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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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蕾ほころぶ(5)

「一機やられた?」

 ヘテナは困惑する。


 接敵した戦列(ライン)の端。その反対が落ちているので作戦を読まれたとしか思えない。チームの索敵状況からして、網を絞ったと同時に狙われている。

 コマンダーは二基の索敵ドローンの使用しか許されていない。ドーム天井の俯瞰カメラの映像は見えていないのだ。行動と同時に落ちたということは、動きだしを予想して配置されていた。


(コマンダーも女子スクール生。そんな人気取りだけに動員された子供に読まれるなんて変)

 違和感を覚える。


 確かにコマンダーを置けば索敵範囲は広くなる。相手の動きを見つつ作戦を組める存在がいるのは圧倒的に有利だ。

 しかし、たった五機だけのチーム運用でリーダー以外を配置するのは混乱を招く。意見の違いから衝突する可能性もあるのだ。テンポの早いクロスファイトで作戦の遅滞は命取り。


(視界を補助する要員に置いているだけかと思ったら)

 考え直したほうが良いか迷う。


 その視界とて中継子機(リレーユニット)に見立てた二基のドローンだけでは限界がある。障害物(スティープル)の乱立するリングでは見える範囲は狭いし操作も難しい。

 以上の理由からアフターキルではコマンダーを置いていない。逆説的にいえば、僚機(メンバー)を信頼している証。個々の対処能力に任せている。


「向こうのリーダー、ビビアンちゃんだっけ? 思ったより使えるかもしんないよ。警戒しな」

「了解。でも、こんな冒頭からなんてね。チーム展開早くない?」

「誘い込まれたかもしんないね」


 一斉にスティープルの林に消えたあたりから推測はできる。条件から、作戦パターンを予測されていたと思ったほうがいいだろう。


「二つに分けてる。狭めな」

「あいよ」


 そう来るなら各個撃破に切り替えるだけ。陽動を仕掛けてきたペアを狙う。ヘテナが命じる前から相対位置は変化していた。こんなときに彼女がどんな作戦を取るかメンバーは熟知しているのだ。


「釣れてる。叩け」

「ああ、行くよ」


 敵を引き込んだメンバーに合わせる。他の砲撃手(ガンナー)がついてきているのを確認しながら隊形を変えた。側撃を掛ける。赤ストライプのアームドスキンがブレードを手に追っているのが見えた。


「確認。後ろに」

「つっ、でも速い」

「ああん?」


 狙撃に応射しつつ下がっているが手間取っている。追い詰められそうなほどの距離。敵の動きのスピード感に遅れている。


(なんで?)


 手練れの砲撃手(ガンナー)なのだ。スティープルを使いながら狙撃を防ぐくらいの技量はある。それなのに絶えずビームに狙われているのがおかしい。


「もたせな」

「なんとか!」


 そのとき、赤ストライプが彼女を見た。頭部が動いてしっかりと確認したあと追撃を掛けている。側撃を知りながら追い詰めに入っているのだ。


「嘗めてるんじゃないよ!」

「気をつけて!」

 緑ストライプの砲撃手(ガンナー)も視界に入る。

「なんだって?」

「嘘でしょ?」


 驚くべきは全速力で走りながら狙撃をしている。普通は移動してから停まって狙撃するのが当たり前なのだ。そうしないと射線がぶれて狙撃とも呼べない射撃になる。ビームをばら撒いているだけなら怖くはない。


「そんなんで!」

「違う!」

「くっ!」


 なんとスティープルを避けてへテナの側に標的を変えた。機体を傾けながらカーブし撃ってきている。その狙撃があまりにも正確だった。


(今の動き、なんだい?)

 慌てて回避しつつ思う。


 走っているのに上体がほとんど揺れていなかった。だからこそ狙いが正確なのだ。


「驚きの展開だぁー! 熟練兵が圧倒されているぅー!」

 リングアナにまで指摘される。


 彼らを足留めした緑ストライプの砲撃手(ガンナー)は突出せず後退に切り替える。しかし踵で土を蹴立てて下がっているのに狙撃を続けていた。その所為で単独の敵に迂闊に攻撃できない。


「行ったよ、ヘテナ」

「こっちかい!」


 赤ストライプがスティープルの影から出て斬り掛かってくる。リフレクタで受けて援護を待つが後衛(バック)は狙撃に阻まれていた。


「やるねぇ、嬢ちゃん」

「あったりまえ。勝ちにいってる」


 時間を稼いで反撃に出るところ。しかし、立て直す余裕を与えてもらえなかった。


「冗談」

「いつの間に!」


 背後から攻撃されている。後尾の砲撃手(ガンナー)はブレードをリフレクタで捌くが横合いからスティックで突かれて転倒。ビームが直撃して撃墜(ノック)判定(ダウン)される。


「しまっ!」

「余所見してる暇ある?」


 緑ストライプの砲撃手(ガンナー)は早くも目標を変えて、当初のメンバーを狙っていた。走りながらの狙撃に追いすがられて距離を詰められる。

 ダッシュからの方向転換で横に滑り込まれた。砲口は正確に脇腹に向けられており、一撃を食らって機能停止。もんどり打って倒れた。


「一時離脱!」

「このぉ!」


 彼女の合図で残り一人となった砲撃手(ガンナー)も飛び立って下がる。悔しそうに一吠えしながらビームをばら撒いていた。


(なんだかわからないうちに二機にされてる。こいつは……)

 半ば勝負は見えている。


「一矢報いなきゃ気が済まないね」

「悪戯がすぎる子供にはお仕置きが必要じゃない?」

「悪いけど本気でいかせてもらう。デブリ帯だって高速で飛んできた本物のパイロットを嘗めるんじゃないよ」


 ヘテナは反転攻勢を仕掛けるべく体勢を立て直した。

次回エピソード最終回『蕾ほころぶ(6)』 「この鬼は足が速いのさ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 流石に完全試合は避けたいよね。
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