見つめられる花(3)
(面白い。バランスに優れているというよりバラエティに富んでいる感じ。一人一様の特質を持っている)
ラヴィアーナはエンジニア視点でチーム『フラワーダンス』を評する。
(ジアーノは彼女たちのパイロットスキルをどう見たかしら)
尋ねようかと思ったが、副主任の目は別のところに釘付けになっていた。そこには新たに登場した二機のアームドスキンがいる。一方が真紅で目立つだけでなく、灰色の機体もかなり勇壮なフォルムをしていた。
「あれは?」
彼女も目を奪われる。
「なんてことだ。噂をすれば影ですよ。あの二人が件の異端児です」
「異端児?」
「チーム『ツインブレイカーズ』。たった二人、それも剣士と格闘士タイプという偏った編成でチーム戦を荒らしているんです」
通からすると苦々しい存在であるようだ。常識を覆すような嵐を巻き起こしている。普通のファンにはパンチの効いたスパイスになってウケているという話だ。
「参考にならない?」
凄腕のパイロットではあるはず。
「なりませんよ。見てください」
「他メーカーでも見たことのない機体ね」
「当然です」
ラヴィアーナもアームドスキン開発主任として各メーカーの機体からリーク情報まで目を通している。その中のどれにも該当しないフォルムをしていた。
「灰色のほうがグレオヌス・アーフ。大袈裟に扱われていませんが、彼はあの『銀河の至宝』の息子です」
とんでもないことを言う。
「ホールデン博士の?」
「はい。だから、息子を熟知している彼女が自ら手掛けた専用機なんですよ。スペックは比べ物になりません。彼にテストパイロットを望むのなんておこがましい」
「乗ってくれるわけないですわね」
ハイスペックの機体を持っているのに他に浮気、しかも海のものとも山のものともわからない車両メーカーのアームドスキンになど乗ってほしいとは言えまい。
「赤のほうがミュッセル・ブーゲンベルク。クロスファイトでは有名人です」
そちらは聞いたことのある名前だった。
「この前の事件の?」
「ええ、当人です。ソロでは格闘士タイプでありながらリミテッドクラスという怪物ですよ。手が付けられない」
「そんなに強いのね。パイロットスキルも相当のはず」
どこかのメーカーが抱えていないほうがおかしいくらいだ。
(格闘士タイプはある種理想なのだけど。機体そのものの純粋なスペックを引きだすスタイルだわ)
引き入れたいとは思う。
「こっちはもう訳わかりません」
ジアーノはお手上げというジェスチャーをしている。
「見てのとおりのプライベーターなのですが、あの『ヴァンダラム』はとんでもない。グレオヌス君のレギ・クロウに勝るとも劣らないという分析結果が出てます。どこから出てきたんだか」
「出処不明なの?」
「どこかのメーカーが内密に契約しているとか、星間管理局開発部が抱えているとか、ほとんど都市伝説みたいな噂ばかりです。実際のところは誰も知りません」
謎多きアームドスキンだという。
「前のヴァリアントは荒削りで素人臭さを感じさせる機体だったのに、今度のアームドスキンがあれですから。エンジニア界隈では話題騒然ですよ」
「自分の開発機に夢中で知りませんでしたわ」
「訓練に加わる気みたいですから見ればわかります。とてもじゃないけど、あれから降りてこっちに乗れだなんて言えない代物ですから」
極めて高評価を得ているらしい。チーム戦参入から数試合しか戦っていないのに、当初の評価を覆して快進撃を繰り広げているようだ。クロスファイトには彼女の想像を遥かに超える化け物がゴロゴロいるらしい。
(私が欲しているのはそんな怪物じゃないの。誰でも到達できるレベルのスキルで、なおかつ優れた技能を持っているテストパイロット)
新規事業だけに癖の強い面々ばかりが集まっているのかとラヴィアーナは不安になる。
「二組ともスクール生選手。確か公務科の一年生だったな」
ジアーノが記憶を探っている。
「どうやら繋がりがあるみたいです。で、一緒に訓練しようって話になったんですかね」
「そうみたいね。二対五で訓練になるものかどうかわかりませんけど」
「いいバランスかもしれません。参考になるかどうかは不明ですが。どうします?」
どっちとも言えない反応が返ってくる。
「近くで見ようと思います。移動しましょう」
「興味あります? エンジニア視点でなくクロスファイトファンとしての興味なら尽きませんけど」
「テストパイロット探しは長丁場になりそうです。たまには寄り道もいいでしょう」
口ぶりに見てみたいという思いが見え隠れしている。開発業務は苦しい道のりだった。たまには部下のストレス解消に付き合うのもいいだろう。
(それに、なんだか少女たちが気になるわ)
フラワーダンスメンバーのプロフィールをチェックしながら思う。
(さっきの動き、円熟味の中にも伸びしろを思わせるものが詰まってる。もう少し見ていたいわ)
ラヴィアーナたちが移動すると透明金属窓に張り付いている少女がいた。
次回『試行錯誤する花(1)』 「ビビぃー、勘弁して」




