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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
花咲く乙女の舞

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見つめられる花(2)

 フラワーダンスはチーム内模擬戦を開始する。いつものビビアン、サリエリコンビとユーリィ、レイミンコンビで対戦する。ウルジーは遊撃し、隙あらば両トップを攻撃して問題点を洗いだす方法。以前からくり返してきた訓練法である。


「サリ、走ってるから狙って」

「ほい」

 ビビアンはチームリンクで指示。


 ユーリィの機動速度はチームで一番。それだけに援護が間に合わないケースも散見されて長所であり短所にもなる。速攻を掛けるのには猫娘は必須だが、攻撃ライン構築の足を引っ張るときもある。


「ミンは来てない。出る」

「足留めする」


 ユーリィ機の前に出す。気配を感じていた猫娘が先手を打ってくるが、ビビアンも予測済み。弾いて射線を作る。後方の障害物(スティープル)に張り付いていたサリエリの狙撃が着弾した。


「やられたに」

「下がる。復帰したら追ってきて」

「はいにー」


 単独でビビコンビと対するのを避けたレイミンは後退する模様。ビビアンは追撃し撃破を目論む。しかし、横合いからのスティックが肩を叩いてスティープルに激突した。砲撃手(ガンナー)の影を追うのに意識を置きすぎている。


「もう!」


 自身に苛立ちをぶつけながらサイドステップ。空振りしたスティックがスティープルを突く。反対側の先がくるりと回って襲い掛かってきた。

 反射的にブレードで受けそうになるが思い直して避ける。スティックはブレードの力場とエネルギー干渉しない。そしてセーフモードの力場刃は鋼棒を斬り裂くこともできない。一方的に殴られるだけ。


(これがウルの最大の武器なのよね)

 クロスファイトのルールの裏をかく武器なのだ。


「は! ほ!」

「ううっ、味方ながらめんどい!」


 当然ながら22mもあるスティックを扱うのには相応のテクニックがいる。そうそう真似できるものでもない。


「避け!」

「はい!」


 ブラインドからサリエリが狙撃する。瞬時に避けてみせるが、ウルジーもビビアン機の動きに注意を払っていた。同時に避ける。

 スティックでビームを打ち払うことはできず、両手で扱うだけ咄嗟にリフレクタも使いにくい。利点があるスティックが普及しない理由がそれだ。


「ふんにー!」

「ここっ!?」


 ユーリィが復帰していた。このチーム内模擬戦でのルールは30秒復帰。そうしないとただのサドンデスとなり、仕切り直しが多すぎる。スタミナ訓練にならない。


「くぅ!」

「…………」


 一時的に三つ巴になるがウルジーが下がっていく。両方の砲撃手(ガンナー)から狙われる彼女は不利になる。再び遊撃して両トップを叩くか、油断したガンナーを狙う。


「取り返すに!」

「興奮しすぎ」


 大振りではあるが威圧感も半端ではない。人類種(サピエンテクス)に比べて猫系獣人(パシモニア)の彼女は剛力の部類。接触判定しかないので関係ないのに、一閃の威力があるのはプレッシャーになる。


「足元がおろそかよ」

「下がれないに!」


 いつの間にかスティープルを背負わされている。プレッシャーの掛け方そのものが誘いであった。単純に見えてユーリィもしたたかである。


「んんっ!」

「にぃ!」


 どうにかゼムロンを転がして躱す。射線を作ったつもりが援護射撃が来ない。追い打ちを掛けられ転がりつづける。


「なんでー?」

「ごめん。落とされた」


 サリエリ機が地面に転がっている。彼女がいたであろうスティープルにウルジーが飛びついていた。重力波(グラビティ)フィンをひるがえして着地する。


(混戦模様に集中して周りが見えなかった? 反省点ね)


 砲撃手(ガンナー)運命(さだめ)みたいなものなので強くは言えない。狙点から射線が開けるのを集中して監視していなくてはならないのだ。それでも我が身は自分で守るしかない立場。


(白兵戦しないからって楽な役回りじゃないわ)


 密着して攻撃し合うギリギリの感覚はない。だが、いついかなる時に攻撃を受けるかはわからない難しさがある。


「駄目。詰みだわ」

「同点だにー」


 ビビアンは頭部に一発食らってモニタダウンしたところをユーリィ機の斬撃を受けて撃墜(ノック)判定(ダウン)状態になる。バックが落ちればトップは一気に厳しくなるのは明白。


「待つにー!」

「逃げる」


 ウルジーを追い掛けに行くユーリィだが、機敏な彼女を捕まえられるとは思えない。その間にビビアンコンビは復帰できるだろう。


(良くはなってる。でも潰しきれない穴もある。チーム内だけで対策するのにも限界があるんだわ)


 次の詰め手を考えていると、時間切れの合図が掛かった。特に制限は設けていない。ただ今日は練習相手がいたというだけ。


「そのまま混じんのか? 仕切りなおすのか?」

 ミュッセルの声だ。

「待って。一回止める。それから決めましょ」

「おう」

「わかったよ。スペースに集合でいいかい?」


 赤と灰色の機体が悠々と歩んでくる。アームドスキンでの対面となると二人の威圧感はユーリィの比ではない。訓練相手には最適である。


「楽しみなんにー」

「私の一撃が躱せるかしら?」

「みんな、頑張れー!」


(エナミはエンジニアルームにご招待ね。ミュウくらいのハイクラス古参なら融通が効いて助かるわ)


 少年二人をどう攻略すべきかビビアンは頭を切り替えた。

次回『見つめられる花(3)』 「あの二人が件の異端児です」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 まぁ、あの二人に比べたら普通か?
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