スクール生の日常(2)
碧星杯第一回戦を難なく突破したツインブレイカーズの二人が教室に入ってくると少々ざわめく。話題性は上がっていく一方で、それまで興味を示さなかった生徒も彼らを応援するようになってきた。
(チーム戦参戦決める前からファンだったのに)
エナミはいささか面白くない。
とはいえ、彼女もにわかの域を出ていない。ミュッセルやグレオヌスとかなり親しくなったと感じているが、パイロットとしての二人やフラワーダンスのメンバーを理解しているとは言いがたかった。
(もっと知りたい。私のことも見てほしい)
そう願う。
(でも、ちょっと怖い。うちのこと知ってもこれまでどおりに友達でいてくれるかな?)
ネストレル家のことを知って離れていった友人も少なくない。本人はともかく、親に言われて距離を取った者もいただろう。
フラワーダンスの五人には話してあるが二人にはまだだ。態度を変えるタイプだとは思わないが、何度も味わった寂しさを思うと胸がチクリとする。
「今日、受け取りに行くんだ」
グレオヌスが話している。
「そうだ、エナ。お前、この前バイク買おうかとか言ってたろ。どんなもんか一遍見に行くか?」
「え、いいの? 一緒に?」
「おう、なんでもねえぜ。俺の馴染みの店だったら顔が利く」
思ってもない申し出だ。
「お願いしてもいい?」
「学校終わったらバスで追っかけてこいよ。俺はグレイと二人で先に行ってっから」
「手続きあるからゆっくりで大丈夫さ」
狼頭の少年も同意してくれる。親しくなる方便としては都合がいい。実際のところ、ミュッセルのような大きいリフトバイクを小柄なエナミが操れる気がしない。
(といっても身長だけならミュウと私、同じなんだけど)
並ぶとぴったり同じくらいである。
「じゃ、決まりだ」
「変なこと教えないのよ。エナは箱入りなんだから」
「なにが変なんだよ。まあ、女子でバイク通学はほとんどいねえがな」
ビビアンに注意されている。ミュッセルは頭を掻いているが意見をひるがえす気はなさそうだ。仲間を増やしたいのはバイク愛好者の性だろうか。
(ヘーゲルのお店みたいだし大丈夫よね。お父様の車もヘーゲル製だもの)
放課後、いつもはトラムに乗って帰るところをオートバスに乗る。途中まではバス組のユーリィ、レイミン、ウルジーと話しながら向かった。
停車所からもすぐそこの位置。彼女が降りると店の前で赤毛の少年が大きく手を振っている。小走りに道路を渡った。
「お待たせ」
少し息が弾む。
「なんてことねえ。悪ぃな、一人で来させて」
「ううん、さすがに三人は乗れないもの」
「そいつが欠点の一つなんだがよ」
店の前のスペースにミュッセルのバイクが置かれている。グレオヌスは先に入店しているようだ。自然に手を引かれて胸も弾んだ。
「どうだ?」
入るなり尋ねている。
「手続きは済んだ。まだ説明の途中」
「停車位置から決まったポイントまでは自動で引っ張りだせる。操作機器があれば、君の場合はσ・ルーンがあるね? 思考スイッチで自動で出てきてくれるよ」
「便利なんですね? ミュウはいつも自分でやってるから、そんな機能があるとは知りませんでした」
グレオヌスの前にはミュッセルの物とまったく同じ型のリフトバイク。かなり大柄だが彼がまたがるにはちょうどいいサイズに思えた。
「燃料のカーボンスティックはネットでも手に入る……、そうか君もブーゲンベルクリペアに住んでるんだったね。幾らでもあるか」
店員も勝手を知っている。
「うちで仕入れてる分が山ほどあんぜ。リアパックに五本も突っ込んどきゃメルケーシンの裏側までだって走る」
「そんなとこまで行くなら申請してレギ・クロウを使うさ」
「もっともだ」
三人で笑い合っている。
「クロスファイト、見てるよ。配信でだけどね。頑張って」
「ありがとうございます。リフトバイクで時間に余裕できたらもっと励めますよ」
「そうかい? たまには投票権買ってみようかね」
「おう、稼がせてやんぜ」
話が弾んでいた。なんとなく男性っぽい会話な気がして口を挟むのがはばかられる。エナミは店内を見回していた。
「っと、済まない。君もお客さんだったね。検討中?」
店員の若い男は商売を思い出す。
「全然わからなくって。どんな物があるんでしょう?」
「色々ね。彼らみたいな本格的な車体から、小柄な女性でも乗れるような小型車体もある。見てみるかい?」
「お願いします」
気さくに話してくれるので気後れしないですむ。友人二人も物珍しそうについてきた。
「このへんの車体はかなり小柄なものだね。スピードもそこそこ出るし、遠乗りにも対応してる。もちろん、ちょっと出掛けるにも大丈夫」
「ほんとうだ。小さめ」
「ただし、今みたいにスカートで乗るのは不可だ。通学に使うなら着替えが必須になる。ちょっと不便かもね」
(着替えかぁ。ちょっと面倒かも。やっぱり私には無理なのね)
女子用のパンツ制服もあるが、母がいい顔をしない気がする。
「ちょっと手間を掛けられるなら楽しい乗り物だよ」
「あれ? これ……」
エナミは違うコーナーにある車体に目を奪われていた。
次回『スクール生の日常(3)』 (どうしよう。ドキドキが伝わっちゃう)




