ワークスチーム(2)
同じくレングレンが開始の合図をする。フォワードはフェチネのまま、ワイズがバックを務める。ビームランチャーの照準はレギ・クロウに向けられていた。
(動かない? まだ油断してる)
グレオヌスは閉口する。
(プライドなのか。単機が相手なら戦術なんて必要ないって?)
対してレギ・クロウも動かない。わざと構えも取らず泰然と立っている。相手の動きを見てからにする気だった。
「おいおい、侮るにもほどがあるってもんだぜ?」
ワイズは砲口を寸分も動かさない。
「いいから押し込んでやんなさい。リフレクタで受けるしかないんだから」
「なんか、いじめてるみたいで気が引ける」
(果たしてそうかな? 本物を知らないっていうのは怖いもの)
別に嘗めているわけではなく理由があるのだ。
グレオヌスはざっくりと視界を眺めているだけ。必要なのはセンサー情報。その熱反応が燃房の過熱を示す。その瞬間に剣身を決めていた位置に据えた。ビームはブレードの腹を叩いて弾かれる。
「ちょ! 嘘!」
「なんだと?」
(それだけしっかりと狙っていれば、この距離でも射線を読むのは難しいことじゃないって。宇宙の距離感覚じゃそうもいかないけど到達まで時間がある。少数相手ならいつでもブレードガードはできる)
そのまま自然にブレードを下段に。緩めておいたほうが動き出しがいい。
「ばーか。グレイならそんくらい朝飯前だ。じゃなきゃ、密接しての俺の拳が避けれるわけがねえ」
ミュッセルが挑発している。
「まさか。散らしなさいよ。全部弾けるわけないんだから」
「わかってるって」
連射をするが自分に向かってくるとわかっているだけ射線は読みやすい。ブレードの腹で丁寧に弾いていく。そして、ブレードガードの利点はリフレクタより反動が小さいところにある。
「冗談でしょ! 近づいてくるじゃない!」
「マズい。連射リミッタが掛かる!」
「ま、待って!」
セーフモードでならかなりの連射数が可能だが、ノーマル出力に合わせて連射回数が制限されている。そのあたりは演習プログラムの名残があった。
「実戦は待ってくれません」
「こ、こんのー!」
焦って斬り掛かってくるが、その頃には連射が止んでいる。フェチネのブレードを絡めて落とし、胴を薙いで早足で抜けた。ワイズ機も難なく貫かれる。
「かっこ悪ぃ。一人にやられてやんの」
「いー! この悪魔、言いたい放題言ってくれちゃって!」
「はいはい、弱ぇ奴はよく吠えんぜ」
美少年にゲラゲラ笑われた女性パイロットは地団駄を踏んでいる。そのままでは収まらず再戦を挑んできた。しかし、彼はそのあと三度退けてみせる。
「どうやら歯が立たないね。ソロでもトップクラスはそれだけの実力者ということさ」
レングレンが二人を止める。
「このままじゃ立つ瀬がないわ」
「引き下がりはしないよ。あっちの準備ができたようだからね」
「おう、俺様の相手はどいつだ?」
ヴァンダラムが出てくる。グレオヌスは軽く拳を合わせて下がった。本来、今日はミュッセルの慣熟訓練をしに来たのである。
「シュバル、ゼド、いけそうかい?」
レングレンが確かめている。
「きついぜ、リーダー。相手は格闘士タイプ。剣士とは間合いが違う。入り込ませたりするもんかよ」
「一人で十分でないかと?」
「相手がリミテッドクラスでもかい? そこにいくまでどれくらい苦労したか忘れたのかな?」
テンパリングスターもチームカテゴリのリミテッドクラスらしい。そう言われて二人は息を呑んでいる。
(シーズンで維持ポイントの四倍ってことは昇格に800ポイント必要。上位トーナメントで優勝4回か。さすがに最上位クラスはハードルが高いな)
彼らのように契約パイロットでなくとも賞金だけで悠々自適な暮らしができそうだ。もっともワークスチームのパイロットが手にできる賞金はパーセンテージが契約で決まっているらしい。アームドスキンを提供してもらえる代償である。
「わかったかよ。さーて、俺と遊んでくれ」
ヴァンダラムは軽くジャンプをくり返してサスペンションチェックをしている。
「風穴だらけになっても泣くな?」
「二機の弾幕に耐えられるわけがない」
「やってみやがれ」
やはり開始の合図後も静かな立ち上がり。ハイクラスのチームだけあって挑発に調子を狂わされることもない。油断なくビームランチャーを構えつつ下がっていく。
「どうした? 撃たねえと当たんねえな」
逆にミュッセルは悠々と歩いて近づき、両者の距離は変わらないまま。
なにが起点だったかはわからない。チームリンクで相互に合図を出し合って攻撃開始を決めたのだろう。猛烈な弾幕が真紅のアームドスキンに浴びせられる。
「あん?」
「ち!」
まるで砲撃がスタートの合図だったかのようにヴァンダラムが走りはじめる。スティープルの影ではない。もちろん二機に向かってだ。
「悪くねえ!」
フットワークは軽い。程よく反重力端子を効かせてもいるのだろうが、つま先まで赤い足が土を蹴るだけで機体が残像を刻むほどに揺れる。意図的に散らされたビームの隙間を縫うように。
(ミュウの場合は当たり前にこれができるからな)
グレオヌスは踊る赤を安心して眺めていた。
次回『ワークスチーム(3)』 「その位置は駄目だ」




