碧星杯二回戦(1)
「この事件で一躍有名になったミュウ選手ぅー! 私から言わせてもらえれば、どうして街を破壊しなかったのか、『紅の破壊者ぁー』!」
「するか、馬鹿野郎! たかが酔っ払いをとっちめるのに街壊してどうすんだ、ボケ! そんなことしたら俺はこの場にいられねえに決まってんだろ!」
入場してすでに紹介を受けた今、いつものリングアナとミュッセルのアドリブ掛け合いコントが始まっている。グレオヌスは終わるまで第三者に徹することにしている。
(不謹慎だけどユーモアのレベルに抑えてある。上手いな、フレディ氏は)
呑気に考えていた。
「そんな紙一重の悪魔が対するのはこのチーム!」
「誰が紙一重だ! ぶっ飛ばすぞ、てめぇ!」
「北サイドからの入場はチーム『ウォーロジックぅー』! 奇しくも同じスクール生! それも軍務科のエリートの登場です! 強者を前にチーム『ツインブレイカーズ』はどう戦うのか! 注目の一戦です!」
パオ・リシガン率いるAクラスのチーム『ウォーロジック』は全員がアームドスキン『シュトロン』で入場してくる。古くプレーンなベース機体ながらも名機と評され、未だ実戦配備されているところもある。
(母が最初に手掛けたアームドスキン。ちょっと皮肉な感じはするな)
彼の母ホールデン博士が開発に大きく関わった機体である。
重力波フィンタイプに改装されてはいるが管理局の配備では二世代、三世代前の機種になる。現在は『コムファンⅡ』か『ゼスタロン』が主力である。
「奴ら、スポンサーに部品製造メーカーが付いてる。だから、購入機体に開発したパーツを組み込んでテストさせられてんだ。機体を提供してもらう代わりにな」
ミュッセルからそう説明を受けていた。
少なくないタイプに類するチームだとマシュリからも聞いた。アームドスキンメーカーも数に限りがあり、契約しているパイロットのワークスチームも比例して多くはない。
しかし下請けパーツメーカーとなると裾野は広がり数も多い。クロスファイトとという場が宣伝にも開発にも有用である以上、参入のメリットは高いそうだ。
(準ワークスチームってとこかな。競争も激しくて大変そうだ)
メーカーに抱えられている契約パイロット枠は熾烈な争いになる。選手の中には将来の活動を見込んで売り込みに余念がない。
パオたちは星間軍入隊が目標なので事情が異なるが、それでも専用にチューンされたアームドスキンを使えるか否かは勝敗に大きく関わるので必死だろう。
(だからって後輩にプレッシャーを掛けにくるのはいかがなものかと思うけどな)
理解はできても共感はできない。
(パイロットスキルで勝負できなければ将来苦労するだけだろうに)
彼らの言うランクの低い星間平和維持軍にまわされるのは是が非でも避けたい将来らしい。また胸にモヤッとしたものが込みあげてくる。
(果たしてそうかな? 演習ばかりしている星間軍より、実戦経験豊かな星間平和維持軍が劣っているといえるかな?)
グレオヌスはそれを証明しにきた。
「目立って増長した後輩を指導するのも先輩の役目。その驕り、今日この場で打ち砕いてやろう」
「格好いいな、先輩方よぉ? 放課後に呼びだして負けろって迫ってきた奴と同一人物だとは思えねえぜ」
「き、貴様、我らに恥をかかせようとそんな嘘を!」
暴露された相手は激昂している。自ら証明するような振る舞いに呆れを通り越して落胆する。もう少しクレバーでいられなければ実際の戦場では通用しない。
(星間軍の質は思ったより下がっているかもしれないな)
不安に感じてしまった。
(まあ、彼らは特殊な部類で、実際に入隊するのは志高い人ばかりだと思っていたほうが精神衛生的にいいか)
「据えかねてんだろ?」
抗議の声をあげるパオを無視してミュッセルが言ってくる。
「怒ってはいないさ。色々と思うところがあるだけ」
「露払いしてやるぜ。奴と一騎打ちでいいだろ?」
「腹に据えかねているのは君のほうじゃないかい?」
相棒は「違いねえ」と笑う。
「友達に手ぇ上げやがった野郎に一発ぶちかましてやりてえのはほんとだな」
「でも、この構成は大変だろう?」
「なんとかなんだろ」
ウォーロジックは3トップ構成だ。剣士三名に砲撃手二名という布陣。かなり攻撃的なチームだといえよう。パオを除けば2+2を相手しなくてはならない。
「トップエース先輩を引っ張りだせ。それだけでいい」
「わかったよ」
(メーカーのサポートがあるのにAクラスに甘じているチーム。底は知れるというものだな)
読み解く。
「おーっと、早くも口撃戦に突入しているぞ! 戦いのゴングを待ちきれない!」
リングアナも煽りにくる。
「アリーナも待ちきれないかぁー? さあ、ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
ゴングが鳴る。ウォーロジックの五機は開幕から動く様子はなかった。こちらに合わせて対処ができると見下している。
「余裕ですか、パオ先輩?」
ブレードを展開して半身に構える。
「あまり侮らないほうがいい。僕は実戦経験者ですよ?」
「スクール生がブラフを。そんなわけがない」
「残念ながら生まれも育ちも戦闘艦です。若造が専用機を用意してもらった意味を考えてみてください」
「まさか?」
パオはグレオヌスの挑発に見事に乗ってきた。
次回『碧星杯二回戦(2)』 「すっごい勢いでクロスファイト通になってきちゃうわ」




