ワークスチーム(1)
グレオヌスたちがレングレンのアームドスキンについていくと、奥まった場所で彼のチームが訓練を行っている。周囲には二十名を超えるスタッフが機材を据えて計測を行っており、本格的な開発現場の様相を呈していた。
「ん? そのマシン、まさかレギ・クロウ?」
一人が接近に気づく。
「じゃ、もしかしてそっちの赤いの『天使の仮面を持つ悪魔』!?」
「誰だ、俺様をつまんねえ二つ名で呼んだ奴は? 出てこい。ぶっ飛ばしてやる」
「あははは、勘弁してやってよ。そっちのほうが印象的で通りがいいんだから」
ミュッセルが歯を剥いて怒っている。可愛い顔でその表情はさすがにやめて欲しい。
「控えてください。少しチューニングが必要です」
マシュリに制止されている。
「ちっ、命拾いしやがって」
「レンの馬鹿! なんてのを連れてくんの!」
「例の音聞いたろう? たまたま一緒したんだから面白いかと思ってさ」
気楽に答えている。
「面白いじゃすまないかもしれないじゃない。『くれ……』じゃない、壊し屋なんか混ざって、わたしの可愛いフィックノスに傷が付いたらどうしてくれんの?」
「そうかな。いいデータが取れると思ったんだけど?」
「う……」
レングレンはスタッフのほうをうかがい見ている。悪くない反応が返ってきた。当然だろう。様々な対戦が開発データに反映されるのだからクロスファイトという場を使っている。強敵との出会いは彼らにとって僥倖でしかない。
「そっちの機体は……?」
「ヴァンダラムだ。登録も済ませてる」
簡単に明かしてしまう。
「準備がまだみたいだけどどうする?」
「遊んでやれよ、グレイ。暇してるみてえだし」
「そうかい? まあ、いいけど」
レギ・クロウを前に出す。
「そっちの準備はいいんですか?」
「ああ、かまわないさ。さっきからテスト中だったんだから。じゃあ、うちのチーム『テンパリングスター』からフェチネが相手しようか」
「わたし?」
レッチモン社のワークスチームは『テンパリングスター』。所属しているテストパイロットはレングレンの他にフェチネ・シュミル、ワイズ・オークネー、シュバル・ボッカ、ゼド・ビバインの以上五名。
「嫌? じゃあ、君がミュウと当たってみたい?」
レングレンが悪戯げに言う。
「じょーだん! そっちの狼頭君がいい」
「らしいよ。じゃあ、あそこの開けた場所で軽く手合わせをお願いしてもいいかい?」
「かまいませんけど一対一で? 援護機なしでいいんですか?」
彼らはそういう連携のほうが慣れているはず。
「嘗めた口利いてくれるじゃない、坊や。プロのお姉さんが遊んであげる」
「わかりました。では」
「いつでもいらっしゃい」
彼らのアームドスキン『フィックノス』が一機出てくる。それぞれに個性的なカラーリングを施されているし、別のカスタマイズをされているが同型機だ。試験機に様々な機能を取り入れてデータを収集しているのだろう。
「マシュリ、奴らのデータも取っとけ」
「ええ、もちろん」
ミュッセルは手抜かりがない。
マシュリはサブシートから降り、ヴァンダラムの調整をしているふりをして機体センサーでデータを取るようだ。グレオヌスは気にせず動けばいいらしい。
「では、よろしく」
「ええ、きなさい」
互いにセーフモードのブレードをかまえる。『テンパリングスター』は彼女フェチネとレングレンのツートップチーム。二人が剣士であとの三人が砲撃手という標準的な構成になっている。
(まあ、アームドスキンの特性からして一番効果的な兵装だからな)
ツートップかスリートップが有効だろう。
レングレンの合図で非公式の試合を開始する。正眼に構えるフェチネにグレオヌスも同じ構えで応じた。
切っ先を揺らしただけで反応してくる。意外と使えると読んだ。絡めにきた剣身を抜いて外し、踏み込むと袈裟に落とした。それだけで決まってしまう。
「うっそ!」
撃墜判定の表示に仰天している。
「仕方ありませんよ。あなた方は普段、砲撃手の崩しから攻撃に入ってるんでしょう? 自分一人で崩しから詰めへの組み立てをやっていない。慣れてないんです」
「なに言ってるんだかわかんない」
「要するに、彼らソロは一人で戦ってるってことだろうさ。フェイントもなしで斬り込んだって容易く崩されてしまう」
剣闘技術はほとんど知らないらしい。軍の編隊と同じ考えでクロスファイトのチーム戦をやっている。個人技の向上も必要だろうが重視はしていないと見た。
(これか、ミュウがかしこまったお上品な戦い方をしてるっていうのは。確かに脆さを孕んでるね)
納得の内容だった。
「これじゃデータにならない。ワイズ、手を貸してやってくれ。ペアで当たるんだ」
「マジで? 確か十六の少年でしょ? どういう育ち方したらこうなるのよ」
「ガチガチの戦場育ちです。相手はゲリラだっている。一人で勝ち抜ける力がないと何回か死んでますね」
教えておいたほうがいいだろう。
「ワイズ、本気でいく。こっちだって国軍上がりのプロだって思い知らせてやる」
「おいおい、あまり気を吐くなよ、子供相手に」
(まだわからないんだ)
グレオヌスは肘を緩めて構えを取った。
次回『ワークスチーム(2)』 「ばーか。グレイならそんくらい朝飯前だ」




