悪魔との賭け
「あなたの魂一つでそんな賭け事は出来ませんねぇ」
呼び出された悪魔は自身を呼び出した壮年の男に対してそう言った。
男はそれでは、と条件をさらに足す。
「私が負けたのなら私の魂だけではなく妻に子供、親類縁者すべての魂も一緒に持って行って良い。この条件ではどうだ?」
「ほう! 大きく出ましたね。私はそれで構いませんが、あなた、悪魔を少々甘く見てないですか?」
しかし悪魔の言葉に関わらず男はその条件を翻すことはしなかった。
そうして契約を交わした悪魔はそれでは、と慇懃に礼をした。
「これより私はあなたの召使いです。どのような願いでも叶えて差し上げましょう。あなたの口から直接『満足した』という言葉を聞くまでは、でございますが」
つまりはそういう賭けである。悪魔はこの男に仕えて「満足」という言葉を引き出す。男はその言葉を口にしないように注意深く生きていかなければならない。
悪魔はこの賭けに勝つ自信があった。悪魔が世話をすればこの男はあと四十年は生きるだろう。それだけの時間があれば、一度くらいはその言葉を言うに決まっている。
しかもこの男はかなり女遊びが激しく、子供も数多くいるのだ。その魂が一気に手に入るのならば四十年くらいは喜んで捧げてやろうじゃないか。
悪魔らしくニヤニヤとした嫌らしい笑みを浮かべる悪魔に対して、主人となった男は最初の命令を下した。
「では、私の声帯を取り除いてくれ」




