試行錯誤する花(3)
俯瞰で見ると各機の動きは明白だった。フラワーダンスはまずツインブレイカーズの二人を分断することから始めている。
(これが普通なの?)
ラヴィアーナには十六歳の子供がやっているようには見えない。
「それぞれのコンビが各個撃破されるのを嫌ってますね。数の優位性をキープするつもりのようです」
ジアーノが解説してくれる。
「そんな細かい手段まで考えているものなのですね?」
「AAクラスまで上がるっていうのは戦術にも長けていませんとね。フラワーダンスはそっちが売りのチームです」
「ジアーノさん、お詳しいんですね」
エナミも感心している。
「開発している立場上、色々と。まあ要するにファンだよ」
「わかります。私も実際に見るまでは、こんな世界があるなんて知りませんでしたし」
「ぼくは投票権まで買わない派なんだけど、試合見ているだけでも楽しいよね」
副主任はスクール生女子と共感している。クロスファイトには層を選ばない魅力があるらしい。ラヴィアーナも深く関わっていくうちに感じられるかもしれない。
「ウル、そこ割れる?」
「頑張る」
「無理しなくていい。落ちたら一気に崩れる」
珍しいスティックを使うフラワーダンスの一機が砲撃手の援護を受けつつツインブレイカーズの剣士を間合いを利用して足留めしている。その間に剣士二機と砲撃手が赤い格闘士タイプを追い立てる。
「押し切れー!」
「あわよくば墜としてやるにー!」
「焦らない。まだ序盤よ」
剣士二機の圧力をものともしない赤いアームドスキン。狙撃も躱しながら下がる気配も見せなかった。
(よく動く。パワー、スピードともに一級品。これはパイロットスキルうんぬんのレベルじゃないですわね。ジアーノの言うとおり、この『ヴァンダラム』という機体は普通ではありませんわ)
腕を覆っている薄膜の存在も気になる。性質的にはリフレクタではなくブレードレベルの強い力場らしい。ビームを弾くというより裂いている。
「持ち堪えられちゃうと!」
「ごめん。落ち」
「ぎゃー!」
スティック使いがレギ・クロウに撃破される。灰色のアームドスキンはビームによる牽制を切り抜けて移動していた。
「挟撃は無理! リィ、対処」
「そいつぁ酷だぜ」
「来るにー!」
手薄になったところで剣士一機がヴァンダラムに捕まり、もう一機も用意に撃破。トップは全機失われる。砲撃手は抵抗する術もなかった。
(あら? 弱い?)
見込み違いかと思わせられる。
「1ターンお終いだぜ」
全滅を宣告する。
「最初の切り崩しに失敗すると厳しいわね」
「配置換えする?」
「うーん」
フラワーダンスのリーダーは悩んでいるが、そこでエナミが一言挟む。
「今のはフォローできたと思う。ミンの戻りが早かったらもう少し抵抗できなかった?」
「そうかも。見切りは大事ね」
「やってみる」
ラヴィアーナは驚いた。俯瞰映像を見ているとはいえ、戦況分析が正確だったように思えた。少女が自ら言っていたようにただの見学ではなさそうだ。
(リーダーの補助? 違う、実質作戦指揮しているみたいなものですわね)
異なる役割があると感じた。
「ごめんなさい。差し出口を」
「いいからバンバン言ってやれ。参考になると思うぜ」
「そうそう。お願い」
「うん、私で良ければ」
エナミは幾つかの投影パネルを生みだして視点の確保をしている。これからが本気らしい。
「びっくりだ。君はフラワーダンスのコマンダーかい?」
副主任も感心している。
「そんなんじゃ……。でも、友達の助けができるならいいなって」
「見事だった。ぼくもすぐには気づけなかったからね」
「みんなの映像いっぱい観たので」
ジアーノ曰く、ワークスチームには必ずコマンダーも付いているという。第三者視点で相手チームの戦術分析をするとともに戦略を組む役割だ。ラヴィアーナもそちら方面はさらに疎く、チームを編成するならヘッドハントが必要になるかもと進言されていた。
「動きのいいこいつら相手だと厳しいわ。エナ、そこの視点から誘導してみてくんない?」
リーダーに頼まれている。
「私でいいの?」
「ものは試し。忌憚のない意見が欲しい」
「わかった。やってみる」
さらに驚きがある。目の前でフラワーダンスというチームが進化していくさまを見せられているかのようだ。
(ちょっと興奮してしまいますわね)
クロスファイトドームに通う日々だったが、こんな経験は初めてかもしれない。どちらかといえば冷めた視線で観察していたのだから。
「じゃあ、撹乱してみる」
再配置している。
「ビビとウルでグレイを抑えて。サリは両方を見つつミュウ寄りに牽制を。ミンと押していけばリィだけでも突き放せない?」
「了解。みんな、配置」
「承り」
分断する方針を変えないまま手段を変える。それが適材適所なのかはわからないが、すぐに結果が出るであろう。全体の動きが変わって見えたからだ。
「ちっ! 足元を崩しに来やがったか」
「こういうの効くでしょ、あんたは」
「しゃーねえな!」
ラヴィアーナの目の前でゼムロン五機が有機的に機能しはじめた。
次回『試行錯誤する花(4)』 「油断できません。たぶん時間勝負になります」




