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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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ホライズン(2)

 約束どおりヘーゲル社の工場入構ゲートを通過できたスクール生一行はリフトトレーラーのまま大型機材エレベータに誘導される。そこから地下機体格納庫(ハンガー)へと降りていった。


(すごい。極秘プロジェクトのまま、こんな設備を作れるものなの。信じらんない)

 ビビアンは社会の奥深さを思い知らされ、自分がまだ子供であると自覚させられる。


 明るく照らされた庫内はかなり広く取られている。動作試験まではここで行う予定で建造された施設なのだ。

 壁際に複数配置された基台にはアームドスキンが起立の姿勢で佇んでいる。一見したイメージでは洗練された感じはしない。ゼムロンのようにクロスファイトを意識した勇壮さはないと思った。


「格好よくねえって思ったろ?」

 ミュッセルに図星を指される。

「あの角張った感じが曲者(くせもん)だ。こいつは相当実戦仕様のアームドスキンだぜ?」

「パッと見わかる?」

「ちっと裏情報入れてる。あん中、スペックを上げる装置がみっちり詰まってんだ」


 無骨な印象だ。強いていえば友人が以前使っていたヴァリアントに似ている。無駄をすっかり削ぎ落として質実剛健を目指したようなアームドスキン。

 それでいてユーティリティな、どんな環境にも耐えられるかの如き軍用機体のフォルムを覚える。実戦仕様だと言われて頷けた。


「使えると思う?」

「まだ、なんとも言えねえ。だが、クロスファイトに出てくる色もん改造機となら比べもんになんねえはずだ」

「乗れば実感できますでしょう」

 黙して語らなかったマシュリが急に発言して身が引き締まる。


 真っ白のボディはなにものにも染まっていないと感じさせる。女性的な部分は欠片もなく、かなりロジカルに組みあげられている。装飾物がないからそう思えるか。

 クロスファイト用に見た目も意識した他のメーカーのワークスチームとは一線を画している。どんな彩色を施されてもそれは変わりそうにない。ただ一つ、胸に飾られたヘーゲルのエンブレム、デフォルメされた天使が色を添えていた。


「めっちゃ出迎えられてる。緊張するぅ」

 サリエリと手を取り合う。

「ラヴィアーナさんも前みたいにスーツじゃないから見違えちゃう」

「紹介よろしくね。対面してるのエナだけなんだから」

「ビビだって何度も話したんでしょう?」

 ちょっと呆れ顔をされた。

「こんな大人の対応されたら困るもん。うう、学校って世界狭い」

「エナはお嬢様だから社交の場とかも慣れてるのかもしれないけど」

「はいはい、わかりました」


 ビビる二人をエナミが宥めてくれる。ビビアンは考えていたつもりでも覚悟が決まっていなかったのだと思い知らされた。


(ミュウがニヤニヤしてんのも腹立つ。こいつ、なんでこんなに腹据わってんのよ)

 リフトトレーラーを微速前進させる男子にもイラついた。


「呼ばれたから来たぜ」

 ドライブシートから降りた美少女っぽい少年は手をヒラヒラさせている。

「いらっしゃい。碧星杯準決勝進出おめでとうございます」

「見てたのか。ありがとよ」

「そりゃ意識されてるよ」

 グレオヌスが高いドライブルームから女子を助け降ろしながら言う。

「話題沸騰中のツインブレイカーズをお迎えするんですもの。当然チェックしてますわ」

「そっか。お手柔らかにな」

「こちらの台詞です」


 ミュッセルもマシュリだけは手を取って降ろしている。驚愕の美女の登場には機体格納庫(ハンガー)の面々も息を飲んでいた。


「悪ぃが、うちのエンジニアも追加だ。俺と一緒にヴァンダラムを組んだって聞けば文句ねえだろ?」

 そういえば事前に断っていない。

「そう……ですか。あのアームドスキンを。ご意見いただければ幸いです」

「見学です。おかまいなく」

「そうおっしゃらずに」

 呆けていた主任技術者も仕事モードがオンになった。

「皆も驚いておりますのよ。細身ながらガントレット無しで打撃の反動をものともしない強固な構造。強度を上げているはずなのに極めて滑らかな動作。軍用機相手でも打ち負けないパワー。どれをとっても一級品だと我々にはわかります」

「お褒めにあずかり光栄です」

「ゆっくりお話伺いたいところですが、今日はそれが本題ではありませんのでまたの機会に」


 本人が敬遠しているのを察して収めるところなども大人だと思った。そんなラヴィアーナとチームメンバーの夢を守るために渡り合っていかねばならないと思うと胃が痛む。しかし引けないところ。


「お招きいただきありがとうございます。なにぶん、私たちは学生ですので、全員が納得する形でお話しさせてください。子供だと思われるでしょうがご容赦いただけると助かります」

 エナミが丁寧に代弁してくれた。

「そんな感じでお願いします!」

「ええ、了承していますわよ。まずはこちらの開発員の紹介から始めますね?」

「はい」


(駄目ー。情けない。トーナメント決勝の待機エリアのほうがまだ緊張しないでいられるわ。こんなんじゃいけないのに)

 自分のやってきたのが遊びの延長で、ここからは真剣に考えなければならないのだと思わせられる。


 ビビアンは進みでて握手の手を差しだした。

次回『ホライズン(3)』 「この『ホライズン』は試作機なんですか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 えぇ!? ガッツリ実践向け!?
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