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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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望まれる花(1)

 週も半ばのカンスの日。普段なら始業の十五分前には学校にやってくるビビアンの姿が見えなかった。風邪でも引いて休みなのかと友人たちが話しはじめた頃に登校してくる。

 しかし、その様子は明らかにおかしかった。目は赤く、薄っすらとクマもある。見るからに寝不足の顔をしている。


「どうした? なんかのゲームにでもハマって夜更かししたのか?」

 ミュッセルは視線の定まらない彼女に尋ねる。

「……ん、ちょっとあとで話すわ」

「おう」


 すでに始業時間。一時限目の担当教師が入室してきたので話はそこまでになった。フラワーダンスメンバーやグレオヌスも不審げにしているがなにも訊けず。

 本人が長い話になると先送りにして昼になる。食堂に集合したいつもの八名はテーブルと深刻そうなビビアンを囲んだ。


「実は昨日の夕方ね……」

 リーダーが話を切りだす。

「クロスファイト運営から連絡があって。打診があるからどうするかって」

「珍しくもねえだろ? 最近はねえが、俺も前はうるせえほどだったぜ」

「それはまあ、フラワーダンス(うち)も少なからずあったけど」


 運営からの打診といえばトーナメント参加斡旋かパイロット契約である。前者は定期的にあるので今朝のような有り様になるはずがない。だとすれば後者だ。こちらは悩んでも変ではない。


「そんなに悩むこと? 前に縛られるのが嫌だから断ってるって聞いたけど」

 グレオヌスがランチを口に運びつつ訊く。

「そんなに珍しいことでもねえじゃん。ノービスでくすぶってんじゃなきゃ二つ三つはあるもんだぜ」

「それがね、あんまり良い話だからどうしようか困っちゃって。当然相談するのが先なんだけど、リーダーとしてどう進めるのがチームの将来にベストなのか考えだしたら眠れなかったわ」

「そんなに良い話なのかい?」

 ビビアンの決意が揺らぐほどらしい。

「うん。すぐに断ろうとしたらヴィアンカさんが待てって」

「ヴィアンカか。そいつは迷うな」

「親身になって考えてくれる窓口さんでしょ? あたしたちの気持ちまで知ってるヴィアンカさんがそこまで言うのなら話を聞かないわけにもいかないわ」


 それで続きを聞くと、フラワーダンスの方針に合っているから良く考えてから決めるべきだと勧められたのだそうだ。そのうえで連絡先を伝えられたという。


「相談するにも、条件だけ聞いておこうかと連絡してみたの」

 ビビアンはため息交じりに続ける。

「どこの誰だ?」

「ヘーゲルのアームドスキン開発セクションの主任さんだって」

「はぁ、ヘーゲルだとぉ!」

 ミュッセルは口の中のものを飛ばすのもかまわず叫ぶ。

「アームドスキンってそんな話聞いたこともねえ」

「当たり前さ。民間企業の兵器開発なんて機密中の機密じゃないか」

「プロジェクトが動いてんなら、ちっとくれえはリークがあるもんだ。宣伝目的も兼ねてな」


 フラワーダンスメンバーも皆仰天して感嘆する中、一人だけ違う反応をする。エナミ一人が「あ……」と声をもらしたのである。


「なんか知ってんのか?」

 一斉に振り向かれた少女はビビっている。

「あ、あのね、実は合同練習した日にエンジニアルームでヘーゲルの人と会ってて」

「マジか!」

「私も内緒の話だと思ったから黙ってたんだけど、開発の人たちと練習の様子を一緒に見てたの」


 エナミが携帯端末(モバイル)から投影パネルを表示させる。そこには二名分のプロフィール。一人は主任でラヴィアーナ・チキルス。もう一人は副主任のジアーノ・ジョアンとなっていた。


「あ、この人。ラヴィアーナ主任と話したわ」

 色々と繋がって事情が見えてくる。

「私が聞いたのはアームドスキン開発のことだけ。パイロット契約のことは少しも」

「探り入れてきやがったな。新興だから伝手がねえ。使えそうな奴をスカウトに来てたんだよ」

「あうぅ。知らなくって練習映像渡しちゃった」

 エナミはしょげ返る。

「検討材料にされてしまったな」

「わたしたちをスカウトするために?」

「そう考えるのが順当ね」


 女子たちも立ち直って参加してくる。ただし、ここまでの話ではリーダーがそこまで悩むようなことではないと一致した。


「どんな条件なんにー?」

 ユーリィが尋ねる。

「条件というか、特になにもないって言われたのよ。ただ、ヘーゲル社が提供するアームドスキンに乗ってこれまでどおりクロスファイトに参加してくれればいいって。勝ち負けもそんな重視しないし、学業を優先するスケジュールでかまわないとまで言われたら……」

「好条件すぎんな。逆に疑いたくなるくれえだ」

「そうかな? 逆にそうとしか言えないのかもしれない。なにせ、テストくらいはしているにしても、クロスファイトの試合みたいな半実戦運用なんて経験がない。そのアームドスキンが試合中ずっとまともに動いてくれる保証もできないとなれば」

 グレオヌスの意見はかなり現実的なもの。


 フラワーダンスメンバーは完全に浮足立っている。突然の、それも非常に珍しいケースにどう相談すればいいのかさえわからない様子。


「ちょっと待て。すぐに返事はすんな。俺もちょっと調べてみっからよ」

「ええ、返事はそんな急がないって言われてるし」


 ミュッセルも判断がつかずに保留すべきだと考えた。

次回『望まれる花(2)』 『はい、わたしはお姉様の忠実な下僕です』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 まぁ、学生にスカウトくれば、ね?
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