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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ツインブレイカーズ

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ヴァンダラム

(マシュリがミュウに停滞を与えるわけがない。これからが本物の協定者の動き。この『ヴァンダラム』というアームドスキンは協定機だ)

 グレオヌスは見上げる。


 真紅である他にもヴァリアントを継承している点といえば、薄く鋭さを感じさせるカメラアイくらいか。それが上下並列のダブルに配置されて鋭利なイメージを倍加させている。それ以外は一新したデザインといえよう。


(マシュリの趣味なのか、それとも機能的にそうであるべきなのか)


 頭身が上がっているのにコンパクトに感じる。ヴァリアントが鈍器のようなイメージだったのに対してヴァンダラムが人体をなぞったフォルムをしている所為だろう。

 機構上肩が大きな点や股関節が広く取られているところ、コクピットなど内容物の多い胸部が張り出しているのを除けば、ほぼバランスは人体そのもの。手首や足首が絞られた構造をしているなど強度的に不安になりそうだ。


「ハッチがねえ。まさか背面昇降(リフトバック)方式じゃねえよね?」

「いいえ、胸甲保護(ブレストプレート)方式です」


 マシュリが整備コンソールを操作すると首下から鳩尾付近までの胸部装甲が前にスライドする。前に飛び出すと頭部を覆うように跳ねあがった。中に操縦殻(コクピットシェル)搭乗足場(ステージ)がせり出した構造になっている。


「ステージを使って乗り降りしてください」

「こいつは頑丈そうでいい」


 スパンエレベータで上がったミュッセルは背伸びして頭上のブレストプレートを叩いている。実際に分厚い構造体の強度はかなり高そうだった。


「堪らねえな」

「シートに置いてあるσ(シグマ)・ルーンを着けてください。ヴァンダラム専用のものです」


 ステージの上にスライドしてきたシートに専用σ・ルーンがあるという。取り上げた美少年が頭に乗せている。グレオヌスのものと同じ感応強度を上げられる構造、環状をしている。額の部分は細く目立たない形ではある。


「並列化はしてあります」

「疑ってねえって」

 ミュッセルがシートに尻を放り出すように腰掛ける。

「この瞬間が最高なんだよな」

「僕もわかるよ」

「背筋がゾクゾクしやがる」


 『σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。(スリー)(ツー)(ワン)機体同調成功シンクロンコンプリート

 同調がなされる。

『パイロットをミュッセル・ブーゲンベルクで登録しました。同調深度良好です。センサー系を接続します』

「っと、結構重たいな」

「情報量は倍加しています。その分機体状態は感覚的に把握できるはずですが」


 入力されるセンサー情報も多いらしい。それには手足を含めてどんな状態なのかも含まれる。その情報が多いほど自身の体勢を感覚的に掌握できるのだ。


「もーしかーしてー」

 陽気に確認作業を進めている。

「やってくれたな、マシュリ?」

「当然です。そうでなくては機体更新をする意味がありません」

「いけそうか? いけるから組み込んだんだよな」

 不気味に自己完結する。


 ミュッセルが見ているのは構造図面だ。グレオヌスの位置からでは見えないが、なにかヴァリアントとは全く異なる機構が組み込まれているらしい。


「すまねえ、ヴァリアント。もう、新しい相棒に惚れ込んじまいそうだ」

「きっと大丈夫さ。彼は務めを全うした。その機体にフィードバックされているんだろう?」

「もち、だ」


(それに、君そのものが変異体(ヴァリアント)なんだ。流れが変わることはない)

 狼頭の少年は肩をすくめる。


「軽く動かしてみれば?」

「いーや、やめとく。こいつは狭いとこで動かしたって真髄は見えてこねえ。アリーナ地下の訓練エリアを借りて試運転する。それまで楽しみはお預けだ」

「我慢できるかい?」


 ワクワクしている美少年を笑いながら眺める。少々からかっても堪えないくらい機嫌がいい。当然だろう。


「よーし、働くって言ったからな。バリバリいくぜ」

「では、さっさと降りてください。未練たらしく座っていては作業になりません」

「なあ、グレイ。雇用主に冷たい従業員ってどうなんだ?」

「それが彼女なら、ある意味ご褒美なんじゃないかな?」


 軽口を叩きながら降りてきた親友と梱包の開封作業をする。中のレギ・クロウのパーツを構内クレーンで吊った。


対消滅炉(エンジン)周りのダメージチェックは?」

「昼間に済ませております。右腕から始めてください」

「了解だ」


 作業ツナギのハーネスを作業支持架(ワークスリフト)にクランプする。σ・ルーンでコントロールされるリフトに吊られてミュッセルが右腕の基部へと持ちあげられた。


「吊り代どうだ?」

「良さそう」

「んじゃ、立てるぜ。気を付けろ」


 上腕部が上になって立てられる。そのまま持ち上げられてショルダーユニットに近づいていった。合わせ目を微調整しつつ接続作業に入る。


「マシュリ、先にケーブル繋げてくから信号チェック」

「スタンバイしております。早くしてください」

「急かすなよー」


 いつものことなのだろう。手際が良い。こうしてアームドスキンの改修から修理、保守点検まで自分でやってきたと思われる。彼の育った戦闘艦のように完全分業されていない。


(場合によっては、いつ起こるかわからない戦闘じゃない。試合に合わせてスケジュール調整できるからのことなんだけどな)


 グレオヌスはその輪に加われるよう勉強が必要だと思った。

次回『チーム戦登録(1)』 「お姉さんと遊ぶ時間ないのに?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 機体は変わってもAIは変わらない?
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