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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
スクールの選手たち

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ミュウ、逮捕される(3)

『ゼムナの遺志およびそのパートナーとなる協定者は、全ての法律、政令、条例、軍規などにより罰することはできない。また、全ての司法権、行政権はこれを拘束、裁定、刑の執行を禁ず。』


 以上が、ゴート宙区が星間銀河圏に加盟するときに結ばれた『ゴート協定』の第十四条である。他は常識的な内容であったが、この条文だけは異質。

 当時は司法部で議論の的になった。しかし、それも地方文化、つまり現存する遺跡『ゼムナの遺志』を神格化する風潮によるもので認められるべきとなる。


(その頃はゼムナの遺志と呼ばれる存在そのものが、これほど星間銀河圏でも密かに同居しているとは考えられなかったのよね)

 だからこそ認めたという一面もある。


 ところが意外なほどの数が星間銀河圏全域で確認されはじめる。『ザザの狼』しかり、『リトルベア』しかり、『キアズの守護者』しかり。

 しかも、『剣』ラフロ・カレサレートや『翼』ジュネ・クレギノーツにいたってはこの銀河の要に近い。決して法の運用から除外などできない。


(運用が難しくなってきてる。星間法の存在を否定しかねないほど)

 ユナミは眉根を揉む。


 通告してきた銀髪の美女はすでに通信を終えている。つまりは要請ではなく警告であるということ。拒むなど不可能に近い。


(まさか人生で二度も直接ゼムナ案件に深く関わることになろうとは)


 彼女は三十年余り前にもゼムナ案件に関与していた。俗に『リトルベア事案』と呼ばれる大事件。当時はまだ本局長補佐官であったが、捜査を専任していた司法(ジャッジ)巡察官(インスペクター)『ファイヤーバード』と協議して事案の解決の糸道を作りあげた。


(あの詐術(トリック)をひねり出して、重犯罪者『リトルベア』という協定者の生存を表の社会から消せたのは幸運だった)

 状況を利用して生みだした絡繰りである。

(でも、今度は難しいわ。あの少年を社会の目から消すことはできない。十分に有名人だもの。だからといって裁かないわけにもいかない。星間法が土台から揺らぐわ)


 ゼムナ案件はいつもユナミに難問を投げかけてくる。齟齬の生じない答えを求めてくるのだ。その実績が彼女を今の地位に押し上げてくれたともいえるが。

 今回も難問を解決しなくてはならない。そうしないとゼムナの遺志すべてが反旗をひるがえす結果も予想される。ひいてはゴート宙区との銀河大戦に発展する可能性も否めない。


(今の星間銀河圏の要たる人物が全員敵にまわるなんて背筋が凍るわ。あってはならない)

 最も避けるべき事態。

(ましてや、彼とチームを組んでいるグレオヌス・アーフ。ザザの狼の長子ではないの。この子の反感を買うのも危ういわ。GPF遊撃艦隊戦隊長のブレアリウスこそ正義感にあふれる人物だもの。受け継いでいるものがあるはず)


 そのためには少年ミュッセル・ブーゲンベルクを無罪放免にしなくてはいけない。今回はどれほどのトリックが必要になるか。


「どうかなさいましたか?」

 苦悩する様を見て副局長がやってくる。

「いいかしら?」

「いかなるご用件でも」

「あの少年、ゼムナ案件でした」

 さすがの副局長もビクリと震えて瞠目する。

「そう……でしたか。納得せざるを得ないかもしれません。あの年でこの強さ。なにか秘密がなければ説明できないかと」

「本人の人格は極めて良好よ。救済に値するのだけれど、問題は現状を打破するトリックが不可欠だということ」

「なるほど。しかし……」


 彼も絶句する。クロスファイト仕様アームドスキンは現実に危険なもの。運用を緩和するのは無謀だといえる。選手がこぞって正義感を発揮するような羽目になったら目も当てられない。メルケーシンの秩序は崩壊する。


「彼が協定者であるのなら協力者にしたいのですよね?」

 考えをまとめながらこぼす。

「それよ! 名案だわ」

「え、なんでしょう?」

「協力者にしましょう。あなたは本件で被害に遭いそうだった方の証言を集めてくださる? わたしは星間(G)保安(S)機構(O)説得(・・)に当たります」

 条件作りを始める。

「承りますが……」

「あまり時間がありません。夕方にはミュッセル少年を家族が引き取りに来てしまいます。内密に交渉をする機会を逸してしまう。それだけは駄目よ」

「はい、急ぎます」


 ユナミは慌てて命令書の書式を開いた。


   ◇      ◇      ◇


 段取りを整えて再び星間(G)保安(S)機構(O)ビルにユナミは出向く。ギリギリ間に合ったようで、透明金属パーテーションの向こうから解放されたミュッセルが家族と引き合わされているところだった。


「馬鹿息子がご迷惑をお掛けしました」

 少年にしたたかに拳骨を落とした小柄な女性は母親だろうか。

「十分に反省させますので、今回はどうにか寛大なご措置をお願いします。なにぶん、見た目ほどの大人ではないので」

「わかります。が、致し方ありませんな。まずは、このライセンス停止同意書にサインから」

「おっしゃるとおりにしな、ミュウ」


 そこには母親と件の銀髪の美女、そして狼頭の少年もいる。彼まで居合わせるのは計算外であったが好都合でもあった。


「お待ちになって」

 歩み寄って言う。

「局長殿?」

「ミュウ、その措置を無効にする方法があるわ。わたしの話に乗る気はあって?」


 少年はユナミの申し出に面食らった表情をしていた。

次回『ミュウ、逮捕される(4)』 「ありがたいねえ、うちの馬鹿にこんなに」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 司法取引……いや、スカウトかな?
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