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次の日、7月23日の朝。
ぼくとリョータ、ナツミそしてミナの4人は、再び水浪山の前に集まっていた。
ぼくとリョータは塾の夏期講習をサボって来てる。あとでこっぴどくしかられるだろうけど、しょうがない。だって今日は特別だ。
昨日の夜は、なんと3ヶ月ぶりにこの辺りにまとまった雨が降った。雨は夜の間中ずっと降り続いていて、水不足はかなり改善されたらしい。
もちろん、魂代が祭壇に戻ってタケハヤさまが力を取り戻したからなんだけど、それを知ってるのはぼくたち4人だけだ。ぼくたちはそれを誰にも言わなかった。言ったって信じてもらえるとは思えないし、ぼくたちだけの秘密って言うのはなんだか気分がいい。リョータは、ミナがお母さんに話しちゃわないようにするのにだいぶ気を使ったみたいだけど。
そして今日、どうしてぼくたちがここに集まっているのかというと、タケハヤさまと約束したからだ。
魂代を祭壇に戻して力を取り戻したタケハヤさまは、ぼくたちにすごく感謝してくれて、こう言ったんだ。
『本当に感謝している。お礼の代わりにといっては何だが、明日の朝またここに来るといい。そのときには我の真実の姿を見せられるだろう』
声だけしか聞いたことがない、タケハヤさまの「真実の姿」だなんて、見たくないわけがなかった。
そういうわけでぼくたちは、朝早くからここに集まったってわけ。
昨日の夜の大雨がうそみたいに、今日はとてもいい天気だ。これもきっと、タケハヤさまの計らいなんだろうな。
暑さはもしかしたら昨日以上かもしれないけど、わくわくしてるぼくたちには、そんなことは気にならない。ミナでさえ、今日は一言も文句を言ったりしないんだ。
自転車を山の入口に置いて、ぼくたち四人は足取りも軽く山の中に入っていく。
「ねぇ、聞こえる?」
ぼくが興奮した声で、みんなに聞く。顔がにやけてくるのが抑えられない。
「ああ、聞こえるぜ」
「うん。聞こえる聞こえる」
「すっごい音〜」
三人も、顔をほころばせながら答える。
山の奥に入っていくにつれて聞こえてくる、ごうごうという音。
それは紛れもなく、滝の音だった。
ついに滝が見られるんだ!
気がはやるぼくたちは、前に来たときの倍くらいのスピードで、山をかき分けていく。ミナもナツミに手を引いてもらいながら、しっかりと付いてくる。
ぼくらの目の前の、森が開けた。
「すごい!」
「かっこいー!」
ぼくとリョータが、同時に声を上げた。
「きれい……」
「わー、たきだー!」
ナツミとミナも歓声を上げる。
そそり立つ岩壁を伝って、天から一直線に流れ落ちる、一本の水の柱。
それはさながら、その長い身体をくねらせて天空を目指す、白い龍。
力強くて優しく、美しくて雄大。
飛び散る水しぶきが、体にまとわりつく熱気を吹き飛ばし、清浄な風を運んでくる。
滝は、太陽の光を受けてきらきらとさまざまな色に輝いていて、しぶきが生み出した靄の中には、七色の小さな虹が浮かんでいた。
ぼくたちは同時に理解した。
この滝こそが、水浪山とぼくらの町を護る水の神にして龍神、タケハヤさまの真実の姿なんだってこと。
歓声を上げて見とれるぼくたちの姿にこたえるように、タケハヤさまの優しい笑い声が、雄大な滝の音に混じって聞こえたような気がした。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
タツヤたちの小さな冒険が、あなたの心をわずかでもわくわくさせたならこれに勝る喜びはありません。