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できると思って、やっぱり赤ちゃん  作者: 臥亜


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11/11

それでも、ちゃんと赤ちゃん

春がきていた。

 ハルは少しだけ大きくなった。

 走る、というより突進する。

 言葉は増えた。

「ねぇね」

「ぱぱ」

「まま」

「いや」

 最後のやつがいちばん多い。

 ◇

 今日は公園。

 ミオはブランコに乗っている。

 前より高くこげるようになった。

 パパが言う。

「すごいじゃん」

 ミオは笑う。

「でしょ」

 ハルは砂場。

 砂をすくっては落とす。

 すくっては落とす。

 それだけなのに、真剣。

 ママがつぶやく。

「なんであんなに集中できるんだろ」

 パパ。

「世界が初めてだからだろ」

 ◇

 帰り道。

 ハルが転ぶ。

 前より派手に。

 でも、泣かない。

 立ち上がる。

 少しだけ、顔をしかめる。

 ママが手を伸ばす。

 ハルは見る。

 一瞬だけ迷う。

 そして、自分で歩く。

 パパが小さく言う。

「強くなったな」

 ミオが言う。

「もうスーパー赤ちゃんじゃん」

 ハル、振り返る。

「すーぱー?」

 違う。

 たぶん違う。

 ◇

 夜。

 寝かしつけ。

 今日は静かだ。

 ハルはパパの胸に耳を当てる。

 どくん。

 どくん。

 少しだけ、ゆっくりになった。

 パパがささやく。

「大きくなるなよ」

 ママが笑う。

「無理」

 ミオが布団から言う。

「大きくなっても赤ちゃんだよ」

 ハルは目を閉じかけながら言う。

「ねぇね」

 ミオが小さく答える。

「なに」

「すき」

 暗闇で、ミオは笑う。

「知ってる」

 ◇

 できることは増えた。

 泣く回数は少し減った。

 でも。

 眠るときは、まだ抱っこ。

 怖いときは、まだママ。

 嬉しいときは、まだパパに見せる。

 世界は少しずつ広がる。

 でも。

 家族の半径は、まだ同じ。

 ◇

 ハルは一歳。

 なんでもできるように見えて、

 まだできないことだらけ。

 強そうに見えて、

 すぐ泣く。

 前に進めるようになっても、

 振り返る。

 ちゃんと確認する。

 そこに、いるかどうか。

 パパも。

 ママも。

 ミオも。

 いる。

 ちゃんといる。

 だから眠れる。

 ◇

 春の夜。

 家族四人分の寝息が重なる。

 今日も世界は平和だ。

 スーパーじゃなくていい。

 完璧じゃなくていい。

 できることが増えても、

 できないことが減っても、

 それでもきみは――

 ちゃんと赤ちゃんだ。

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