スーパー赤ちゃん、YouTuberになる
事件は、パパの一言から始まった。
「これ、バズるんじゃない?」
ママがゆっくり振り向く。
「なにが?」
パパはスマホを構えている。
その先にいるのは――
ハル(1歳)、オムツ姿。
ヨーグルトまみれ。
顔面ほぼ白。
「見てこの顔!天才的!」
ハル、スプーンを持つ。
そして。
なぜか自分の頭に塗る。
べちゃ。
パパ、爆笑。
「ほら!今の今の!」
ママ。
「拭いてから言って」
◇
夜。
パパは真顔で編集していた。
「タイトルどうする?」
ママは洗濯をたたみながら言う。
「やらないって選択肢は?」
「ない」
即答。
そして投稿された動画。
【1歳、ヨーグルトを理解していない】
再生数:12。
翌朝。
再生数:14。
「増えてる!」
誤差だ。
◇
その日の夕方。
事件が起きる。
ハルが突然、カメラを見て言った。
「ぱぱ」
完璧なカメラ目線。
間。
そしてニヤリ。
パパ、固まる。
「今の撮れた?」
撮れている。
投稿。
【1歳、完全に分かってる顔】
翌朝。
再生数:8,200。
「え?」
パパ震える。
「え?」
ママも見る。
「え?」
コメント欄。
“このニヤリやばい”
“将来有望”
“うちの子もこれやる”
パパの目が輝く。
「来た」
来てない。
◇
三日後。
フォロワー3,000。
パパが言う。
「企画考えよう」
ホワイトボード登場。
・ドッキリ
・検証
・泣き声ASMR(ママ却下)
ハルは床で積み木を食べている。
◇
撮影開始。
「はいハル〜今日はパパが消えまーす!」
パパ、テーブルの下へ。
ハル、無視。
積み木をなめる。
パパ、テーブル下でささやく。
「いないよ〜?」
ハル、積み木を投げる。
撮影終了。
再生数:97。
コメント。
“前のほうが自然で好き”
パパ、沈む。
「演出が強いのか…」
◇
その夜。
ハルが転ぶ。
「ばっ」
すぐ泣く。
ママが抱き上げる。
パパ、カメラを構える。
ママ、止める。
「やめて」
静かに。
「これは撮らなくていい」
パパ、止まる。
ハルは泣きながらママに顔をうずめる。
カメラ越しじゃない。
ただの家族の時間。
パパはスマホを下ろす。
少し黙る。
そして言う。
「さっきの動画さ」
「うん」
「バズったの、ハルがすごいんじゃなくて」
間。
「俺らが、ただ笑ってたからだな」
ママ、ふっと笑う。
「うん」
◇
翌日。
パパは投稿した。
【今日は投稿なし。家族会議中】
コメント欄。
“無理しないで”
“家族優先で”
“それがいちばん素敵”
パパ、うなずく。
「このコメントの方が泣ける」
ハルは何も知らずに言う。
「ぱぱ」
パパは抱き上げる。
カメラは回っていない。
それでも。
今がいちばん、バズっている気がした。
◇
僕は一歳。
カメラがあってもなくても、
泣くし、笑う。
世界はたまに光るけど、
抱っこはいつも同じ。
スーパースターにはなれなくてもいい。
ちゃんと赤ちゃんでいられれば。
それで十分。




