ワークスチーム(3)
レングレンはミュッセルの新型の動きを冷静に観察していた。二人に退けられるならそれまで。彼の出る幕もないが、出番がやってくるような気がしている。
「どんな感じ?」
データ収集、解析をしている技術スタッフに尋ねる。
「どこまでがパイロットスキルなのかは不明ですが、回避性能は未知のものです」
「驚かされるね。上がってる?」
「ただいまヴァリアントとの比較を行っていますが50%以上アップという結果が出ています」
レッチモン社ほどのメーカーの技術スタッフともなれば、ソロカテゴリの選手のアームドスキンのデータも持っている。設けられているスタッフ用ルームからスカウティングしているのだ。
(ハイスペックな機体を投入してきたのは当然。そのための新型だろう)
理解はできる。
(しかし、うちの技術屋をして未知と言わせるのはどういうことだ? あのメイド服のエンジニアのほうが優秀といわんばかりではないか)
通常、マシンスペックはワークスマシンのほうが格違いになる。当たり前だ。製品開発なのだから。
プライベーターの機体はレンタルまたは中古機が相場。だから彼らが勝とうとすれば必然無茶な戦術を執ってくることになる。それをいなして違いを見せつけるのが契約パイロットのスキルになる。
(レギ・クロウに続きミュッセルのヴァンダラムというアームドスキンまでワークスマシンを超えてくるってのはね)
理屈に合わない。
(クロスファイトになにが起こってる? この先、技術の地殻変動でも表れるとでもいうか? 俺の立場では認められないな)
赤い機体が踊る。土を蹴立て足のグリップを最大に使い、弾幕をものともしない。テンパリングスターの砲撃手二人に徐々に迫ってくる。シュバルとゼドは焦りの声をもらしている。
「その位置は駄目だ」
突如としてグレオヌスが叫ぶ。
プレートの障害物との間に分け入ったヴァンダラム。一見、逃げ場のないところに潜り込んでしまったかのように思える。事実、ザドはしめたとばかりに砲口を振った。
しかしミュッセルはプレートに右の拳を叩きつけている。そして左手がザドのフィックノスの胸に添えられていた。
「烈波」
なにかが激しく衝突したかのような音と同時にザド機の上半身が跳ね跳ぶ。構造ギリギリまで反ったかと思うと、そのまま後ろに捲れて転がりだした。土を撒き散らしつつ三回転以上して止まる。もうピクリとも動かなかった。
「壊してなければいいけど」
狼頭がこぼす。
残り一機になってもミュッセルは止まらない。ビームをかいくぐり、連射リミットが掛かったところで急接近。手首を取ってビームランチャーを逸らし、胸の中央に右手を添えて浴びせ倒しを掛ける。シュバル機は背中から叩きつけられた。
「ぐほぉ……」
「か、かはっ」
二人とも咳き込んでいる。したたかに身体を打ち付けたらしい。
「あ、気絶してなかった」
「当たり前ぇだろうが。ただの訓練で壊すかよ。加減してるって」
「普通アームドスキンは縦に転がらない」
グレオヌスがミュッセルを諌めている。少年にはこの結果がわかっていた様子だ。
「グレイ、あれは?」
「僕のレギ・クロウはあれを食らって大破したんですよ。左腕の基部まで損傷してました」
「バラすなよ」
(金華杯ソロ決勝で見せたあれか。もしかして、さっきのとんでもない騒音の元もこの技だったのか。だとしたら……)
凄まじい威力である。
これまでミュッセルはそんな技を使っていなかったと思う。いきなり解禁されたのは新型のヴァンダラムを投入してきたからに他ならない。
そして、決勝での退場の様子を見ればヴァリアントでは使用不可能だった。使用すれば行動不能になるような技だったと推察できる。
(とんでもないな。この少年たちは)
事実だとすれば、今後のクロスファイトのソロは修羅場になる。この美少女みたいな少年と、狼の頭を持つ少年の独壇場になるだろう。進出しているワークスチームは撤退を余儀なくされるかもしれない。
「んじゃ本命と行くか? 来いよ、レン」
「いや、遠慮しよう」
挑戦を拒む。
「なんだよ、面白くねえな。怖気づいたのかよ」
「違うさ。十分にデータを取らせてもらったから吟味する必要がある。それよりも、ね?」
「ああ?」
別の用事のほうが大事だ。
「何度でもいうが、ミュウ。うちのチームに来い。資金がいるなら賞金取り分は融通するよう社に掛け合うよ。君がいればテンパリングスターは無敵になる」
「嫌だね。なにを好きこのんでメーカーの言い分なんぞに従わなきゃいけねえ。うざったくて仕方ねえだろ」
「将来プロになるなら今のうちからだよ」
幾度か誘ってきたが、今回ほど熱烈に勧誘したことはない。彼がいればクロスファイトを制覇できる。
「御免だぜ」
「そうか、いい話だと思うから考えておいてくれ」
あきらめる気はない。
「なんだかんだ言ってヴァンダラムの技術が欲しいだけだろ。誰がくれてやるもんかよ」
「そうじゃない。純粋に君のパイロットスキルはアームドスキン開発に大きな貢献ができると思うからだ」
「そいつは別にメーカーじゃなくたってかまわねえじゃねえか」
(スクール生だったな。将来は星間管理局の開発方面を狙っているのか)
レングレンはそう受け取った。
次回『チーム戦デビュー(1)』 「だからエナまで悪の道に誘わないの」




