再始動は大変(2)
チーム戦参入は決めたものの現実は伴ってくれない。ブーゲンベルクリペアに帰っても壊れた機体が迎えてくれるだけ。
「ただいま……、うげ」
ミュッセルは絶句する。
「お帰りなさいませ」
「帰ったけどよ」
「お待ちしておりました」
マシュリが取り掛かっているのは基台に乗ったレギ・クロウ。頭部無し、右腕も根本から無し、左に至ってはショルダーユニットも撤去されて基部が剥き出しになっている。
「右のショルダーユニットはフレームジョイント部までダメージが及んでおりました。これから修理します」
かなり重症である。
「悪ぃ」
「別にいいけどさ」
「でもなー、グレイ」
かなり時間が掛かりそうだ。
「他、下半身各部のパッケージシリンダの作動ジェルに過熱劣化が見られます。ミュウは全交換をしてください」
「わかった」
「手伝うよ」
グレオヌスも上着を脱ぐ。
「グレイ様は先に頭部、両腕、右ショルダーユニットのパーツ配送手配をしてください。揃わなければ話になりません」
「あ、はい」
本体は運び込んだが、換装パーツはまだ倉庫の中だと聞いている。それの配送手配は荷主である狼頭の少年にしかできない。
「すぐに済ませるからさ」
グレオヌスも途端に焦りはじめる。
「先に進めてっからよ。それよりマシュリ、ヴァリアントは?」
「スクラップは早く解体してください。基台に乗せておくスペース的余裕はございません」
「ひでえな、おい!」
悲鳴をもらす。
「二年近くも寄り添った相棒を……」
「使えるのはせいぜい操縦殻と対消滅炉だけです。他は金属ゴミです」
「泣けてきた」
涙目でメイド服姿の美女を見るが容赦してくれない。早く動けとばかりに視線を飛ばしてくる。
(まあなあ。開けてざっと見てみたが、エンジン周りのプラズマチューブにもヤバい感じのダメージ入ってる。無闇に起動もできない状態だぜ)
ミュッセルとて理解はしている。自分で組んだ機体なのだ。
「ヴァリアントは大丈夫なのかい?」
配送業者に連絡を済ませたグレオヌスが尋ねてくる。
「大丈夫じゃねえ。マシュリの言うとおり一遍解体するっきゃねえな」
「それほどの有様なんだ。激戦だったのは認めるけど構造的にそんなにもろ……、厳しかったのか」
「言葉選ばねえでいいぜ。戦闘する分には十分な強度はあった。そこは最重要ポイントとして設計したから。ただ、『烈波』がなぁ」
最後に使ったリクモン流の奥義である。
「あれに問題が?」
「使えねえんだ。正確にいうと使ったらこうなるってわかってた」
「機体全損に?」
「だから禁じ手にしてた」
グレオヌスは仰天している。まさか、そんなことになるとは思っていなかったのだろう。アームドスキンの全損など金額的に大ダメージどころではない。
「なんか、ごめん」
耳が寝る。
「気にすんな。それでも勝てるかもしれない奥義に賭けたんだ。決まってたらお前がバイタルロストで撃墜判定。俺様の勝ち。咄嗟に右肘犠牲にしたお前が利口だっただけ」
「それほどの覚悟だったのか」
「俺の勝ちてえ欲を嘗めんなよ」
着替えてレギ・クロウの脚部メンテナンスハッチを開けつつ言う。
「作動ジェルピットからホース引っ張ってくれよ」
「ああ」
「んで、こいつを見ろ」
注入ノズルを手に提げてきた狼頭の少年に投影パネルを示す。それは昨日の試合を上空から撮っていたドローン映像だった。
「試合中だな。あの烈波って技を放つ瞬間?」
「左足んとこをアップにしろ」
言われたとおりに操作したグレオヌスが目を凝らしている。そして、なにかに気づいた。
「これ……」
凝視している。
「踵んとこ、丸く削れてんだろ? そいつが烈波だ。足で作った螺旋の応力を芯に乗せて右手まで流す。そこから衝撃波にして触れてるもんに放つ技」
「話していいのかい?」
「言ったからってできるわけじゃねえ。リクモン流の基本体術を習得したうえで流し方まで理解してねえと打てねえってやつだ」
口で説明するのは簡単だが実際に打つのは極めて困難である。だからこそ「奥義」なのだ。
「だからこそ、烈波を通す芯はとんでもねえ負荷が掛かる。昨日の場合は左足から右手まで。最大出力の対角線を使ったからこそ、そこのラインに大ダメージを食らってる」
ヴァリアントの機体モデルの対角線上が真っ赤になっている。
「さっきマシュリが言ったみたいに、もつのは堅固な外殻を持ってる対消滅炉と操縦殻だけだな。他はダメージが入ってる。余波を入れてマジで全損だ」
「どうするんだい? チーム戦に参入するにもヴァリアントを一から作り直さないといけないじゃないか。ビビたちに啖呵を切ったのにさ」
「悩ましいな。マシュリと話すしかねえ。ちょっとずつは相談してたんだがよ、そいつを本格化するか」
計画は立てていた。ほとんどヴァリアントを全体改修するほどの計画である。そうでないと意味がないのだ。実戦で「烈波」を普通に使用できるような強度のアームドスキンの投入のためには。
(実現には難関だらけだったがな、マシュリは一度も否定しなかった。たぶん、なんか目算があるはずだぜ)
ミュッセルはそのくらいに彼女を信頼していた。
次回『再始動は大変(3)』 「そんな殺生な!」




