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クロスファイトフェス(4)

 お祭り騒ぎに興じるつもりなどないマシュリはブーゲンベルクリペアの研究室にいる。チャンスとばかりに珍しい相手が来訪した。


「なんです、シシル? あなたの養い子でしたらきちんと成長していますよ」

 3D映像の同胞に告げる。

『問題ありませんわ。成人する頃にはブルーと同じところまで登っているでしょう』

「レギ・ソウルの機能解放まで手を出したりいたしません」

『そうではなくて、今日はあなたの子の話」


 シシルは口に手を当てて優雅に笑う。マシュリも無風の湖水のように表情を浮かべないまま問い掛けを待った。


『動いた甲斐はあったかしら?』

 珍しく踏み込んでくる。

「結果のとおりです」

『力は誰もが認めるところ。新しき子(ネオス)でなく戦気眼持ち(ライナック)が星間銀河の中心と呼べる場所に現れた理由を知りたかったのではなくて?』

「それほど不思議とは思っていません」

 意外な回答だったか彼女は『あら?』と首を傾げる。

変異細胞(ミュウセル)とはそういうものなのでしょう。性格は大きく異なりますが、ライナックの真骨頂と思われた二代目ディオン・ライナックと性質がよく似ているではありませんか」

『そうですわね。優れた戦気眼(せんきがん)だけでなく、自ら乗るアームドスキンを開発までする才能。確かにライナックとはそういうものなのかもしれないわ』

「わたくしは理由だけ納得できれば満足なのです」


 本心である。ミュッセルが脅威(ヴァラージ)を退けてくれただけで十分であった。多くを望んだところで人類の矯正力など彼女たちの御せるところではないと考えている。


『そのうえで求められれば、かしら?』

「口が過ぎますよ、シシル?」


 マシュリが目を細めて窺うと同胞は最高に楽しそうに笑った。


   ◇      ◇      ◇


「第五回クロスファイトフェスもいよいよクライマックスです! ラストを締めくくるはライブパート」

 リングアナの盛り上げに合わせてファンファーレが流れる。

「なんと、ゲストはこの方! 今や大人気アーティストになったデュカ・シーコットさんをお招きしました! 皆様、お楽しみください!」


 リングに設置されたステージを囲むレーザーウォールが薄らいで消えると、僅か数ヶ月で大ブレイクしたシンガーが登場する。少し露出多めの衣装に包まれたスレンダーボディに整った面立ちのデュカがアリーナに向けて両手を振る。


「みんな、拍手ありがとー! 今夜は楽しんでねー!」

 声援に応える。

「いや、お前が楽しませろ」

「うるさいの、ミュウ。揚げ足取るな」

「ツッコまれてなんぼのバラエティアイドルが偉くなったもんだな?」

 皮肉っている。

「わたしの才能あってのこと。発掘してくれたのには感謝してるけど」

「んじゃ、分け前寄越せ。開発費にする」

「このゼニゲバ小僧がぁー!」


 コントを繰り広げている間にイントロが流れてくる。歌唱力を活かして売れたバラードでなくアップテンポの曲調。フェスに合わせた選曲をしてきている。


「もう、締まらない! とりあえず聞いて。新曲『ドリーミン』!」


 軽快なリズムで踊りながら歌い始めるデュカ。その後ろには3Dバーチャルダンサー四人が出現して彼女に合わせダンスを踊る。完全に一致ではなく、それぞれのキャラの癖を出した演出の凝りぶりであった。


「♪走れ 走れ 走れ 走れ その道の果までぇー 立ち止まっていたんじゃ どこにもたどり着けないー」


 サビに差し掛かると振り付けも激しくなる。ステージ狭しと踊るデュカは誰にも輝いて見えた。ミュッセルがグレオヌスに合図してアームドスキンに乗り込む。


「♪走れ 走れ 走れ 走れ その夢の果てまでぇー 走り抜いた先には必ず待っている 君が望んだ未来の姿が 子供の頃に思い描いた未来の君が だから走り続けて どこまでも」


 駆動音にデュカが振り向くと、ヴァン・ブレイズとレギ・ソウルが彼女と同じポーズを決めたところだった。そして、間奏に入ってダンスが激しくなってもトレースするようについてくる。20mの人型機械がデュカのバックダンサーをしていた。


「ひゃう! いえあ!」


 掛け声とともに同じポーズを決めていく。さらにはアドリブまで入れてきた。かがんだレギ・ソウルの上でヴァン・ブレイズが背中合わせに側転して反対側に着地。今度は赤い機体の手に乗った薄墨のアームドスキンがバク転して綺麗に着地を決める。


「ひゃっはーう!」


 次のコーラスに入っても二機はずっとデュカの後ろで踊り続けていた。


   ◇      ◇      ◇


 アリーナの一角では曲に合わせてノリノリになったフューイとキュロム、メンメの女子陣が踊り狂っている。その横でオレガノとジェリコは苦笑いしていた。

 チーム『ピースウォリアーズ』の彼らは星間(G)平和維(P)持軍(F)隊員なので出演要請は受けられない。ただし、非番につき観客としてやってきていた。


「なあ、オレガノ。お前だったらあれ、できるか?」

「できるかよ、あんなの」

 戦友の問い掛けに目を剥いた。

「だよなー。あいつら、あんだけのテクがありながら軍務科への転科を蹴りやがって。軍務部幹部の顔、丸潰れだぜ。宇宙(うえ)に上がる気ないってか?」

「ないんだろ。グレイ君は父親のところに戻るんだろうしさ」

「まあ、いっか。あの赤い天使が地上にいりゃメルケーシンは安泰ってことだ」

「自分たち隊員に出番がないのはいい印だろ?」


 オレガノは最高潮を迎えたステージに向けてやけくそ気味に腕を突き上げた。

次は『エピローグ+』『新世代たち』 「おはよう、師範代!」

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