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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
スクールの選手たち

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エナミの受難(1)

 翌朝エナミが教室でライセンスの勉強をしているとフラワーダンスメンバーが登校してきた。今日は別のトラムだったらしい。


(楽しみで早く目が覚めちゃったものね)

 なんとなく早めに家を出てしまった。


 σ(シグマ)・ルーンは今日届くはず。スツールリフトに適用される軽車両ライセンス取得の勉強を進めて近々試験を受ける。それもσ・ルーンを使えばリモートバーチャル空間で実技テストが可能。色々とはかどるし、なにもかもが上手くいっている感じがする。


「エナが手間取るような宿題あったっけ? なんの勉強?」

 投影パネルを覗き込まれる。

「おはよう、レイミン。一番下のバイクライセンス取ろうと思って」

「え、ほんとに買うの?」

「ええ、昨日ミュウたちと見に行ったらすごく可愛いのがあって欲しくなっちゃった」

 彼女らも興味本位だと思っていたらしい。

「どれどれ? スツールリフト? ほんとだ、可愛い」

「すごくお手軽そうでしょう?」

「ちっちゃいにー。そんなにスピード出ないやつに」


 ユーリィが言ってくる。彼女もバイク通学女子の一人で、昨日見た小型のリフトバイクを愛用している。


「シートはお尻を乗っけるだけに。半分立って乗るみたいな感じにー」

 さすがに詳しい。

「そうなの。でも、遠乗りとかしないであっちこっちするのにはちょうどよくない?」

「うん、燃費も良いに。スティック一本で忘れるくらい走るにー」

「経済的で便利なら学生にも優しいかなって」

 体重の軽い彼女でも乗りやすいと褒められた。

「そっかぁ。なんかいいわね?」

「普段遣いの足だけど。ビビたちならライセンス改めて取得しなくてもいいでしょう?」

「あたしたちはアームドスキンライセンス保持者だしね」


 交通機関組が顔を見合わせている。どうやら羨ましくなってきたらしい。


「ど、どうする?」

 慎重派のサリエリは戸惑い気味。

「賞金のチームプール、結構貯まってるけど?」

「解散するとき分配するあれよね? でも、ユーリィだけ要らないっての悪くない?」

「別にいいのにー。なんだったら、あちきのも新車にしてくれてもいいに」

 ビビアンは「それは却下」と即答する。

「ひどいにー」

「買い替えタイミングのときは検討してあげるから」

「そんなに耳を垂らさない」


 シュンとした猫娘をウルジーがよしよしと撫でている。なんだか妙な流れになってきた。


「なんだ? 雁首揃えてよ」

 そこへミュッセルたちもやってきた。

「おはよう、みんな」

「おは、グレイ。エナがスツールリフト買うって言うから、ね。その、あたしたちも欲しいかなって」

「買うのか? 俺は安心のヘーゲル社製の乗ってんが、別のメーカーなら安いのもあんぜ?」

 調べれば色々種類があるという。

「んー、リングみたいに勝負するんじゃないから安定性のあるメーカー品が良くない?」

「うん、安全が一番かも」

「まあ、運営は推奨してねえがよ。バイクは交通システムの範囲外だから全部自分で運転だ。事故るリスクは若干高ぇ。選手が怪我するの嫌うからよ」


 クロスファイト運営はバイク使用にいい顔をしないという。人気選手が交通事故で出場できなくなるのを避けたいらしい。


「そんなこと言っても、クロスファイトそのものが危険なスポーツじゃない」

 ビビアンは肩をすくめる。

「見せないようにしてるけど肩とか腰とか痣が常駐してるわよ。女の子には悲しい現実なんだけど」

「だろ? 今更だっつーんだよな」

「苦労してるんだね?」

 グレオヌスは慰めている。

「あちきとグレイはいいのに。毛皮あるから痣になりにくいのにー」

「そーそー、ユーリィだけズルい」

「勘弁するに。プールでスツールリフト買っていいにー」


 とはいえユーリィやグレオヌスのような獣人種(ゾアントピテクス)でも安全装置(ロックバー)の当たる部分は毛皮が薄くなる。それが悩みの種だという。


「ミュウとの決戦のあとなんか僕でさえ痣ができてたからさ」

 苦笑いしている。

「激しかったもんね。あんなとんでもないの、わたしだって初めて見たもん」

「呑気に言ってていいのかよ、サリ。ツインブレイカーズはチーム戦カテゴリなんだぜ。当たったら激しくしてやんぞ?」

「やらしー。変態」

 いわれぬ非難にエナミは吹き出してしまう。

「勘違いしてんじゃねえ、てめぇ!」

「あははは、お手柔らかにね」

「これ以上悪名が立ったらどうしてくれんだ」

 ミュッセルが真っ赤な顔で抗議する。


 賑やかな集団はクラスの中心になりつつあった。彼女もだんだん注目を浴びるのに慣れてくる。気の置けない友人に囲まれて心地よくもある。


(前はできるだけ目立たないように努力してたのにね。今はなんとも思わない。環境で気分ってこんなに変わるものなのね)


「どしたの、ミュウ?」

 ビビアンが気づく。

「メッセだよ。軍務科の先輩たちからお呼び出しだ。挨拶してえとよ」

「軍務科? まさかパイロット組?」

「そうだろうぜ。こんだけ目立つといつかは来るだろうと思ってたが、意外と遅かったな」


 軍務科は(G)(F)候補生のコース。当然アームドスキンパイロット志望も多いし、実際に操縦する授業もあるそうだ。


(目を付けられちゃったの? 大丈夫?)


 エナミは心配でどうしようもなかった。

次回『エナミの受難(2)』 「用件はわかっているな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 専門コースかぁ。
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