地下訓練場(2)
腹の底まで響くような轟音が地下訓練場内に響き渡る。ミュッセルの放ったリクモン流奥義『烈波』で鋼鉄製障害物が目視で振動しているのさえわかった。
「いきなり、なにすんだい!」
アームドスキンを全損させるほどの技である。
「試しただけだって」
「せっかくの新型を壊す気じゃないよな?」
「壊れねえって。そういうふうに作ったんだ。マシュリが保証してる」
気軽に言う。
「ええ、そうでなければヴァンダラムを投入する意味がありません」
「でも、ちゃんと確認してからにするものではないですか?」
「計算上問題ありません」
そうだとしても少しは遠慮するものだ。食らったことのあるグレオヌスだからこそ思い知っている。一発で協定機のレギ・クロウを大破させたような攻撃なのに。
「ほらな、問題ねえだろ?」
ヴァンダラムが普通に動いている。
「ダメージはありません」
「そうなんですか」
「本来はよ、身体にダメージはねえ技なんだよ。一発打っただけで身体がボロボロになるようだったら使いもんになんねえし」
理屈としては合っている。
「でも、人体とアームドスキンじゃ構造が違うじゃないか。生身はクッションの効く場所が多いんだからさ」
「よく知ってんな。だからヴァンダラムも衝撃吸収できる構造を持ってる」
「そんな工夫を?」
見た目と違ってミュッセルはよく勉強している。意外と理系なのだ。人体構造に関しても把握していて効率的な動かし方なども研究していた。
「フレームに直接組み込むと強度が落ちっからな」
解説が始まる。
「保持駆動系に吸収要素を入れた。フレームもしなりの強いものを使ってる。色んなところで応力吸収と伝達ができるようにしてあんだぜ」
「僕にはよくわからないけど、そうなんだな」
「苦労もしたがよ。時間も金も吸収してくれっから」
冗談交じりに言う。実現にはマシュリのサポートも不可欠だろうが、ミュッセルも関与している口調。二人の共同作業だ。速やかに完成させたのがメイド服のエンジニアだという結果らしい。
「じゃあ、今後はその気になればいつでも烈波を使えるわけなんだな?」
グレオヌスは肩をすくめる。
「流れが作れればな」
「例のやつか」
「おう、地面か推進軸と芯が通せねえと使えねえ。予備動作がいる。絶対的な隙になる予備動作がな」
いわばチャージタイムが必要な技だ。
「僕との試合じゃ組み立てながらやって見せてくれたけどね」
「あれでギリギリだ。機体もボロボロになったが俺の精神もズタズタになるくらいダメージがあったぜ。あの日はバイタルロストしたように寝ちまった」
「僕もさ」
共通の思い出である。グレオヌスもあれほど疲れた日は生まれて初めてだった。
「ずいぶんと賑やかだと思ったら君か」
第三者の声がする。
「ああん? レン、あの音はお前だったのかよ」
「練習日だよ」
「ワークスチームは平日に使えよ。時間あんだからよー。休日はプライベーターに空けとけ」
現れたアームドスキンは知り合いのもののようだ。
「仕方ないじゃないか。レッチモン社のテストエリアとはいえ、さすがにスティープルまでは置いてない。連携確認するには最適なんだ」
「揃えとけよ。金あんだから」
「開発はお金が掛かる。施設にまで投入するゆとりはないね」
苦そうな口調だ。
「あとで回収すんだから湯水のように使って経済を回せって言っとけ」
「それはスタッフに直接言ってくれよ」
彼一人ではないようだ。チーム戦の関係者だろうか。
「こいつはレンだ。えーっと、ほんとはなんつった?」
あやふやな紹介をされる。
「レングレン・ソクラだ、グレイ君。レッチモンワークスチームに所属している。よろしく」
「よろしくお願いします」
「先日の稀に見るハードバトルは観させてもらったよ。驚くようなパイロットスキルを持つ新星が現れたものだね。俺もうかうかしていられないみたいだ」
ウインドウを開いて挨拶してくる。
「なに言ってんだ。レッチモンのチームは一人もソロ登録してねえじゃんかよ。関係ねえし」
「いやいや、リングで目立つのも社の宣伝になるからね。契約パイロットとしては黙っていられないところ。あまりソロカテゴリを盛り上げないでくれないかな?」
「ほざいてろよ」
内容からしてレングレンはレッチモンというアームドスキンメーカーの契約パイロット。チームを組んでクロスファイトに参入しているという。
ただ、二人ともカテゴリが分かれている所為で対戦はしてないようだ。お互いに見知っている程度の接点しかない。
(ミュッセルはチーム戦参入をまだオープンにしないつもりみたいだ。これは僕ももらすわけにはいかないな)
口をつぐむ。
「かまわないが、それは君の新型機体なのかい? 興味深いね」
見逃してはもらえないらしい。
「スパイはやめとけ。マシュリのプロテクトは硬えぜ?」
「それもいい。だが、いい機会だから軽く合わせてみないかい?」
「いい度胸してんじゃん。俺に挑戦するってのか?」
「こんなときでもないと君とは当たれないじゃないか」
非公式の対戦を申し出てきた相手にグレオヌスは警戒した。
次回『ワークスチーム(1)』 「なんてのを連れてくんの!」




