この師あって、この弟子あり
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
小賢しいなぁと私も嗤うと思います。
でも嫌いじゃない。
僕の面倒を見てくれるのは、とてもマメで頭の回る人だった。よく人が考え付かない方法で解を導き出し、提案してくれる。でも、とても残念な事に、彼女の口癖は最初からこれだった。
「私、三流出身なんで。もっと教え方上手い人居るならそっちに行きな」
其れを何時も揶揄う様に、特段気にして無いように言うのだ。でも此方としては、お世話になっているのは本当だし、頭が回ると思ってる。
「そんなの、気にする事ないですよ。頭回るじゃないですか」
そう言うと、殊更ニヤッと笑った。その後、お菓子を与え、『死ぬまでそんな子でいて欲しい』という謎な励ましをした。
ある時彼女の面倒を見ていた先輩と話をする事になった。持ち場は違うけれど、時折彼女と楽しそうにしているのを見ていると、今でも関係は良好な様だった。
彼は彼女と良く似た笑顔を浮かべ、世間話をする。
「あの子は元気?」
「はい。何時も元気ですよ。ご存知かと思いますが、口癖は『私、三流出身なもんで』ですけど」
あの口癖、一体何時から使ってるんだろ。もしかしてこの方と一緒に行動していた時から?
そんな事を考えていると、彼は『あぁ』と手を打った。
「あれね、彼女の試し行動。相手が褒めてきたとき、どんな輩か確かめる為のジャブだよ。褒めた後に『三流なんですよ』って言って、見下す様なら『此奴は肩書きしか見ない』。否定する様なら『心の優しい人間』、肩書きで見ないって事ね。そしてもう一つ。これは彼女にとって一番大切な反応なんだけど、相手が怒った場合」
指をくるくると立たせながら手短に解説を受ける。あぁ、だから僕が否定した時、あんな言葉を掛けたのか。『優しい人間』と認めたから、『肩書きで見ない』の感じたから。でも最後の怒りとはなんだろう?
「『君はその反応で人の善し悪しを謀っているんだろう? そうやって人を試す行動は不愉快だ。小賢しいからやめた方が良いよ』この言葉で返した人間は、彼女が生涯を掛けて着いていく相手。深深と頭を下げて『ご享受願います』と敬う相手」
その時に目を見開いた。きっと多くの人間は前の二つの選択を行うだろう。嘲るか、憐れむか。けれどもその真理に辿り着けるのは、きっと極小数だ。
頭の回る、あの人らしいやり方だった。
「でもなんでそんなに詳しいんですか?」
「その発言したのが私だから。そうして『頭良いんですね。信用出来ます』と言われたから」
オチが凄い。けれども、べろっと舌先を出して、悪戯っ子の様な顔でウインクする様は、彼女とよく似ていた。この師あって、あの弟子あり。そう思った。
相手の距離を観察して見るのではなく、初っ端の鎌掛けとして使うのが『小賢しい』という意味。
『そうやって人を試す行動はあまり良い気持ちはしない』から怒ってるんですよ。
『中身を見ないで、肩書きだけ気にする輩と一緒だ。人となり見てればそんなの必要ねぇだろ!!』
と師匠も弟子も思ってます。
でも理には適っているかなと。
肩書きでしか見ない人はそれが全てですし、そうじゃない人はそうじゃないし。
ちなみにそうやって頭を下げたのは、自分が欲しかった回答だったから。
『小賢しい』と思いながらもやってしまう、罪悪もありそうですがね。
でも他の人にこれされてブチ切れるの、厳禁ですよ。かなり諸刃の剣です。