グレートクリムゾン(1)
「メインゲートが開くぅー!」
フレディが吠える。
「孤軍奮闘のレギ・ソウルに勇ましき援軍の到着でーす! その名はぁー、ヴァン・ブレイズぅー!」
アナウンスで相棒の復活を知る。次に感じたのは圧倒的な存在感。それはカタストロフにも伝わったようで、グレオヌスと打ち合っていたフォースウィップを一時収めて飛び退く。
「生きてっか、相棒?」
「もちろん。今、ちょっと生きた心地がしなかったけど。そんなに気合い入れてどうしたのさ?」
縁起でもないことを告げてくるミュッセルに訊く。
「すぐ戻るって言ってきちまったからよぉ。さっさと戻らねえと一生言われちまう」
「へぇ、一生をともにするって決めてたんだ」
「お前まで揚げ足取んじゃねえ!」
通信パネルに戻ってきた親友の顔は少し赤い。外で何事かあったのはだいたい想像できる。
「おーっと、ムービースターばりのラブシーンを演じた少年とは思えない発言ー! ヒロインに言質を与えてしまって尻込みかぁー!?」
「余計なこと言ってんじゃねえよ!」
復帰早々、ツッコミに忙しいことである。
すがるエナミを振り切れるほど無情な男ではない。だとすれば、黙らせてきたのだろう。どうやったかは推して知るべし。
グレオヌスも膨大な数の声援を背中に浴びているのはリングアナが教えてくれている。他人のことはとやかく言えない。無事にリングを出られても忙しくなりそうだった。
「待たせたな。さあ、殴り合いの続きをしようぜぇ?」
「ジャジャー!」
警戒音が激しい。
話している間に距離を詰めていたミュッセルはなんの躊躇いもなくヴァン・ブレイズをカタストロフの目の前に進ませる。まるで最前にどうなったか忘れたかのように。
「シャッ!」
「平気で飛び込んでくるな、だぁ? 嘗めてんじゃねえぞ。あんなんで俺様がビビると思ってんなら大間違いだ!」
(戦闘が長引きすぎて意思疎通までできるようになったわけじゃあるまいし)
なんとなくの感覚であろう。戦闘勘に関してはミュッセルが勝る。
怯えたのはヴァラージのほうだったのかもしれない。普通に殴り合いに応じている。ブレードナックルとフォースクローがぶつかり合って凄まじい紫電を放っていた。
が、即座に気を取り直したカタストロフが仕掛けてくる。意図的にのしかかるように口を開けて見せると、逆に忍ばせるように副腕を伸ばした。再び衝撃波干渉攻撃を行うつもりであろう。
「蓮華槍!」
向けられた拳。コークスクリューする腕のその肘を、かち上げられた膝が叩く。密着して発射された衝撃波が顔面を襲い、怪物の首を跳ねさせた。
「ふざけてんじゃねえ! もう見切ってんだ! 通用するわけねえじゃん!」
「ギャシュッ!」
跳ねた頭に、さらに拳で追い打ちを掛ける。空中で縦回転したカタストロフのボディが後頭部から地面に叩き付けられた。
「休憩できたか、相棒?」
「うーん、君はなんというか……、無鉄砲だよね?」
「言葉選んでそれかよ!」
衝撃波干渉攻撃は少なからず中のパイロットにもダメージがあったはずである。もう一度同じ距離で同じシチュエーションになってしまうと多少なりとも身体は縮こまったりするものだがミュッセルにそれは欠片も感じられない。
(自身の技能にそれだけ信を置いていないとできないことだ)
それこそ達人の域の所業である。
「仕方ないから、君の将来のために頑張るとしようか」
「言うに事欠いて、いい加減にしやがれ!」
隣りにいる炎が燃え盛るほどにグレオヌスは冷めていく。極めて冷静にことを運べるのは大事である。
「で、どうするんだい?」
「腹案はあんだが決定機を作るのは簡単じゃねえか」
「まだ元気いっぱいだからな。組み立ての中で弱らせていくしかないさ」
「しゃーねえな」
ミュッセルの声音にひそむ覇気にグレオヌスも誘発された。
◇ ◇ ◇
カタストロフの意識は驚きに包まれていた。
赤い戦闘機械を壊したところまでは想像どおり。部品さえあれば治ってくるのも遺伝記憶にある。しかし、その先が予想外だったのだ。
(あれに乗っている矮小な生物は、餌として優れていても、決して戦闘力が高くはない。それを補足するためにあんな道具を使っているはず)
そういう認識だった。
(それなのに、我を恐怖させるほどの意気を持っている。この個体は特別だ。異常だといっていいだろう)
遥かに高い戦闘能力。それが捕食者と餌という関係を作っていた。ところが、その関係が崩れるほどの戦闘力を示している。しかも、力場を用いた武器を使わずにダメージを与えてくるほどの戦闘力。
(あの灰色は危険だ。特殊な力場干渉で、大差ないくらいの攻撃力を発揮した)
戦闘機械の性能の高さを示した。
(それ以上にあの赤は脅威。強者の威圧感を備えているでは我と変わらない。同じ戦い方をしたでは引かれるかもしれない)
付き合っているでは流れが悪い。多少は無理をしてでもイニシアチブを取り戻さないと、この籠を出るのは叶わないだろう。
(逆にいうと、この個体を取り込めれば我は最強になろう。なにを恐れることもなくなる。ならば、留まるも価値がある)
カタストロフは策略を巡らせはじめた。
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