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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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望まれる花(3)

 夕食が済んで落ち着いた頃合いを見計らってミュッセルはビビアンにメッセージを送る。即座に反応があった。


「なんかわかった?」

 見るからに急いている。

「おう、まあまあな。とりあえずヘーゲルが結構本気で開発したアームドスキンだってのと、スペックはかなりのもんだってのはわかった。悪ぃが、あっちの提示した条件の裏付けとか他に候補がいるとかは無理だったぜ」

「いい。十分。ありがと」

「それとな、マシュリが言うには本腰で向き合って損はねえって話だ。どう受け取るかはお前たちに任せる」

 それ以上は干渉しすぎだ。

「もう一度話聞いてみる。プロなら一も二もなく乗ると思うんだけど、あたしたち、まだ学生なんだもん。おかしな話に関わりたくない。少なくとも、みんなを巻き込むわけにいかないもん」

「悩んで正解だ。俺も手ぇ貸せる部分は貸すからよ」

「頼りにしてる」

 挨拶をして通信を切る。


(妙な話になってきたな。こればかりは俺も全然予想ができなかったぜ)


 もしかしたら強敵になるかもしれない彼女らのチームにミュッセルは胸を高鳴らせていた。


   ◇      ◇      ◇


(妙にリアルな情報だった)

 望外のことにビビアンは戸惑う。

(どこで仕入れた情報なんだか。どうせマシュリさん経由よね。あの女性(ひと)謎すぎるんだもん)


 どこからともなく現れてブーゲンベルク家に住み着いた女性エンジニア。最初は気がしれないと思ったものだ。来たほうも来たほうだし、受け入れるほうもどうにかしている。


(持っている技術と整備や調整の腕は段違いだってわかってる。あいつが同類大好きだってのも。見た目にほだされたんじゃないのは救いだわ。って、そんな場合じゃなかった)


 ベッドから身を起こしてコンソールスティックを開く。恥ずかしくない部屋着であるのを確認して連絡先にアクセスした。


「こんばんわ、ビビさん」

 すぐにラヴィアーナの応答があって驚く。

「すみません。夜なのに」

「かまいませんよ。まだ仕事場ですから」

「もっと申し訳ないです。お仕事中に」


 背景は機体格納庫(ハンガー)のものだった。ブーゲンベルクリペアのような町工場の設備ではない。クロスファイトドームのレンタル機格納庫と同等の先進的設備の塊である。


「良いお返事もらえるのかしら? お友達と相談したのでしょう?」

 穏やかな微笑みには大人の余裕が漂っている。

「話はしたんですけど、みんな面食らってて。でも、興味はあるみたいなんです」

「あら嬉しいですわ。もう一押し、なにか必要?」

「……その、見せていただくことは可能なんですか? 開発中の秘密の機体なのは承知してます。絶対に口外させませんので」

 そんな言葉が出てしまって、一番興味を惹かれているのが自分だと気づく。

「見るだけで満足かしら。乗ってみたくはない?」

「そんな、不躾な」

「判断材料は多いほうがいいですわ。本当の命を懸けるアームドスキンではないにせよ、選手生命を左右するかもしれない契約だもの。慎重になっても当然ですわ。望む側の私たちは叶うかぎりの情報を提供するのが最大限の礼遇というものだと思いますわ」


 条件が良すぎてビビアンは怖気づく。しかし、リーダーが及び腰になっていてはいけない。メンバーの幸福を願うなら勇気を振り絞るときであろう。


「では、お伺いしても?」

「歓待の準備が必要ですわね。あなたたちの都合もあるでしょう。今週末に試合は?」

 過分な申し出がある。

「ありません」

「だったら、いつも使ってる操縦プロトコルを持って機体格納庫(ハンガー)に来てくださる? 相棒になるかもしれない機体を紹介しますわ。パスを提示すれば入構できるよう取り計らっておきます」

「ありがとうございます」


 とんとん拍子に話が進む。自分の意志が関係なく吸い込まれていくような感覚。しかし、そんな怯えや尻込みは、すぐにやってくる大人の時間に向けて卒業せねばならないものだと思い直した。


(でも、ちょっとだけ勇気がほしい)

 背中を押してくれる誰かが。

(ちゃんと夢を持って、そのために自らを高める努力を怠らない人がいる。彼ならあたしが道を間違えそうになったら叱ってくれるはず)


「あの、友達を連れていってもいいですか?」

 関係者以外という、本来ならあり得ない申し出を恐る恐る訊く。

「失礼だとは思うんですけど」

「どなた?」

「ミュウ……、ミュッセル・ブーゲンベルクを。知ってらっしゃいますよね? あのときの練習を見ていらっしゃったんなら」

 ラヴィアーナはくすくすと笑う。

「ええ、もちろん。でしたら、ツインブレイカーズのお二人もご招待いたしましょう。アームドスキンごといらしてかまいません。動かしてみるならお相手も必要ですものね」

「話が早くて助かります。ミュウなら機体のこと詳しいので助言をもらえるかと思って」

「わかります。では、七名……、エナミさんも含めて八名でよろしいかしら?」


(エナのことも把握されてる。彼らの前でコマンダー扱いしちゃったんだもんね)


 練習のときに後ろで声がしているのは気づいていた。あのときは他のチームのエンジニアやスカウトに見られているのだと思ったのだ。


「皆の都合が合う時間をお知らせします」

「トリアの日はツインブレイカーズの試合がありますわね。では、翌日のレーネの日はいかが?」

 休日で打診される。


 また連絡する約束をしてビビアンはラヴィアーナとの会話を終えた。

次回『ホライズン(1)』 「うっせえな。お前はお袋か、ビビ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 彼女たちって、別の意味で(古き良き)主人公タイプですね? ドキュメンタリーフィルムにしたら売れそう!?
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