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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
花咲く乙女の舞

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試行錯誤する花(4)

 赤いアームドスキンは呆気なく後退していく。弾幕がそれほど効果的だとはラヴィアーナも思わなかった。


「ミュウ?」

「一手目は譲ってやる。そのつもりで行け」

「なるほどね。わかった」


 レギ・クロウのパイロットも不審に感じたようだが納得する。ただ納得の仕方に引っ掛かりを覚えたのがエナミらしい。


「ミュウがなにか企んでる。当初の配置で行くけど警戒厳で」

 助言を与えている。

「みたい。サリ、グレイを詰めるわよ。ウルも援護よろしく」

「承り」

「リィはミンとミュウを追い払って」

 配置がガラッと変わった。

「虫みてえに言うなよ」

「あんたに自由にさせると面倒なの。グレイから落ちてもらう」

「その期待には簡単に応えられないね」


 三対一で先にレギ・クロウを攻め落とすつもりらしい。それまでもう一つのペアがヴァンダラムを牽制しておく作戦。


「考えましたね」

 ジアーノも称賛する。

「スティック相手では苦しい剣士(フェンサー)前衛(トップ)二人と砲撃手(ガンナー)で仕留めにいく。格闘士(ストラグル)タイプは数が揃うまで当たらず触らずですか」

「確かに巧妙。数の優劣が一番効果的な作戦かもしれませんわね」

「油断できません。たぶん時間勝負になります」

 提案したエナミ自身が懸念を口にする。

「長時間は厳しい?」

「はい、リィではミュウをずっとは抑えきれない。速攻でグレイを落とさないと」

「それはグレオヌス君も承知のうえと」


 作戦の肝は時間だという。しかし敵もさる者、逆手に取ろうとしてくるはずだと言う。


「正確な分析です。グレイ君がどう動くかが要になりそうですよ」

 副主任は純粋に楽しみはじめていた。

「ビビもウルも単独ではグレイに敵いません。でも、二人が呼吸を合わせればもしもが起こるんじゃないかと思ったんですけど」

「エナミさんの目から見てそうなのね?」

「事実、手こずっている。いい配置かもしれない」


 剣士(フェンサー)の少年はスティックの攻撃をしのぎつつ切り返しの一撃を狙っている。しかし、リーダーの少女がその芽を摘んでいるように思えた。

 斬撃を捌く手元に先ほどまでの精彩はない。受けに回っているように見えた。そこへ忍び入る狙撃も功を奏している。ツインブレイカーズの二人の距離は開いていく一方。


(面白いですわね。作戦一つでこれほど局面が変わるのですか。それを、この若い才能たちが生みだしている、と)

 ラヴィアーナも引き込まれていく。


 ところが上手くいっているはずの作戦が破綻の予兆を感じさせはじめる。それは要以外のポイントで生じてしまっていた。


「リィ、射線邪魔!」

「に! ごめんにー」


 押しだすつもりが詰められつつある。ヴァンダラムを狙撃するはずが、味方が射線に入ってしまって失敗しているらしい。それでトップが窮地に陥る傾向。


「リィが誘導されてるの。ミン、狙点移動できる?」

「やってみる。間に合わないかもだけど」

「間に合わせて。リィが落ちる前に」


 ヴァンダラムとユーリィ機の戦闘のスピード感がありすぎてバックの移動が間に合っていない。その所為で起こる弊害だとジアーノも指摘する。


「ひー、速すぎー!」

「きついにー……、あ!」


 ヴァンダラムに腕を引かれたゼムロンが狙撃のビームを受ける。同士討ち(フレンドリファイア)だ。それで撃墜(ノック)判定(ダウン)を受けた。


「落ちたにー」

「マズ!」

「遅えよ」


 瞬時に加速したヴァンダラムがバックのゼムロンに迫る。盾に使ったということは位置も把握しているということ。少年が胸を拳で軽く叩いて訓練モードの撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪う。


「リィペア落ちた。ビビ、急いで!」

「マジで? 押しだすだけも無理なの」

「おら、詰みだぜ」


 作戦はすでに破綻している。しかも怖ろしく早いカウンターを受けていた。障害物(スティープル)に掴まっている狙撃手の傍にヴァンダラムが飛んでいる。


「ひゃー、お助けー!」

「ごめん無理落ちて」

「そんなぁー!」


 平手でスティープルに押し付けられてバックが落ちる。狙撃が失われたうえに浮足立ってしまったトップの二人は脆かった。飛び込んできたレギ・クロウにほぼ同時に斬り裂かれて撃墜(ノック)判定(ダウン)


「これで2ターン目も終了っと」

「狙点位置リンク正確だったぜ、グレイ。最短距離で一発だ」

「もちろんさ。次手は打ってある」


 少年二人の会話でこの局面も想定していたものだとわかった。攻撃をしのいでいるふうに見えて、相対位置の計算までしていたというのだ。


(これは強いはずですわ。ジアーノが嵐を起こしていると評しただけはありますわね。決してフラワーダンスが弱いわけではありませんのね)


 彼女が視線を送ると副主任は撮影完了の合図を送っている。上に説明するだけのデータは揃いつつあるのだ。


「悔しい」

「嘆くなよ、ビビ」

 ミュッセルが宥めている。

「ごめん」

「エナの所為じゃない。言うとおりに速攻でレギ・クロウを落とせなかったあたしたちの落ち度」

「でも、これ以上の作戦を思いつけない」

 エナミは無力感を口にする。

「今のでわかったろ?」

「ああ、浮き彫りにできたと思うけどさ」

「え、どういうこと?」

フラワーダンス(おまえら)の最大の弱点だ。気づかねえのかよ」


 少年が言い出した問題点にラヴィアーナも傾聴した。

次回『試行錯誤する花(5)』 「え、私の役目も決定なの?」

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[一言] 更新有り難うございます。 流石の実力!
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