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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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ホライズン(5)

(面白いこと考えますのね)

 ラヴィアーナはただ楽しんでいた。

(あの少年の見る目はエンジニアのもの。動きから特性を読み取っていますわ。ある意味、理想の開発者)


 理想を抱き、作り、自分で乗って確かめる。それができれば完璧に思える。彼女のやっているのは要望から推測した仕様と現実のすり合わせである。


「身体の使い方の練習法を知っているのは格闘をやっているからかしら」

「アクション全般がそうですよ。剣闘技でも似たような部分はあります。下半身にも着目するのは格闘技ならではかもしれませんけど」

 半ば独り言にグレオヌスが応じてくれる。

「そうですのね。では、あなたからもホライズンを高める訓練法を伝授いただけますの?」

「招かれた以上は。それもあなた方の目論見でしょうし」

「お気づきになられてまして?」


 子供だと侮るなかれ、こちらの狼頭の少年はツインブレイカーズを巻き込んでホライズンの性能を上げる企みに気づいていたらしい。それでも乗ってきたのは少女たちへの友情の証か。


「ちょっと裏もあるんですよ。なので助力するのはやぶさかではありません」

 引っ掛かるが、下手に突ついて敬遠されたくない。

「ご協力感謝いたします」

「では、僕も少しお手伝いしてきましょう」


 狼頭の少年は主に上半身の使い方に精通している。トップ三人を中心に腕関係の指摘をしていた。みるみる滑らかになるホライズンの動きにラヴィアーナは舌を巻く。


「休憩なさって」

「はーい。助かるー」


 降りてきた少女たちはテーブルに並べられていたドリンクとゼリーパックに飛びついた。無心に吸い付いている。


「スパルタにー」

「いつにも増して厳しい」

「疲れ」


 椅子に座り込んでいる女子に対し男子組は平気な顔だ。体力の差を加味しても鍛えられたスタミナは歴然としている。


「感触はいかが?」

「大変です。でも、それはホライズンの性能が今まで乗ったアームドスキンとは段違いだからかも。ほとんど完璧って言っていい」

 嬉しい回答をもらえる。

「まあ、完璧なんてねえんだけどよ」

「嘘。これほどでも?」

「乗るほうはそう思ってもな、作るほうはそんな言われ方すると耳が痛いもんなんだぜ?」

 スタッフたちは苦笑い。

「なんでよ。褒めてるのに」

「こういう複雑なマシンってのはパズルみてえなもんなんだ。メリットとデメリットを突き合わせてバランスを取る」

「デメリット?」


 ラヴィアーナのようなエンジニアだと心底理解している言葉だがビビアンたちにはわかりづらいだろう。あえて悪い部分もある、あるいは残っているという考え方。


「材料一つ取っても、剛性が高けりゃ脆さも兼ね持ってる。弾性も高いかと思や、応力ため込みやすくて寿命が短い。そんな感じだ」

 ラヴィアーナは続きを引き取る。

「機構も同じこと。良い所もあれば悪い所もあったりしますわ。悪い部分に対策しつつ問題を大きくしないようバランスを取りますの。そういったパズルをくり返して一つのマシンを組みあげます。お世辞にも完璧だなんて言えないものを」

「こんなすごいアームドスキンなのに?」

「欠点とか見つけらんない」

 口々にフォローしてくれるが現実ではない。

「ホライズンは動作性を理想まで上げるために色んなもんを組み込んでる。だから重量が嵩んでる。たぶん他のワークスマシンに比べて10%近く重いんじゃねえか?」

「ええ、おっしゃるとおりですわ」

「軽量化に難点ありなんだ」

 ジアーノも認める。


(悲しい顔をさせたいわけではないのだけれど、嘘をついても始まりませんものね)

 フラワーダンスメンバーの面持ちが心苦しい。


「んで、その欠点をカバーするのはパイロットの腕次第ってもんだ」

 堂々と言い切る。

「ワークスチームってのは、エンジニアとメカニック、パイロットががっつりタッグを組んで皆で頑張って結果を出すんだと俺は思ってる。パイロットは与えられたもんに文句を言うのが仕事じゃねえ。そんな奴は欲しがっちゃいけねえんだよ」

「例えば、重い機体は走行時の曲線半径が広がる。飛行でもそう。反重力端子(グラビノッツ)出力のベストポイントを見つけて小さくするのはパイロットの技量」

「そうなのね、グレイ?」

 狼頭は頷く。

「最終的な結果を共有するのもチームでだ。悔しい思いすんのか、喜び合えんのか、その一端はパイロットにも掛かってる。わかんだろ?」

「うん……、はい!」

「そのうえでどうするかなんだけど、もう一つだけ言っておかなくてはならなくなってしまいましたわ」


 いよいよ切り出さなくてはならない。一番の難関を耳にしたとき、少女たちは彼女の希望に答えてくれるのだろうか?


「これまでは無条件だって言ってたのだけど、そうはいかなくなりましたの。上層部から提示された条件を伝えます」

「乗せてもらえるのなら努力します。条件はなんですか?」

 心苦しさに下唇を噛む。

「契約したとしてもまずは仮契約です」

「あ、そうですよね」

「本契約は、開催される『女王杯・虹』にチーム『フラワーダンス』がホライズンで出場し、優勝してからのことになりましたわ」


 上層部の示した厳しい条件にラヴィアーナの不満は膨らんだ。

次回『決断する花(1)』 (失敗したとき、みんな心が折れてしまうかもしれない)

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― 新着の感想 ―
[一言] 本契約の条件、厳しいように見えますが……機体性能とフラワーダンスの面々の腕ならイケそうな気がする!と思っている私です。
[一言] 更新有り難うございます。 上から目線だな!? 他の企業も欲しがりそうな人材なのに?
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