表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
スクールの選手たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/409

スクール生の日常(1)

 公務官(オフィサーズ)学校(スクール)の生徒、一般に『スクール生』と呼ばれる彼らの種類は多岐に及ぶ。

 最も多いのが各国で在宅(オンライン)授業(レッスン)を受ける生徒。星間銀河圏の全域各地に在学する。

 次に多いのが各地で開校している分校の生徒。各国に設置されているものもあれば、管理支局の軌道ステーションに設置されているものもある。

 そして、ごく一部に過ぎないのがエナミ・ネストレルのような本校の生徒。全員で三千人に及ぶがそのほとんどが登校を義務付けられている。


「いってきます、お母様」

 エナミは家を出る前に挨拶する。

「今日は遅くなるの?」

「ちょっと。碧星杯が始まるからドームに行かないと」

「ほどほどにね。成績に影響しない程度にするのよ。お父様、許してくれなくなってしまうわ」

 母は理解のあるほうだ。

「はい、気を付けます」

「姉ぇ、遅いの? 今日も遊べない?」

「ごめんね、クリオ。帰ったら一緒に遊ぼ」


 エナミには弟がいる。十一歳になったばかりで幼年校(ジュニア)に通っており帰宅は彼女より早い。以前は帰宅したら面倒見ていたのだが、クロスファイトにハマってからは一緒の時間が少なくなった。


(お母様が大変かも)

 そうは思うが気持ちが追いつかない。

(もっと自由にしていいって言われてるからいいよね?)


 母のイシュミナは仕事をしていないので家事が生活の中心。なのでクリオがいても大丈夫なのだが、なんとなく母を拘束している気がして弟の世話は進んでやってきた。そんなエナミにイシュミナは、青春を謳歌しろと言って聞かせている。


(お母様も気苦労が多いのに)


 父のセッタム・ネストレルは転勤族であった。ほぼ一年ごとに各支局を転々としてきた経歴を持つ。それは勉強の意味合いもあったようで、晴れて本部勤務、それも内務部長として配属された。よほどのことがなければ今後はメルケーシン勤務だと言っている。


(一箇所に住んでいられるのは私も楽だし)


 これまでは一年単位で転校をくり返してきた。そのほとんどが軌道ステーションの公校である。地上にずっといられて、なおかつ転校の心配がないのはエナミにとって幸せなこと。なので母も楽しめと言っているのだろう。


(積極的に友達作れるし。他にも色々)

 通学のトラムの中で考える。

(クロスファイトって楽しみも増えたし、素敵な人も……)


 赤毛の友人のことを思うと胸がキュンとする。これが憧れていた恋というものなのかはまだはっきりしない。見た目はともかく、行動言動が荒々しい彼を家族がどう思うかも考えてしまう。


(そんなふうに気遣いしてしまうのはほんとの恋じゃないのかな?)


 人間関係がどうしても希薄になりがちだった今までとは違い、これからは深く考えて付き合っていかねばならない。そういう立場でもあった。


(お祖母様に迷惑を掛けてしまうようなことは避けないといけないもの)


 一緒に暮らしてはいないが祖母もメルケーシンにいる。これまでは疎遠だった彼女とも関係性が密接になる。やんごとない地位にいる祖母は背負う責任も重い。なので孫娘が足を引っ張るようではいけないのだ。


(いくら星間管理局が実力主義だっていっても、家族の不祥事が全く影響しないなんてこともないもの)


 生活には気を付けなくてはならない。エナミ自身も周囲を警戒しなければならない立場だった。さすがにここ、治安の良い首都タレスでは、これまでほど気に掛ける心配はなくなった。


(場所によっては星間(G)保安(S)機構(O)の捜査官のガードを受けてたときもあるし、それに比べたら今ってほんとに自由)


 一人で学校に通えるし交友を広げるのも可能。なんの気兼ねなく生活できるのは得難い幸せだと感じていた。


「ビビ」

 駅に降りたところで友人と同じトラムだったのに気づく。

「エナ、おは!」

「おはよう。今日も一緒する?」

「碧星杯? うん。フラワーダンス(あたしたち)は選漏れしちゃったけどツインブレイカーズは入ってるもんね。あいつら、推されちゃって」


 わずか二戦でノービス1クラスに上がった赤毛と狼頭の友人コンビは、チーム戦オーバーノービストーナメントの碧星杯に招集された。今日が一回戦である。


「通い詰めだけどお父さんは?」

 同じくトラム通学のサリエリも合流。

「今んとこ平気。勉強のほうも頑張ってるし」

「大変よね。わたしたちみたいな気楽な立場と違うし」

「別に私が立派なんじゃないの。お祖母様とお父様が素晴らしい仕事をしてるだけ」

 公務官は世襲の仕事などではない。

「それでも色々さ、言われちゃうでしょ?」

「否めない」

「ほら、気楽じゃないし」


 まったくは否定できないが、彼女は高みを目指したいと考えているのではない。家族に恥をかかせない程度でかまわないと思っている。


「おう、集まってんな。おは」

 ヘルメットのバイザーを跳ねあげたのは赤毛の友人。

「おはよう。今日もリフトバイク?」

「速攻帰ってクロスファイトドーム行かなきゃなんねえかんな」

「思ったより忙しくてね」

 狼頭の友人も笑っている。

「バイクか。それもいいかも」

「欲しいのか? 自由度は高ぇがちっとばかりテクが要るぜ?」

「トラムとかの時間気にしなくて良くなるけどさ」


(あ、グレイもリフトバイク注文したって言ってた)


 二人乗り(タンデム)も近々見納めだとエナミは思い出した。

次回『スクール生の日常(2)』 「変なこと教えないのよ。エナは箱入りなんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 卒業で公務員資格とか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ