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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
花咲く乙女の舞

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碧星杯四回戦(2)

 二機が入場するとアリーナが大きく湧く。休日だけに観客の入りは上々であった。シーズンに指折り数える大型トーナメントなので人気も高い。


「それでは碧星杯四回戦第五試合を行います! (サウス)サイドからの入場はツインブレイカーズ!」

 この日の目玉試合にリングアナも声のトーンをあげる。

「快進撃を続ける新鋭、ノービス1クラスの驚異のペアがとうとうベスト16に進出だぁー! まずはお馴染み『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセル・ブーゲンベルぅーク選手ぅー! 乗機はヴァーンダラぁーム!」

「うっせぇ! しつこい男はモテねえぜ!」

「わたくし、既婚者でございまぁーす!」


 真紅の腕を突きあげるが、返ってくるのは声援でなく爆笑だった。お馴染みになっているのは掛け合いコントのほうである。


「そして隣を飾るは『狼頭の貴公子』! 『ブレードの牙持つウルフガイ』! グレオヌス・アーフ選手ぅー! 乗機はレギ・クぅーロウ!」

 左の拳を固めて意気をみせる。

「静かな声音にひそむ闘志! 今夜も送り狼に変貌して相手チームを平らげるのかぁー!」

「非常に心外です!」

「早くも牙を剥かれたぁー! わたくし、無事に帰れるのでしょうかぁー!」


 慣れというのは怖ろしいもので、いよいよコントに巻き込まれつつある。グレオヌスにも止めようがなさそうだ。


(悪いな。人気が出りゃ、それだけトーナメントの斡旋増えっから恨むなよ。面白え相手とも巡り会える)

 ミュッセルには目論見もある。


 斡旋を受諾すればほぼ確実に枠はもらえるが、応募では抽選で落選する可能性がある。大きなトーナメントに出場したければ人気も必要なのだった。


「対する(ノース)サイドからは『ナクラマー3』の登場だぁー!」

 声援は負けず劣らずといったところ。

「ナクラマー社のワークスチームきってのタクティカルチーム! 玄人ファンをうならせる戦術が暴れん坊二人をここで止めるかぁー?」


 編成は剣士(フェンサー)3に砲撃手(ガンナー)2。布陣は攻撃的だが派手さはなく、粛々とセンタースペースに向かってくる。機体カラーも統一されていた。


「見てのとおり全然ショーを意識してねえ連中だぜ」

「カラーリングで見分けられなくしているのは敵を幻惑する意図なんだろうな」

 相棒は言い当ててくる。

「おう、こいつらの手管の一環だ。障害物(スティープル)を使って巧妙に目眩まし掛けてきやがる。気ぃ付けろ」

「色々と細工してきそうだ。まあ、こちらのリンクが機能すれば怖ろしくはないと思うけどさ」

「マシュリが仕込んだあれが火ぃ噴くぜ」

 打ち合わせている間に相手チームの紹介が終わる。


 ヴァンダラムとレギ・クロウには特殊なリンクが構築されている。フレニオン受容器(レセプタ)という、通信密度(トラフィック)は小さいながらも傍受はほぼ不可能で距離に関係ない方式を採用していた。

 電波通信のオープン回戦は相手チームはもちろんアリーナにも伝わるし、部隊回戦は傍受という電子戦を仕掛けられる場合がある。しかしツインブレイカーズのリンクは機密性が比較にならない。


「試合開始の時間となりました!」

 フレディが声を張る。

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 ゴングと同時にナクラマー3の五機は綺麗に障害物(スティープル)の森に散っていく。これまでの試合を研究しての作戦だろう。


(オープンスペースでパイロットスキルメインの潰し合いになったら不利だって読みやがったな? ソロで名を売ったパイロットが腕っぷしだけで殴り込んできただけくれえに思ってんだろ)


 スティープルで視界をふさげば相手の死角を突くヒット&アウェイが決まると読まれている。その罠に嵌まれば動揺し、本来の力を発揮できずに終わると予想。時間は掛かるが撹乱を主眼においた戦術を取る。


「こいつらワークスチームだかんな。コマンダーが付いてんぜ」

 アリーナ下のスタッフルームでドローン映像を頼りに指揮を行う。

「資金力をバックに戦略で攻めてくるだろうな」

「そうは問屋が卸さねえ」

「情報戦能力が低いと嘗められるのは面白くない」


 クロスファイトでは傍受はできても電波撹乱は禁止されている。オープン回線での会話ができなくては盛り上がりに欠けるし、リング内を飛ばすドローンにも悪影響がある。ゆえにコマンダーがいるチームには動きが筒抜けになってしまう。


「ハンデだ。くれてやれ」

「もっとも、ハンデとして効果があるか否かはあっちのコマンダーの能力次第だ」


 グレオヌスは不穏なことを言う。彼らの作戦に追いついてこれるかが勝負の分かれ目だが自信があると見える。


「じゃあ、俺は大人しく餌をやるか」

「僕だったら絶対に食いついたりしないけどさ。猛毒入りの餌なんかにな」

「言ってろ」


 障害物(スティープル)の中にヴァンダラムを放り込む。相棒もレギ・クロウで走っていくのがちらりと見えた。駆け引きの始まりである。


(もう配置についてんだろ。早々に来るか?)

 深呼吸して集中。

(来たな)


 意識に金線が走る。スティープルの間隙を縫って光条が貫いてきた。しかし到達した頃には機体を影に入れている。


(釣れたぜ)


 別の狙点からのビームが彼のひそむプレートを焼く。回避して飛びだしたところに敵の剣士(フェンサー)が待ち受けていた。


「だろうよ!」


 ミュッセルは腕のブレードスキンで斬撃を受けた。

次回、エピソード最終回『碧星杯四回戦(3)』 「殴り合いがしてえんなら早く言えよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 実力差が有れば、釣りも簡単に?
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