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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
スクールの選手たち

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エナミの受難(2)

 放課後、エナミはミュッセルたち二人を隠れて追いかける。もちろん先輩たちに呼びだされた彼らが心配でだ。


(ビビたち平気なのかしら)


 フラワーダンスメンバーは一緒ではない。大丈夫か相談したのに皆は問題ないという。口々にミュッセルのほうが強いと断言した。


(そうかもしれないけど、相手が何人かもわからないのに)


 長身のグレオヌスはそれだけでも強そうだ。しかし、ミュッセルは生身で体重差がある相手だと厳しい気がする。アームドスキンに乗っているからこそ大人とも渡り合えているのだと思っている。


(五人もいる)


 突きとめた呼び出し場所には身体の大きな先輩男子が五人。皆がしっかりと鍛えられた肉体をしている。いかにも将来は軍人といった風情であった。


「用件はわかっているな?」

 挨拶も抜きで言ってくる。

「知らねえな。軍務科とは縁がねえからよ」

「相手が誰だか知らないとでもいうか?」

「知ってる。チーム『ウォーロジック』のリーダー、パオ・リシガンだろ? 碧星杯二回戦はあんたらとだったな」


 エナミは驚く。対戦相手のチーム名までは知っていたが、まさか同じスクール生だとは思わなかった。


「先輩への礼儀をわきまえろと言ってる」

 パオと呼ばれた男が睨みつけている。

「もちろん礼儀は尽くすぜ。最初っから全開でぶち当たってやっから心配すんな」

「道理のわからない奴だな。公務科生が軍務科のパイロットに逆らってどうする」

「まさか八百長しろとかいうんじゃねえだろうな? (G)(F)パイロット候補の名が泣くぜ?」

 鼻にも掛けない。

「くだらない問答をしたいんじゃない。わきまえろと言うのがわからないか?」

「経歴に傷を付けたくねえってんならお門違いだ。そんなに大事ならクロスファイトに出てくんじゃねえよ」

「そうですね。リングは選手にとっての戦場であってパイロットの戦場ではありません。そのへんは理解しているものと思っていますけど」


 グレオヌスも抗弁する。後ろからなので表情は見えないが声はあからさまに不機嫌そうである。


「実績になるってわからないか?」

 先輩たちは距離を詰めてくる。

「冗談よせよ。成績に反映されるならリングは軍務科生だらけになってんだろうが。そうじゃねえってことは、教師は評価しねえって意味だ」

「学校の評価にならなくても、名前が売れれば入隊時の査定に影響する。関係ない公務科生が出しゃばらずに道を譲れ」

「見苦しいことこのうえないですね。譲られた評価で入隊したって化けの皮が剥がれれば馬鹿にされるだけだと思いますけどね?」

 グレオヌスはどうにか堪えている様子。

入隊時(そこ)が大事だって言ってるんだ。もし、評価が悪くて星間(G)平和維(P)持軍(F)なんかに落とされてみろ。宇宙を駆けまわる御用聞きに転落だぞ?」

「聞き捨てなりませんね?」

「そうか。こいつの父親は有名人だったな。御用聞きの中での話だが」


 狼頭の耳がピンと立って横向きになる。背中でさえ怒気を放っているとエナミにさえわかった。


「おいたが過ぎたな、先輩方。身体に教えてやんねえとわかんねえか?」

 ミュッセルが一番近いパオの胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「手を出したな? これで回りくどい言い方をしないでいい。囲め」

「馬鹿だな。口で済ませてるうちに説得を受け入れておけばよかったのによ」

「きっちり指導してやらないとな」


(喧嘩になる! あんな身体の大きい先輩たち五人もいたらただじゃすまない)

 エナミはいても立ってもいられない。


 気が付くと飛びだしていた。囲もうとする軍務科の男子生徒の前に両手を開いて立ちふさがっていた。


「駄目です! 校内で喧嘩なんて許されません!」

 怖いという気持ちがどこかに飛んでいってしまっている。

「先輩方もクロスファイト選手なら勝負はリングで着けてください。こんなのおかしいです」

「エナ、お前」

「いけない。下がって」

「なんだ、こいつ」


 グレオヌスが制止しようとするが間に合わない。彼女は押しのけようとした先輩の一人に突き飛ばされた格好で地面に転んだ。


「てめぇら、遊びじゃ済まなくなっちまったぜ?」

 即座に抱え起こしてくれたミュッセルが軍務科生を睨みつける。

「そ、それがどうした。今のは単なる事故だろう? ちょっとぶつかっただけだ」

「少しくらい怪我したって」

「待て。その子、まさか一年の『ネストレル』の……」

 一人が慌てはじめる。

「本当か?」

「転入してきたとき噂になったろう? 俺、ちょっと覗きに行ったんだ」

「マズいぞ」


 狼狽は伝染し、五人とも身を引いて距離を取る。しかしミュッセルは収まらない様子で拳を鳴らしはじめる。


「いや、待て。さすがに喧嘩はマズいな。彼女の言うとおりリングで正々堂々と戦うこととしよう。二回戦を楽しみにしている」

「どの口でほざきやがる」

「じゃあ、クロスファイトドームでな」


 五人は逃げるように去っていった。赤毛の少年は苛立たしげに舌打ちをして地面を蹴る。しかし、彼女を庇って放しはしなかった。


「ミュウ?」

「っと、いけねえ。怪我ないか?」

「大丈夫そう」

「そら良かった。ありがとな」


 輝くような笑顔が近すぎてエナミは顔が真っ赤でないかと気が気でなかった。

次回『エナミの受難(3)』 (私、意識してる、ミュウのこと?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……何ともダサイ! 典型的負け噛ませ犬ムーブ!?
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