碧星杯四回戦(1)
地下訓練場での邂逅からこちら、開発主任のラヴィアーナは本格的な検討に入っている。彼女の中では決定事項になっているのだが、ヘーゲルの社内での決定を得るには材料が必要だった。
「ジアーノはどう思っていますの?」
同僚に確認する。
「有望だと思いますよ。若いし伸び代があるのもいい。難点は幾つかありますが、補って余りあるメリットがあるんじゃないですか?」
「ええ、私もそう思います」
「それと、なによりツインブレイカーズの協力も得やすいのがいい。初めて彼らの本質に触れましたが、全然底を見せてくれませんでしたよ。テストパイロットには無理でも、汚い大人は引き入れたいと思うものです」
悪びれて言う。
事情通の彼だからこそ言える言葉。界隈では当たり前に行われている駆け引きの一端になる。ハイスペックなアームドスキンをどれだけ近い距離で観察できるかが勝負の分かれ目になると主張した。
「そこは余録と考えて、具体的な話の持っていき方は?」
メリットとは別の話である。
「この前の訓練映像はしっかりともらってきました。エナちゃんには悪いけど、もちろんドローンの生映像のほうですよ」
「開発の参考映像にするって言っていたあれですわね?」
「観てもらえば十分プレゼンテーションになるレベルのものです。ですが悲しいかな、ヘーゲルは上の方も素人なのでおそらく見極めが効かない。さて、どうしましょうとなるのですが」
悪戯な笑いを見せる。
「具体的な数字が必要?」
「そこでこいつです。碧星杯四回戦」
「フラワーダンスの? 違うではありませんか。これはツインブレイカーズの試合になっています」
クロスファイト運営の対戦公示が出ている。表示には『ナクラマー3vsツインブレイカーズ』とある。来週末開催になっていた。
「ツインブレイカーズは昨夜三回戦を突破して駒を進めてるんですよ」
ジアーノはニヤニヤとしている。
「対戦していた少年二人の強さを証明できれば、最終的に五分だった彼女たちのパイロットスキルの証明になるのね?」
「ご名答です。プレゼン資料にこの試合の映像を持っていきましょう。もっとも勝ってくれないと失敗になるわけですけどね」
「ええ、わかります」
勝てる気はするのだが、ラヴィアーナもまだ素人の域を出ない。
「相手がナクラマー3なのもいい」
「ナクラマー社の抱える三つ目のチームですわよね?」
「大手の機体をたった二機で下すようであれば頷かない大人はいませんでしょう」
したたかな計算、それがジアーノの優秀さを証明している。アームドスキン開発としては後発も後発だが、人材発掘の手法はカーメーカーとしての実績があるヘーゲルならではであった。
「では、それでまいりましょう」
「エンジニアルームの予約入れておきますね」
段取りも早い副主任にラヴィアーナは感謝した。
◇ ◇ ◇
「マッチゲームは余裕で連勝か」
「変わったね、フラワーダンスは」
グレオヌスたちは南サイドゲートの待機スペースで開始を待っている。今夕は碧星杯四回戦を戦う。しかし、話題の中心は友人チームのことだった。彼女らはあれから一週間の間に平場で二連勝している。
「僕らもうかうかしていられない」
「いや、問題ねえ」
ミュッセルは平然としている。
「訓練だから入りで手心を加えたかんな。リングじゃそうはいかねえ」
「当然だな。策は弄させてもらう」
「仮に分断されても負けることはねえ」
相棒は断言する。
「自信だな」
「ゼムロンは重いんだよ。なんてことはねえな」
「あー、確かにね」
ゼムロンはシュトロンベースにクロスファイト仕様の改造を加えたアームドスキンである。単純に強度をアップしただけだともいえる。それだけに機体重量が嵩んでいた。
反重力端子で軽減できるとはいえ、元の質量の大きさが行き足を鈍らせる。アクションから最速に至るまでワンクッションのタイムラグがあると感じられた。レギ・クロウやヴァンダラムにはそれがないに等しい。
「あいつらがレンタル機使ってるかぎりは負けねえ。そうだろ?」
「まあ、そうだな」
逆にいえば、連携の上手さでは拮抗しているという意味。確実に上回っているのは一対多の場合のパイロットスキルだけ。タクティカルな面では少し劣っているかもしれない。そこで埋められている。
「そこで参考材料だ」
ミュッセルが指を立てる。
「今日の相手はなにもんだ?」
「『ナクラマー3』。ナクラマー社のワークスチームでもタクティカルな戦い方をするチームだったな」
「だろ?」
不敵な笑いが浮かぶ。
(こんな表情をしなきゃ美少女なんだけどさ。睫毛なんてそのへんの女の子より多いし。本人に言ったら殴られるけど)
幾度となくやられている。
「こいつで俺たちの本気を見せてやろうぜ。まだ追いつけねえと思わせてやらねえとよ」
「いずれは対戦するだろうから意識付けは大事だな」
ゲートのカウンターが減りはじめた。
「さあ、勝負の時間だ。楽しもうぜ」
「もちろん。そうでないと意味がない」
「オッズも腹立つくれえになってっしよ」
話題性はともかく、アリーナの評価はまだ今ひとつのツインブレイカーズであった。
次回『碧星杯四回戦(2)』 「見てのとおり全然ショーを意識してねえ連中だぜ」




