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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
花咲く乙女の舞

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試行錯誤する花(2)

 フラワーダンスの前衛(トップ)三人がそれぞれに考えに耽るのに対し、戻ってきた後衛(バック)二人は疲労困憊という様相だった。だるそうにしているのに表情は鬼気迫っている。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫なわけあるかー! こんな地獄の鬼ごっこ、初めてだわー!」

 盛大に悲鳴をあげる。


 ヴァンダラムに追い詰められた挙げ句に突き倒されつづけたらしい。援護役だけの戦闘など練習しておらず苦戦は免れなかったのだろう。


(こっちも強化すべき? でも、これ以上の練習法なさそう)

 休憩を与えなければ訓練を続けられないほど。


「スタミナ足りねえな。もっと根性入れろっての」

「あんた、コーチ向いてないわ」

 鬼教官に苦言を呈する。

「とはいえ、上目指すならスタミナ強化も課題ね。ハイクラスのチームは戦術もしたたかだもん」

「僕たちほど動けなくてもいいけどさ、あるに越したことないね」

「言いたくないけどグレイも化け物よ。あんな死闘を三十分以上続ける体力を女の子に求めないで」


 今後の合同練習を再考しなくてはならないでは困る。効果は実感したばかりなのだ。


「ひと息入れたら実践訓練すっぞ。準備運動は終わりだ」

「さっきのを準備運動だって言うあんたの神経壊れてるから!」

 レイミンは火が点いたように怒っている。

「まあまあ。チーム対抗戦なら負荷下がるでしょ? これからは少し楽になるから」

「復讐してやる。泣くまで火だるまにしてやる」

「はいはい、その意気でね」

 そうとしか言えない。


 グレオヌスは苦笑し、ミュッセルはどこ吹く風でドリンクを吸っている。残念ながらレイミンの希望が叶う気がしない。


(ミンもサリも決して力の足りない砲撃手(ガンナー)じゃない。なのに二人掛かりで逆に追い詰められるようではね)


 ガンズスラッシャーでも簡単に撃破したのをまぐれだとは思っていないが、単独でも戦闘能力は比較にならないようだった。それこそ五対二くらいでちょうど良さそうである。


「じゃあ、いつものフォーメーションでいい?」

「それっきゃないでしょ。今日の要点はウルの動き次第。気合い入れていってね」

「承り」

 回復したサリエリが冷静に分析している。


 チーム内以外の位置リンクを切ってビビアンたちは配置に散った。


   ◇      ◇      ◇


「こんにちは」

 訓練場の様子を凝視している少女に声を掛ける。

「ちょっといい?」

「あわっ! ちゃ、ちゃんと許可もらって入ってます! 不法侵入じゃありません!」

「違うのよ。そういうんじゃないから」


 ラヴィアーナは慌てる少女を宥める。別に咎めようというのではない。


「フラワーダンスとツインブレイカーズはあなたのお友達?」

 そう訊くと合点がいったようだ。

「はい、そうですけど」

「私、こういう者なんだけど」

「アームドスキン開発主任のラヴィアーナ・チキルスさんですか。ヘーゲル社……? あのヘーゲルさんの?」

 表示させたプロフィールを読みあげている。

「私はエナミです。二つのチームメンバーとはクラスメートなので」

「おお、なるほど。じゃあ、二つのチームは同じクラスのスクール生だったのか。そこまでは知らなかった」

「ジアーノさんですね」

 副主任もプロフィールを提示する。


 落ち着くと穏やかな雰囲気の少女だった。とてもクロスファイトに熱狂するタイプではないように見える。しかし、σ(シグマ)・ルーンを着けているところを見ると興味はあるのかもしれない。


「うちを知ってる?」

 この年代にはリーチの薄いメーカーであるはず。

「実は御社さんでスツールリフトを購入させていただいたばかりなんです。それで知ってて」

「お客様だったのね。それはありがとうございます」

「とんでもない。とても便利で安定してて助かってます」

 非常に育ちの良い空気を醸しだしている。

「あれ? でも、ヘーゲルさんってアームドスキンは関係なかったような。軍需産業だと軍用車両くらいじゃないです?」

「詳しいのね。調べてくれたの?」

「はい、購入するメーカーのことは少し」

 少女は「友達が褒めてましたし」と付け加える。


 メインのリフトカーとは違うライトな顧客層の一人だとわかる。ただし、ラヴィアーナの今の目的とは関係しない。


「実は新たにアームドスキン部門が新設されているの」

 内緒よ、と前置きしてから伝える。

「そうなんですか」

「実機の動きを色々研究しててエンジニアルームにもお邪魔させてもらってね。試合もいいけど、訓練の場面もわりと参考になるわ」

「それでビビたちを?」

 友人なのは間違いない様子。

「ああ、一緒に観戦させてもらってもいいかな? この区画(ブロック)のドローン操作は君のコンソールが握っているからね」

「私はただの見学なのでかまいません。みんなの動き、すごいでしょう? 興味湧くの理解できます。会話も聞きます? 別のチームの方じゃないから問題ないと思います」

「助かるね。ありがとう」

 エナミは友人のことながら自慢げである。


 ジアーノが交渉すると快く受け入れてくれた。それどころか会話まで聞けるとなると非常に参考になる。


(ちょうどよかった。話し掛けて正解でしたわね)


 ラヴィアーナは幸運に感謝した。

次回『試行錯誤する花(3)』 「ごめんなさい。差し出口を」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 新規参入か、確かに腕と華が欲しいな。
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