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第十五章「最後の選択」

「神谷くん、今回のプレゼン、本当に見事だったよ」


「川島くんとのコンビ、完璧だったな」


「次の案件、ぜひ二人にお願いしたい」


社内の廊下を歩くたび、そんな声が耳に届く。

数ヶ月前まで、誰も目を合わせようとしなかった空気が――今は違う。

すれ違う人が笑顔で声をかけ、潤に視線を向ける。


その光景は、かつて“選択肢”によって手に入れた成功とは全く違うものだった。

あの時は、選んだ結果が“与えられて”いた。

今は、自分の足で掴んだ“居場所”が、ここにある。



優と潤が担当した大型案件は、正式に契約が締結された。

社内では異例のスピードで承認が下り、経営陣からも評価が集まる。


「先輩、出世街道まっしぐらじゃないですか!」


軽口を叩く後輩に、潤は照れくさそうに肩をすくめた。


「そんな大層なもんじゃねぇよ」


優もいつもの穏やかな笑みを浮かべ、横に並んでいた。

かつての二人とはまるで違う。

今は、互いを支え合う対等なパートナーとして、社内の信頼を築いている。



しかし――その日の帰り道。

駅へと続く歩道橋の上で、潤は“あの日”と同じ白い光を見た。


【A】この成功を守る

【B】優と共に進み続ける

【C】全てを手放す


いつものように柔らかく輝いているわけではなかった。

パネルは黒と白がせめぎ合うように揺らぎ、空気に重い緊張感を漂わせていた。

ただの選択肢じゃない。

これは――あの時の“始まり”と同じ、いや、それ以上の“何か”だった。


「……なんだよ、今さら」


潤は息を呑んだ。

今の自分には、もうこの選択肢なんて必要ないはずだった。

自分で考え、決めて、歩き出した。

それでも、目の前に現れたのは――まるで「本当の意味」を問うような最後の試練だった。



【A】この成功を守る


――このまま現状を維持する道。

安全で、何も失わない。

だけど、それは選択肢に縛られることと同じじゃないのか?


【B】優と共に進み続ける


――共に歩む道。

選択肢ではなく、自分の意志で踏み出す未来。

でも、それは“未知”の連続だ。


【C】全てを手放す


――最初に戻る道。

選択肢も、優との絆も、今築いたもの全てを失い、ゼロに戻る。

何故そんな選択肢があるのか――潤にはわからなかった。



歩道橋に吹く風が、夜の街の騒めきを運んでくる。

冷たい風が頬を撫でるたびに、胸の奥が騒ついた。


あの日、選択肢が初めて現れた夜。

自分は無力だった。

選ぶことが“救い”だった。


今、目の前にあるこの選択肢は――自分が“誰になるか”を問うている。


「……俺は、もう……」


潤は拳を強く握った。

以前のようにパネルに導かれるのではなく、今度は――自分の意志で、選びにいく。


「俺は……もう、逃げない」


視線が、自然と【B】に吸い寄せられる。

選んだ瞬間、これまでとは違う、深く温かい光が潤の身体を包み込んだ。

柔らかく、けれど確かな光。


選択肢が導くのではない。

潤の選択に、光が応えたのだった。


潤はいつもと同じ帰り道を歩きながら、小さく笑った。選択肢は消えた。

まるで「もう、お前の道はお前のものだ」と言い残すように。


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