グレートクリムゾン(4)
リングマップから一つずつ危険ポイントのサークルが消えていく。グレオヌスが分体を処理してまわっているのだ。
「わかってんな、相棒」
「わかってるさ。でも、最後の詰め手はわからないから君に任せるよ」
「おう。タイミング合わせはエナにまわすから頼むぜ」
レギ・ソウルの動きがミュッセルの思惑を汲んでいる。どう使うかは彼次第という局面だ。すでに構想は頭の中にあるが、まずは場作りをしなくてはならない。
「なんでこんなことになっちまったかわかるか?」
スピーカーで話し掛ける。
「ジャー」
「欲かくからだぜ? どうにか逃げ出した時点でメルケーシンを出ていきゃよかった。腹いっぱいだった癖にまだ食ってやろうとか思ったから俺様のターゲットになった。そいつがてめぇの誤算だ」
「グルグルグル」
理解しているのか、喉を鳴らしている。
「もう逃さねえ。覚悟はいいな?」
「シュー……」
「さあ、勝負だ。俺を打ち負かしゃ生き延びる目はなくもねえ」
細く長く息を吐く。肺を空っぽにしてから腹筋だけで一気に満タンにする。十分に酸素を送り込んだ身体が活性化した。
「おらぁ!」
「ジャッ!」
突き出されたフォースクローと左のブレードナックルが激突する。雷鳴並みの轟音とともに紫電が爆発。ヴァラージの甲殻とヴァン・ブレイズのビームコートを焼いた。
軸足を滑らせて旋回しつつ背中越しに肘を飛ばす。脇腹に直撃してカタストロフは悶絶している。右半身に切り替えながら低く入り、下からリクモン流上門撃となるアッパーカットを顎に喰らわせた。
「ガシュ!」
「まだまだぁ!」
半分浮いたヴァラージのボディのど真ん中に左のオーバーヘッドパンチを重ねる。芯は通っていないが、地面に叩きつけるベクトルで放たれた一撃でバウンドした相手に踵落としで追い打ちした。
覆い被さるように飛び込むと肘を立てる。腹部に押し当てて機体を逆立ちさせると左拳で宙を叩いた。
「空把下門撃グラビノッツゼロ!」
リングの地面に埋まりこむほどの破壊力。一点集中の攻撃で甲殻に罅が走る。さらに拳を振りかぶると跳ねて逃げた。さすがにそのタイミングでは狙えない。
「そいつがあったか」
「シャッ、ジャー!」
螺旋力場がのたくりまわる。力場を使って跳ね起きたのだと知った。後転して足から着地するとレンズ器官が閃く。
「タイミング、バッチリだぜ」
「だろう?」
白い光条は滑り込んだディスクに吸い込まれる。円盤を成長させただけに終わる。
「幾つだ?」
「掃除はあと二体だな」
「わかった」
後ろに立っているレギ・ソウルからそれを受け取る。そのための合流なのだ。腰にラッチすると構え直した。
「エナ、見えてんな?」
「うん。でも、どうするの?」
「次のタイミングだけグレイに教えてくれりゃいい。決めんぞ?」
意識スイッチで送ったポイントへはもう少し。エナミもそこを選んだ意味は読めているのだろうが方法までは推定できてない様子。
(誘導するまでもねえ。こいつにはもうそこしかねえんだからよ)
ゆったりと間合いを詰めていく。
じりじりと詰め寄っていく。カタストロフも等距離を保つようにじりじりと下がっていく。その先は特に数多くの障害物が折り重なって倒れているところ。レギ・ソウルからの狙撃も阻めると考えているだろう。
(さあ、来い)
追い詰めた余裕を感じさせながら接近していく。
スティープルの陰から飛び出し、背中を打とうとフォースウィップを伸ばす分体。その数、最後の二体。ミュッセルは戦気眼に走る攻撃線を意識しないよう自然な動作で腰のラッチから取り外した対消滅爆弾二つを放った。合流して受け取っていた物である。
「ピチィッ」
消失点が生まれて空気が鳴く。分体はフォースウィップごと飲まれて消えた。カタストロフが最後とばかりに仕掛けていた罠は不発に終わる。
「あーっと、ここでツインブレイカーズは撃滅手段を使い切ってしまったぁー! どうする『天使の仮面を持つ悪魔』! まさか殴って滅するとでも言うのかぁー!」
フレディが悲痛に吠える。
(そこまで間抜けじゃねえよ)
ミュッセルはニヤリ。
それを聞いた怪物は突如として踏み出してくる。牽制に放たれた生体ビームはブレードスキンで弾いた。時間差の残り二門も落ちてきたディスクに消える。
「シャシャシャ」
逆転したかとカタストロフはせせら笑う。
ディスクが動いた途端に一撃加えようと至近距離で衝撃波咆哮を放ってきた。しかし、外れたディスクの向こうにはしゃがみこんだヴァン・ブレイズの姿。ブラストハウルはその上を通過していく。
「残念だったな」
気配に気づいて咄嗟に上向きに生体ビームを発射するがディスクに食われる。そして、ヴァン・ブレイズの後ろには着地したレギ・ソウル。ひと蹴りして赤い背中に乗ったグレオヌスが振り下ろしたブレードは左腕を刎ね飛ばしていた。
「勝負あったぜ」
勢いのまま膝蹴りしつつ飛び越えていくレギ・ソウル。置き土産とばかりに右腕も薙いでいった。落ちた両腕がディスクビームに焼かれる。
「リクモン流秘奥義『破旋』!」
ミュッセルはすでに攻撃体勢を整えていた。
次回『グレートクリムゾン(5)』 「お前は最高の相棒だぜ」