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~二つの魂(1)~

 会議室の扉を開け、今後の組織について会議へと参加するヨセフカ

 メリッサ同じく、彼女の傍にいてくれる”ヘンリック”や”ウルバンド”から現在の組織の状況を聞いたヨセフカは、今後の自分の立場について決断を迫られることになる

 メリッサと共に会議室の扉の前に到着した私は、会議室の扉を開け、会議への参加メンバーと対面した


 「おはようございます、お嬢様。今日も凛々しいお姿を拝見できて光栄です」


 最初に挨拶してきたのは”ヘンリック”だった

 会議室の右側の席に座って待っていた彼は、私の入室に気付くと同時に立ち上がり、私に向かって礼儀正しく挨拶をしてくれた


 「おはよう、ヨセフカ」


 続いて立ち上がったのはウルバンドだった

 立ち上がった彼の挨拶は、ヘンリックほど礼儀正しいものではなかったけど、剣術の指南役として指導してくれている彼とは、これくらいの距離間の方がしっくりくる

 正直、身分の高い者として周りに扱われることや服装については未だにむず痒さを覚える


 少しずつ慣れてはきたけど、私にとって皆は家族。堅苦しい関係よりも、もっと気さくな関係の方が違和感なく生活できるのだけど…………


 「おはよう、ヘンリック。それに、ウルバンドも今日はありがとう」


 軽い会釈をしてくれたウルバンドは、自分が座っていた左側の席に再び腰を下ろした


 「ウルバンド!お嬢様への態度はもっと改めるべきだと言ったのを忘れたのか!?」


 「俺は堅苦しいのが苦手だと前にも言ったろ?それに、他でもないヨセフカ自身がこうして欲しいと望んだことだ。別に構わないだろ?」


 また始まった

 ヘンリックとウルバンドは、いつもこうして私への態度について揉めている。私は今のウルバンドとの距離感が落ち着くというのに、私の立場は決して軽いものではならないと言って聞かないためだ


 「おやめください二人とも!お嬢様の御前なのですよ?少しは自重なさってください!」


 「し、しかし!」


 食い下がるヘンリックに獣のような眼光を飛ばしたメリッサは、すぐさま彼に言い放った


 「この時間は会議のために設けられたものでず。お嬢様の時間を無駄になさるおつもりですか?」


 鋭い眼光と冷たくも重い言葉に気おされた彼は、そのまま席へと座り、静かになった

 普段は温厚なメリッサだが、私のこととなると今回のような表情を見せることもある。私のために怒ってくれているのは分かるのだが、その怒りっぷりは、見ている私でさえ背筋が寒くなる


 「失礼いたしました、お嬢様。こちらへどうぞ」


 私は会議室の奥中央の席に案内され、腰を下ろした。メリッサはそんな私のすぐ後ろに下がり、いよいよ会議が始まった。


 「…………それでは、今日の会議を始めさせて頂きます」


 一呼吸置いた後、ヘンリックはいつものように会議の司会進行役を務め始めた。


 「今回の議題は2つ。1つ目は、今後の領民の維持・管理の方針。2つ目は、南東部地域の今後の対応についてです」


 「昨日の資料から、現在の領民の組織参加率、領民の各地への分布率、そして、領地全体の財政状況について確認させてもらったわ。ウルバンド、各地の自警団の状況について、あなたの”主観的”意見を聞かせてくれる?」


 自警団の活動報告や装備の供給率、育成状況、陣容の推移についての情報は、昨日までで届いていた資料から把握していた

 しかし、実際の戦場で長年に渡って活動してきた彼の主観は、時として書面上にまとめられた情報以上の価値がある。それを理解していた私は、客観的な意見ではなく、あくまで、彼の”主観”に基づく意見を求めた


 「人員の数は今の調子で増えていけば問題ないだろう。装備の生産や供給の体制も、俺がいた時の騎士団よりも充実している。だが、戦闘力の面で言うなら、まだ赤子のように貧弱だ」


 「それは”魔族”相手を想定した場合の話?」


 「人間相手なら問題ない。だが、奴らを相手にするには、あらゆる面において不足だ」


 予想はしていた

 今の自警団は、あくまで人間同士の問題の解決に主眼を置いている。もちろん、魔族たちの相手を想定した準備を何も進めていないわけではないが、不十分なのではないかという不安もあった

 戦場で長年に渡って実戦を経験してきた彼の意見を聞いてみて改めて確信した

 

 南東部地域の問題解決の方法は、やはり1つだけのようね…………


 「正直に答えて欲しいのだけど、現在の練成状態からみて、今の自警団が魔族相手に対抗できるようになるまで、どのくらいの歳月が必要だと思う?」


 「万全を期すなら”6年”、被害を込みで行くとしても”あと2年”は必要だ」


 「そう…………」


 「ウルバンド、いくら何でも長く見積もりすぎではないか?」


 年単位という歳月に納得しきれない様子のヘンリックは、ウルバンドに向かって苦言を呈した


 「奴らの戦闘能力を知らないからそんなことが言えるんだ。俺の様に三英雄の傍で戦った騎士団以外は、ほとんどが酷い有様だ。俺の団でさえ、結成当時から解散までの間で、半分は死んだか、戦闘によって不能者だ」


 「……………………」


 想像以上の惨状に、流石の彼も絶句していた


 「奴らと戦うなら、最低でも魔力による身体強化が必須だ。魔法が使用できる者でようやく対等か、それに迫る程度のものだ。言っておくが、これは中型や大型の魔族を含めない場合の話だ。魔将や魔神に関しては、”普通”の人間では束になっても無駄だ」


 メリッサもヘンリックと同じように暗く沈黙していた。でも、彼女は私の方を見ていた。おそらく、今の彼女がこんな顔をしているのは、魔族への恐怖からではなく、”私”がこれから何を言おうとしてるのかを察していたからだと、後の私は思った


 「ヘンリック、南東地域での再入植の拠点になっている都市があったわよね?」


 「復興都市”ガルム”のことでございますね?」


 復興都市”ガルム”

 南東地域の復興・再入植の基盤とするために、戦闘によって廃墟となっていた場所を改装した都市

 そこには多くの資材や食料が集まり、今では、南東部地域の経済や復興事業の生命線として機能している重要拠点だ


 「私を含め、数人の使用人の皆が住むための場所を確保して頂戴。出発は3週間後とします」


 「お嬢様!」


 その時のメリッサは、ひきつるような声で私を呼んだ


 「メリッサ、心配なのはわかるけど、今はこれが”最善”なの……………………」

 「し、しかし!」


 「メリッサ、お前の気持ちも分かる。だが、今のヨセフカはお前の思っているよりも強いんだ。それに……………………」


 ウルバンドが口を挟んだ


 「強い弱いの問題ではありません!!」


 しかし、ウルバンドの言葉を遮るように、メリッサは言い放った


 「お嬢様は、まだ10歳なのですよ!?こんな若さで怪物たちとの闘争に身を置くなど正気沙汰では!!」


 「メリッサ!」


 それを言い放ったのは、ヘンリックでもウルバンドでもなく、他でもない私だった

 メリッサは、取り乱した自分を落ち着かせることの出来ないまま、狼狽しながら私に言った


 「…………お嬢様、私は怖いのです。再び、主君を失うかもしれれないことが…………再び、我が子の様に愛してきたお嬢様が傷つくかもしれないことが、どうしようもなく怖いのです……………………」


 温厚で、いつも落ち着き払っている彼女からは想像できないほどの取り乱しようだった

 でも、その気持ちは痛いほど分かってしまう。なぜなら、父さんと母さんを失った時の私も、酷い悲しみに押し潰されてしまったから……………………


 「メリッサ、私だって怖いわ。傷つくこと、死ぬかもしれないこと、全部が怖い」


 「で、ではなぜ!」


 「今のこの国は、どうしようなく絶望的で、どん底をはい回っているような状況よ。皆が不安と恐怖に苛まれながら生きている。それが”今”という時代よ」


 席から立ちあがった私は、軽くメリッサに抱き着いた


 「……………………お嬢様?」


 「皆が怖がっている。でも皆、それを振り払って、今の自分に出来ることを必死にやって生きている。だったら、私だけ怖がって動けませんというのは、流石に違うと思うの」


 「し、しかし、今の時点でも、お嬢様は十分すぎるほど領地に貢献しております!」


 泣きそうな顔をしながら、彼女は私に訴えた


 「私がやったのは、問題の”解決”ではなく、あくまで”対処”よ。いくら”対処”を続けたところで、根本を潰さない限り、”解決”という終わりは訪れない」


 「……………………そのために、お嬢様が怪物たちと対峙する必要があると?」


 「今の私の役割は、父さんと母さんの娘として、この領地に住む皆の恐怖を取り除くことよ。だからこそ、私が自身でやらなければ意味がないのよ……………………」


 「恐怖を除くだけなら、ウルバンドや他の手練れに任せても良いはずです!!」


 「いいえ、彼らを今の役職から動かす余裕はないし、彼らであれば、魔族を”倒す”ことは出来るかもしれないけど、恐怖を除くには不足なのよ……………………」


 「な、なぜですか!?恐怖の元凶たる魔族さえいなくなれば事は済むはずです!!」


 彼女は私の肩に手を当て、私の目を見ながら尋ねた


 「恐怖を完全に取り除くには、”希望”が必要なのよ」


 「希望?」


 「今は亡き英雄の血を引く者が、彼らに代わって再び民衆を守る。ありきたりではあるけど、民衆には分かりやすい象徴が必要なのよ。それは必ず”希望”となり、絶望に臥せった民衆の”拠り所”になるわ」


 「それではまるで、お嬢様が人柱のようではありませんか……………………」


 「メリッサ、私は自己犠牲のためにこの道(人柱)を望んでいるんじゃない。これは、私が納得できる自分であり続けるために望んでいるの」


 「お嬢様……………………」


 「それに、ウルバンドも言っていたでしょ?私は今日までの訓練のおかげで大分強くなったわ。そう簡単にやられたりしないわ」


 「……………………必ず、ここに戻ってきてくださいますか?」


 「勿論よ。私は命を懸けることはあっても、捨ててまで何かをなそうとするような人間ではないわ。必ず戻ってくる。だから、私が帰るまでの間、この屋敷と他の皆をお願いね?」


 「……………………お嬢様の覚悟は分かりました。もうお止めはしません……………………」


 「ごめんなさい。また、あなたに心配を掛けてしまうわね」


 「いえ、私はお嬢様の言葉を信じます。お嬢様が”帰る”と言ったのですから、必ずそうなります。私は何も心配することなく、いつものようにお嬢様を迎えるだけです」

 

 そう言うと、彼女はいつもように微笑んだ顔に戻り、私を抱き寄せてくれた


 「ありがとうメリッサ。少しだけ、ここを開けるわ。留守は任せるわよ?」


 「かしこまりました。私はここで、何も変わらずにお待ちしております」


 抱擁を終え、再び席へと戻った私は、ウルバンに向かって強く言い放った


 「ウルバンド、出発までの2週間、悪いけど最後の調整に付き合って貰うわよ?」


 「フッ、君がここまで本気となれば、こっちも老体を酷使しない訳にはいかんさ」


 「お嬢様、領地の管理・運営の方はこちらの方で完璧に回しておきます。お嬢様は、何の気兼ねもなく、ご自分の決断に邁進してください」


 「2人とも、ありがとう」


 メリッサも2人も、私のことを本当に思ってくれている。私のことを考えて、私を尊重してくれている

 前世の私が望み、一度は手に入れ、そして失ったもの…………

 今回はそうはならない、今の家族との幸せ、そして、これから手に入れるかかもしれない幸せ。その全てを私は手に入れ、必ず守り抜き、最後まで人生を全うする

 そのためにも、私には”力”が必要だ

 出発までの3週間、どこまで自分を成長させられるかは分からないけど、出来ることはすべてやる。そして、今度こそ望む結果を手にしてみせる

 2週間後、復興都市”ガルム”への出発を決めたヨセフカ

 自身の望みを叶えるための覚悟を決め、親がその命を失った場所へと自らも足を踏み入れる。自らの”力”と”覚悟”、彼女は全てを懸ける思いで戦場へと身を投じる。だが、彼女はまだ気づいていない。心の奥底で交わらず、堆積し続ける”もう一つ”の自分に……………………

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