チーム戦デビュー(3)
ガンズスラッシャーのリーダーのもとにはレギ・クロウの確認情報も届く。やはり想定した位置での接敵だった。
『三機での牽制を開始。足留めせよ』
メッセージで指示する。
作為的な障害物配置が認められる。狙撃しにくい狭小部が多かった。それだけに潜伏を知らない剣士や格闘士といったタイプは広い場所を選び移動ルートも想定しやすかった。
(運営も我らを嘗めてくれる。意に反して有利にしているとも知らずにな)
リーダーはほくそ笑む。
ヴァンダラム対処側のもう一機が陽動を開始した。隙間を縫った狙撃をくり返しつつ後退。彼のひそむ位置へと見事に誘導している。信頼できる仲間の仕事は確実だ。
(こんな対戦でマッチゲーム勝利の賞金が入るんだからな。楽な仕事だ)
彼らが巧妙というべきか、二人の少年が迂闊というべきか。相互作用の結果だろう。
(興行目的でルールが細分化される前に稼がせてもらわないとな。アームドスキン乗りが命懸けないで儲かるなんてクロスファイト様さまだ。まず一つ)
ペア機を追ってきたヴァンダラムが彼にがら空きの背中を見せる。照準を定めてトリガーを落とすだけの簡単な作業だった。
「なに!」
「はん」
直撃コースで走ったビームが赤いボディの前で拡散する。そこには裏拳を繰り出したヴァンダラムの姿があった。
「仕掛けてくると思ったぜ。いつもいつも同じ作戦でよ」
「どうして今のを……」
「甘ぇんだ、てめぇは!」
あまりのことに一射で移動するセオリーを守れないでいた。反転したヴァンダラムが一足に迫る。固まった足は言うことを聞いてくれない。
「お終ぇだ!」
(まさか罠に掛けられたのは我らのほうだというのか!?)
咄嗟に突き出した筒先から赤い機体が消える。ビームは宙を貫き、低くスピンしたヴァンダラムのまわし蹴りがヒットした。ひそんでいたアングルに叩きつけられる。
リーダーの意識はそこで途絶えた。
◇ ◇ ◇
「またまた撃墜判定! ミュウ選手、あっという間に二機を撃破ぁー!」
リングアナが叫ぶ。
「ねえ、すごくない? ミュウ、後ろからのビームを止めちゃった」
エナミは興奮している。
「うん、すごい。どうやってんのか知らないけど、あいつ、やっちゃうのよね」
「もしかして楽勝?」
「腹立つけど、この流れは変わらないと思うわ」
グレオヌスもすでに一機を撃破している。残り二機で追い詰めようと躍起になっているが、くり返す狙撃も全てブレードに吸い込まれていた。
「グレイも。ビームってあんなふうに防げるのね。知らなかった」
「いやいや、普通はできないのよ。グレイもビームランチャーの構えから射線を読んで受けてるみたい。あたしはそんなに素早い反応は無理」
同じ剣士のビビアンには不可能らしい。
「少なくともあんな距離ではね」
「目の前だものね。私なんて、いつブレードが動いたのか見えないくらい」
「二人してあの芸当ができるんじゃ数の論理なんて当てはまらない。ミュウったら、よくも黙ってやがったわね?」
ビビアンの口調まで荒くなっている。フラワーダンスの面々としては気が気ではないだろう。今まではカテゴリの違いから純粋に応援できていたのが、同じチームカテゴリに参入した以上対戦する可能性が高くなった。
(みんな、呆気にとられちゃってるものね)
サリエリたちはこれでもかというくらい口をあんぐりと開けてしまっている。それほど衝撃的だったのだろう。
(もしかして純粋に楽しめる立場は私だけになっちゃった?)
また一機レギ・クロウのブレードの前に倒れる。ガンズスラッシャーはとうとう数でも逆転された。混乱した一人はギブアップもせずに乱射しつつグレオヌスから逃げまわる。
「そこはやめておいたほうがいいですよ」
「誰が騙されるか! 足止めた瞬間に……!」
「おらぁ!」
「だから言ったのに」
ビームランチャーを抱えたアームドスキンは曲がった途端に顔面に真紅の拳が食い込んでいる。頭部が部品を撒き散らしつつ半壊。そのまま大地に叩きつけられて全壊した。背中から落ちた機体はパイロットを守りきれずバイタルロストする。
「ノックダぁーウーンっ! なんと無傷でツインブレイカーズの勝利だぁー! 圧倒的ぃー!」
リングアナが喉のかぎりに吠える。
「わずか五分強の衝撃的展開ぃー! 誰がこんな試合を予想していたでしょうかぁー!」
彼女らの周囲でも愕然としている人も多い。熱狂してリングアナに負けじと叫んでいる人も。二週間前の金華杯決勝と同じ様相にエナミは驚きを通り越して面白ささえ覚えていた。
「おい、そこの野郎ども!」
ブレストプレートを跳ね上げて素顔をさらしたミュッセルがヴァンダラムの指をスカウトルームに向けている。
「腑抜けた試合で満足してんじゃねえぞ? 首洗って待ってろ。俺たちがてめぇらまとめてぶっ潰してやっからな?」
宣言した。
(ミュウはやってしまう。赤い嵐を巻き起こしてチーム戦カテゴリを滅茶苦茶にしてしまう。クロスファイトはどうなっちゃうの?)
エナミは胸のワクワクが止まらなくなってしまった。
次はエピソード『スクールの選手たち』『スクール生の日常(1)』 「碧星杯が始まるからドームに行かないと」




