、ちょっと、深夜アニメを見させて頂きました」
「……左様か」
なかなかこの妖霊さんは面白いな。堅苦しいけど。
「あ、すみませ~ん、よろしいでしょうか?」
暫く歩いていると、不意に声をかけられた。
見ると、一組の男女がデジカメを僕に差し出していた。
「あの、写真を撮って頂けませんか?」
「ああ……良いですよ」
カップルらしい。男は優しげな面持ちで、女性の方は清楚で美人さんだ。
僕は受け取ったデジカメを構えると、二人は仲良さそうに腕を組んで微笑みを浮かべた。
「はい、ち~ず」
海をバックに一枚。いい絵が撮れた。
「ご確認下さい」
僕はそれを返すと、男性は頭を下げて礼を言った。
「ありがとうございます。えっと、ここの学生さんですか?」
「ええ、夢空学園の学生です」
「へえぇ……じゃあ、この辺の隠れ名所みたいな所はご存じですか?」
「隠れ名所なんて……う~ん……原生林の辺りはイチャイチャするスポットが多そうですけどね」
「ははは、参考にさせて貰いますね」
僕が冗談を交えてそう言うと、男性は苦笑して見せた。
そして、女性の手を取って頭を下げる。
「では失礼しますね」
「ああ、はい、道中お気をつけて」
僕はそれを見送って……ふと思う。
「あの女性、どこかで……」
芸能人……って感じではなかったが、見覚えのある感じだった。
どこだっただろうか……?
ニュースで度々見ていた気がしたから、もしかしたらキャスターかもしれない。
小首を捻りながらも学校へと足を進めるのであった。