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クロスファイトフェス(1)

「第6シーズン開始を彩るクロスファイトフェス、オープンを宣言しまーす!」

 フレディ・カラビニオが高らかに告げる。


 そこは完成したばかりの新ドーム。今後はメインドームとなる予定の真新しいアリーナが初お目見えで開放され会場となっている。

 旧ドームはルートとなった居住ブロック同様、カタストロフ被害からの急ピッチでの復旧作業中である。シーズン最初のメジャートーナメントである銀星杯の開催までにはぎりぎり間に合う予定だった。


「アリーナ各所には人気チームのステージが設置されております! 皆様、こぞって推しチームとの触れ合いイベントをお楽しみください!」


 四天王始め、星間()管理局()興行部()に要請を受けた有名人気チームのステージが設えられている。そこで握手会およびトークコーナー、Q&Aなどの触れ合いイベントが行われる。

 この日ばかりはファンにとって、いつもどおりの入場料1トレド(200円)は破格の設定。フェスは純粋にファン感謝イベントなのだ。


「このあと正午14時からはリングにおいてエキシビションマッチが始まります! あの伝説の死闘の再現なるか!? カタストロフ討伐で記憶に新しいツインブレイカーズの二人、ミュウ選手とグレイ選手の一対一の対戦、お見逃しないよう! 各所のブースで購入できるお食事などを片手にお楽しみください!」

 ゆえにツインブレイカーズのステージはない。


 飲食関連の仮ブースも数多く展開されており、家族連れの姿も多い。クロスファイトのファンもお祭り気分で集まった市民も楽しめるイベントになっていた。


   ◇      ◇      ◇


「感激です。ビビアン選手とこんなに近くで……」

「来てくれてありがとう。リミテッドに昇格で第6シーズンは大変になるかもだけど応援してくださると嬉しいです」


 ビビアン・ベラーネはファンと握手を交わしている。普段はアリーナにいても自重してくれるファンも、今日ばかりは皆遠慮は無用なので嬉しそうにしていた。


(ちょっと恥ずかしいけど)


 この日は撮影用に使われたりするフィットスキン。手首から先はなく、各部の緩衝用パットも薄めになっていて、もろに身体のラインが出る。パイロットブルゾンは羽織っているが接近イベントは色んな意味で照れる。


(ヘーゲルの宣伝でもあるし)


 ステージにはでかでかと『HARGER(ヘーゲル)』のロゴ。各所にはデフォルメされた天使のエンブレムが飾られ企業色一色だ。

 人員を出す分、ワークスチームには認められている措置。今も背景の大型投影パネルには、アームドスキンだけではなく車両部門のカタログやPVもくり返し流されている。


「ほんとはエキシビションでフラワーダンス対ツインブレイカーズが観たかったんですけど」

「見たかった!」

 父子連れと握手しつつお願いされる。

「あそこで? ごめんね、勘弁して。あんなスティープルのないとこだとお粗末な鬼ごっこにしかなんないわ」


 リングに障害物(スティープル)は設置されていない。直径800mの人工土の地面がさらされている。そうしてみると非常に広く感じられた。


「あいつらには持ってこいの試合場になるだろうから楽しみにしてて」

「うん」

 小さな男の子のファンが元気よく返事する。


 こうした接近イベントがあるとファン層の広さが際立つ。技術開発や企業競争、ギャンブル要素を忘れて、子どもたちにも夢を与えられていると実感できるのだ。


「いつもの鋭い観察眼とはギャップがあっていいです」

「そう? わたし、すごく普通でしょ?」

 サリエリ・スリーヴァが握手している青年に答えている。


 気さくに応じているが、幼馴染は気高さまで感じさせる美人だ。当人はそう思っていないようだが、ファンは気品に圧されている感じ。逆にそういう層に人気が高い。


「私推しなの? へぇ、変わってるぅ」

「いえ、レイミン選手に踏まれた……、罵られ……、お声掛けいただきたい同志は多数存在します」

「本音ダダ漏れ」

 レイミン・ラーゼクはニヤニヤと笑っている。


 彼女のファン層は特殊であろう。普段の皮肉な言動が刺さる相手にのみ好かれる。メンバーでは一番男子に人気かもしれない。


「耳はいいけど尻尾は駄目にゃ」

「ありがとー」

 ユーリィ・ユクルは完全に囲まれている。


 猫娘のファン層は非常にわかりやすい。子どもと女性である。感情的な部分と猫系獣人(パシモニア)の見た目が作用している。


「感謝。寂しいかと不安だった」

「とんでもないです! 最高の日になりました!」

 パーソナルエリアの狭いウルジー・ウルムカに間近に迫られ、ファンの青年は真っ赤になっている。


 無口娘も密かに人気がある。自身を面白みに欠けると思っている彼女は今日を一番不安視していたが、可愛い系の容姿とナイスなプロポーションに惹かれるファンはあまり声高ではないが多い。普段はネットの海に潜航しているだけである。


「お世話になっております」

「えーっと、それは私ではないですよね?」

 エナミ・ネストレルは戸惑っている。


 彼女のファンが一番特殊。本部局長のユナミを信奉する局員がエナミの素質にも惚れ込んで持ち上げたいと思っている様子。親友は困っているだろう。


(こんなに雑多な人がいっぱい。クロスファイトも一般的なコンテンツに成長したのね)

 以前はギャンブルイメージが強かったのに大きな変化を見せている。


「お時間となりました! エキシビションマッチを開始したいと思います!」


 リングアナの声にビビアンも皆もリングへと注目した。

次回『クロスファイトフェス(2)』 「いい根性してんじゃん。それに免じて本気で相手してやんよ」

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