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第二話 不意の襲撃者

   ~未来浮島区住宅地~


「くっ……何なんだっ、こいつらは……」

 僕は拾った鉄パイプは片手に袋小路まで追い込まれていた。

 その目の前には、じりじりと近付く黒い人影がある。それも一人ではない……多数だ。

「くそったれ……帰宅途中にこんなのに出くわすとは……てか何者だよ! こももは出くわしてないと良いんだが……っ!」

 僕の声と共に威嚇するように鉄パイプを突き出す。だが、黒い人影はじりじりと物怖じせず接近してくる。

 そして間近まで近付いて、僕は気付いた。

 これはマントなんかで身を隠しているのではない……純粋に、黒い。黒い塊なのだ。

「く……うらぁっ!」

 接近してきた塊を鉄パイプで薙ぎ倒す。

 それは吹き飛ばされて建物の壁にぶつかる。だが、すぐに立て直して僕に接近してきた。

 手のような何かを突きだして、よろよろと。

 それに思わず、僕は恐怖を越えた空虚のような感情を覚えた。


 何もない。

 怖い。

 存在しない。

 怖い。

 ありもしない。

 怖い。

 僕は、いない。


「く……来るなぁ……! 誰かっ、誰かあああぁっ!」

 半狂乱になり、腹の奥から言葉が零れでる。

 しかし、その言葉はむなしくどこかへ消え去り、その塊は僕に向かって飛びかかった。


 その瞬間、ぎゅん、という音が、頭の中から響いた。

 何かが回転する音。いや、違う。


 何かが、存在する音だ。


 そう漠然と考えた瞬間、目の前の黒い塊は消え去り、その代わり、はためく布が存在した。

「……大丈夫かい?」

 そして、その布が翻ると、そこには優しげな顔の青年が立っていた。

 僕は思わずそれを見つめ返し……そして、コクコクと頷く。

 そうとしか出来なかった。

 しかし、その青年からしたらそれで充分だったようだ。

「待っていて。すぐ片づける」

 優しい声と共にその瞳の色が変わる。真紅の……深い、赤に。

「は……?」

 思わず惚けた声が出る。

 その瞬間には、目の前から青年は消えていた。

 頬に何かが当たる感触がして我に返ると、青年は近くにいた黒い塊を殴り飛ばしていた。

 え……今、ここから……あそこに?

 にわかに信じられず、瞬きをする。その瞬間、視界から彼は消え去り、空が裂ける音と凄まじい破壊音が響き渡った。

 そちらに視線を向けると今度は右手の黒い塊に青年が蹴りを叩き込んでいる。

 早い、早すぎるのだ。

 僕はそこでようやく気付いた。

 彼はどうやってかは知らないが、高速で移動して圧倒的な力で黒い塊を倒している。

 その破壊力に、黒い塊はぐしゃりと潰れて液状化している。

「す、すげえ……」

 その言葉が紡がれる。

 そのときにはもうすでに、辺りは黒い液体の海になっていた。


「さて……大丈夫か? 少年」

 ようやく片づいた、とばかりに黒い液体を全身に浴びた青年は僕の元に歩み寄ると、手を差し伸べた。

 僕は思わず尊敬の視線で彼を見ながら、その手を握って立ち上がる。

「あの……貴方は?」

「あ、僕? 僕は安倍隆史。妖魔会という所の人間なんだけれども」

「ヨウマカイ?」

 聞き慣れない単語に小首を傾げる。

 すると、安倍隆史さんは気にしなくて良い、と首を振った。

「それで君は?」

「あ、僕は……佐藤小太郎と言います」

「小太郎……日本人、ということは、ここは日本で良いのかな?」

「え……ああ、はい」

「良かったぁ……上手く日本には到着出来ていたのか……いや、良かった良かった」

 一人で隆史さんはコクコクと頷いている。いや、どういうことだ?

 僕は一人ついて行けず、ただ単純に訊ねた。

「えっと……隆史さんはどこから?」

「ん、フランスから船でね。だけど、その船が事故で沈んだものだから泳いでここまで来た。日本にはたどり着けたみたいで嬉しいよ」

 隆史さんはニコニコと微笑むと、コキコキと首を鳴らした。

「まぁ、ライラも大丈夫だろうし……っと、そう言えば、小太郎くん、何でこんな物騒な物の怪に追われていたの? 友鬼道の恨みでも買うようなことでもしたん?」

「ユウキドウ……? いえ……というか、これ、物の怪なんですか?」

「まぁ、陰の魔力の塊だからそうだろうね」

 隆史さんはそう言いながら、行こうか、と告げて先導して歩き出す。僕は慌ててついていきながら訊ね返した。

「陰の魔力って何ですかっ?」

「ん、知らないのか。大雑把に説明すると、人間が持っている生命力、魔力の事を陽の魔力といって、逆に悪魔とか物の怪とかそういうのが持っている魔力を陰の魔力っていうの」

「は、はぁ……」

 え、この人ってもしかして中二病?

 にわかに脳がついていかず、僕は戸惑いながらも彼の後ろを歩いていく。

 やがて住宅地を抜け、海へと出た。

「ああ……海だね。そう言えば、ここって日本のどこ? 下総の方? あ、もしかして蝦夷の方まで流れていっちゃった?」

「……へ?」

 下総、蝦夷、なんて江戸時代の言い方じゃあるまいし。

 僕は思わず拍子抜けした声を出してしまったが、気を取り直して告げる。

「ここは……えっと、東京の遙か南の人工浮島区、通称、ドリームです」

「東京……ああ、江戸か。参ったな。そんな所まで流れたのか……」

 隆史はポリポリと頬を掻きながらとっくに真っ暗になった海を見渡してため息をついた。

「仕方ない、今日は宿を取るか……。明日の朝には幕府の検閲を通って江戸に入りたかったんだが」

「は? 幕府? 江戸?」

 何を言っているのだろうか? この人は。

 というか、服装もマント姿とえらく古風だし……。

 すると、くいっと眉を吊り上げて隆史は僕に視線を向けた。

「あれ? ああ、そうか、今の時代は明治政府……だったかな?」

「え……いや、もう明治じゃありませんし、大正でも昭和でも平成でも、ましてや阿安時代でもありませんよ?」

「……は?」

「今はええと……帝聖時代、なんですけど……」

 何だろう、ひどく当たり前のことを話しているのに、隆史さんは『何この子変な事話しているんだろう』という目で見られてひどく自分の観点があっているか心配になってくる。

 隆史さんはぽんぽん、と頭を叩いてその場でぐるぐる回り出した。

 そしてふと、何か思い付いたようにポンと手を叩いて改めて僕を見た。

「小太郎くん、とりあえず、宿を取りたいのだが手頃な場所はあるかな? いや、野宿出来る場所で構わない。金を一切持ち合わせていないのでね」

「え……野宿、するんですか?」

 中二病かどうかはまだしもとして、恩人を野宿させるのは気が引けた。

 仕方なしに、僕は一つ提案をする。


「僕の家に泊まりますか?」

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