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第七話 真夜中の衝突

   ~未来浮島区学園~


 普段の学園はもうすでに閉じられている。

 だが、今日から五日間、一室に光が灯ることとなった。

「よし……飯が出来たぞ。今日、生け簀からくすねたサケ」

「おい……剛……」

「いーじゃん、一匹ぐらい食ってもバレやしないよ。いざとなったら先生が記憶を消してくれるし」

「記憶も消すのも、大変とか言っていなかったか? 先生は」

「う……魔力を一月分、使うって言っていたからなぁ……これから自重する」

「そうしてくれ」

 一斗缶で焚き火をしながら二人の少年は笑い合う。

 どういう訳か、床は焦げたりしない。これは二人の魔力が防御しているからだろう。

 そう、二人は魔術師なのだ。

「……で、忍、感じた、か?」

「……まぁ、な。僕もシオンも」

 剛がそう低い声で訊ねると、忍はコクンと頷いて見せた。

「あの二人……何かあるな」

「ああ」

 一斗缶で焙られるサケの切り身が、じゅっと油を落として爆ぜる。

「……詳しいのは分からないけど、何かはある。こういうのが判別出来る術があれば良いんだけど……」

「僕らはまだ未熟だからな。先生とは違って」

 くくくっと笑みを漏らす剛。それを眺めて忍は苦笑を見せた。

「そう言えば、先生は?」

「〈協力者〉と接触しているって。暫くこっちには来れないらしい」

「誰だろ。火影さん?」

「かもしれないけど、分からないな……はむはむ」

 焼き上がったサケの切り身を囓る忍。それを眺めながら剛は訊ねた。

「まぁ、それとは別に……何だか、怖くなかったか? 小太郎先輩」

「怖い? んあぁ……初対面はそうだったな。こもも先輩が来て少し和らいだ感じはあるけど」

「警戒されていたのか?」

「少し用心する……いや一般人だから……う~ん……まぁいいや……ん」

「あ」

 不意に身体を強張らせる二人。

 心なしか、一斗缶の炎が揺らめいた気がした。

「出たね」

「出たな」

 二人は言葉を交わすと、同時に荷物に手を伸ばす。そしてその中から長細い何かを抜いた。

 剣だ。二人とも立派な剣を持ち合わせている。

「……討伐するか」

「やれやれ、『面白いのが出る合宿』っていうのはこういうことだったんだな」

「強いんだろうね、きっと」

「ああ、楽しみだ」

 そして、二人は意気揚々と部屋を後にするのであった。

 その剣を携えて。


   ~未来浮島区住宅街~


 闇夜の中、二人の青年が疾駆していく。

 住宅地には人の気配はない。

 だが、二人の鋭敏な感覚はこの空間に不穏なものが立ち込めているのを感じ取っていた。

「……魔力……にしてはどす黒いな……」

「どろどろしている何か……くっ!」

 隆史は反射的にその場で飛び跳ねると腰から刀を抜いて投擲する。

 それは一直線に彼の足があった場所に吸い込まれる、それと同時に黒い塊が現れてそれが串刺しになった。

「これが……あれか?」

「ああ、そうだな……」

 黒い塊はどろりと溶け出して地面に吸い込まれていく。

 それを確認してから隆史はそこに歩み寄って刀を回収した。

「……レイズ、どう見る?」

「陰の魔力だな。だが……魔界よりも深い、もはや腐界の魔力だな」

「腐界? そんなのがあるのか?」

「俺達、悪魔の暮らす魔界よりもどす黒い空間があるのは確認出来ている。多分、それだろ」

「つまり、得体の知れない世界と、ここが繋がっている……?」

「多分、な」

 レイズはそう言うと、視線を辺りに走らせた。

「他に気配は……しないな」

「いや……一つ気配が……いや、三つ?」

「いずれにせよ……何かが、来るっ!」

 隆史とレイズはその瞬間、その場から飛び退いて左右に分かれた。

 その瞬間、何かが滑るように突っ込んできた。

「……む……」

 隆史はそれを視界に収めて顔を顰める。色こそは違うが、突っ込んできたのは、液体状のものだ。

 もしや、黒い塊と何か関わりがあるかも知れない。

 と隆史が思った瞬間、それは蠢くと、人の形を整形して隆史の方に視線を向けた。

「……貴方は?」

 その声は若い青年の声のようだ。落ち着いている。

「名乗るなら、自分から名乗りやがれ」

 レイズが隆史を庇うように進み出る。すると、それは肩を竦めて見せた。

「エビシ。仮の名だけどね」

「ほう? ……俺はレイズ。先程の黒い塊と何か関与があるのか?」

「黒い塊? 何それ」

「……スライム状の何かだ。よく得体が知れんが、こいつを襲ってくるものでね」

 レイズは隆史を指差して言う。エビシは小首を傾げて言った。

「確かにスライムは僕に関わりはない訳ではないけど……」

「ふん、なるほど……魔物か」

 レイズが正体を確信したように言う。すると、エビシは困ったように苦笑を浮かべた。

「それで? もしそうだとしたらどうするんだ?」

「それはもちろん、狩る」

 黒い塊同様、人に危害を与えるのであれば、妖魔会は狩りに動く。それに従って隆史は滑らかに刀を構える。そして地を蹴った。

 一瞬で瞳が真紅に染まる。

 それと同時に肉迫、刃がエビシの肩からざっくりと彼を真っ二つにした。

 エビシの目が驚愕で見開かれる。

 が、その瞬間、彼の身体が一瞬で液状化して隆史に巻き付いた。

「ぐっ……その目、鬼神か」

 先程の声とは違う、老成した低い声が隆史に降りかかった。それと同時にぐっと隆史の身体を拘束する。

「う……ご名答……よく知っているな」

 隆史が呻き声混じりに言うと、エビシはふっと笑みを漏らした。

「これでも長くスライムをやっているからな……」

「だけどな……一つ言いたいことがあるんだ」

「何だ?」

 ふっと隆史が笑む。それと同時に彼の輪郭がぶれ……そして、別の青年、レイズの顔がそこにはあった。


「これだから馬鹿は嫌いなんだ!」


 青年が燃え上がり、一気に爆ぜた。

 その爆発にエビシは爆散し、その身体を散らせる。

 が、すぐに一つへと凝縮して、罵声を上げた。

「このくそ野郎がっ! いきなり攻撃しやがって!」

 今度は若い男……しかし、血気走ったような声だ。興奮している。

「だったら俺にも考えがあるぞぉ……良いのかぁ……?」

 そして、エビシはそう言うと同時に腰を下ろした構えを取る。そして、手を合わせて念を込めた。

「はああああぁぁぁぁぁっ!」

「むっ……」

 何かがある。咄嗟に距離を取る。魔力も何もないが、気迫だけは凄い。

 そして、エビシはぐっと拳を握ると構えを取った。

「喰らえっ! 昇竜波!」

「ふっ!」

 そして拳を突き出される。

 隆史は両腕をクロスして衝撃に耐えようとする。

「……ん?」

 しかし、何も起こらない。

 油断せず、隆史は脇のレイズに視線を向ける。彼も戸惑った視線を返すだけだ。

「ふふふ……」

 ただ、エビシは笑っている。

 何かを企んでいるかのように。

「あれ……あいつ……あんな小さかったか?」

 レイズがぼそっと呟いた言葉に、隆史の視線はエビシに向けられた。

 そう言えば、先程より一回りも二回りも小さい。

 その瞬間、隆史の脳裏に電光が迸った。


 スライム状、三種類の声、小さくなった身体。


「レイズ、退散せよ!」

 隆史が叫んだ時に事が起こった。

 地面が割れ、触手が飛び出る。

 見る間に、隆史とレイズはその場で触手に縛り付けられた。

 否、触手ではない。

 スライム状の何か、だ。

「……くっ、そういうことか……。三体が一体になっているんだな」

「ご名答。僕はスライムAことエー。あっちで陽動がかけたのがスライムBことビー、で、あっちはスライムCことシーだよ」

 隆史を縛り付けるスライムが蠢く。

「さて……何でこんな所に召喚術師なんているのかな……? もしかして、隠しダンジョンを見つけて?」

「隠しダンジョン? 何の事だ?」

「惚けない方が、身のためだぞ」

 レイズを縛っているスライムが低い声で言う。

 その瞬間、ぐっとレイズが締め付けられる。

「ぐっ……これ冗談なく厳し……ぐうぅっ……!」

「レイズ……変化しろっ!」

「無理だっ! 締め付けが厳しすぎて魔力を維持するのがやっと……っ!」

「くっ……!」

 侮った、と隆史は後悔する。

(雷鬼の力に頼りすぎて自分の無力を忘れていた……!)

 どうにかせねば、二人ともやられる。

 しかしその手段が思い付かない隆史は焦って口を開く。

 その瞬間、バッと身体を拘束するスライムが散開した。

 それと同時にバンッと閃光が走る。

「くっ……ここまで術を使う奴が出てくるとは不利だっ……退くぞっ、ビー!」

「あ、あいつらは!?」

「安心しろ、楔は打った!」

「撤退だ!」

 三体のスライムはすぐに結合して、その場からすぐに姿を眩ます。

 隆史は頭を振りながらそれを見送り、閃光が走った方向を見る。しかし、誰もいない。

 仕方なしにレイズの方へと顔を向ける。そこには全身で息をする青年の姿。

「大丈夫か? レイズ」

「……まぁ、大丈夫、ではないな……魔力が一気に減衰しやがった……あのスライム、意外に聡明だぞ……」

「魔界に戻るか?」

「……そうしてくれ」

 隆史はためらいがちに解放の呪文を唱え、レイズが消失するのを確認してから視線を空に向けた。


「何なんだ、この島は……」

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