再戦はド派手に(5)
「ああー、これはぁー!! なんてことだぁー!!」
リングアナウンスに戻ったフレディの台詞は悲鳴だった。
(なにしやがった?)
ミュッセルにもわからなかったが、起きた現象を観察していて気づく。
「衝撃波干渉か!」
最初に感じたのはアームドスキンさえ吹き飛ばしそうな慣性力。引き戻し損ねた指先の装甲がめくれる。分解して駆動機が露出し弾けた。マッスルスリングの維持液が噴き出し霧に変わる。
重厚に造っている手までもが裂けていく。甲と手の平に分解され、中身が散りじりになってしまう。前腕がひび割れながら弾け、露わになった手首のドラム駆動機が破裂して維持液とマッスルスリングを飛び散らせた。
(よしやがれ)
目の前でスローモーションのように右腕が破壊されていく。
前腕の装甲が四分五裂になると、肘のドラムパッケージも爆散したように二つになる。マッスルスリングも千々に裂け、霧と化した維持液をまとって飛んでいった。
破壊は上腕にも及ぶ。可動部は少なく、断面を円形にして強度を上げていた装甲はやや薄い。簡単に弾け、中に仕込んでいた太めのマッスルシリンダがねじ曲がる。ついには割れて中身を吐き出した。
(破砕圏を逃れたか)
破壊はそこで収まった。
ブラストハウルのような衝撃波は、その名が示すように波の性質を持っている。カタストロフは口からの衝撃波と腰の副腕からの衝撃波を駆体の前で干渉させたのだ。
海の波が様々な場所から押し寄せて三角波を作るように、衝撃波が干渉して物質を破砕するほどの爆発圏を作り上げる。空気が破裂するほどの衝撃を撒き散らしたと同時に、圏内に残っていたヴァン・ブレイズの右腕を粉砕してしまった。
「ミュウ!」
「こんのー、クソ野郎がぁー!」
吠えてもアームドスキンはヴァラージのように再生はしない。ヴァン・ブレイズは右腕を失ったままだ。
(こんな馬鹿やれば奴だってただじゃすまねえのに)
下唇を噛みつつ敵を見る。
(それほどの強力場かよ!)
それそのものが物質干渉するほどの強力な螺旋力場で前を覆うとともに、カタストロフの駆体前面が金色の薄膜をまとっていた。これまでに見られなかったほどの強力な力場を発生させているものと思われる。
「シュシュシュシュ……」
嘲笑うように鳴く。
「冗談じゃねえ。ここに来てこんな切り札を出してきやがるか」
「いや、追い込まれて本能的に使ったんだと思う。これまでに確認されてない攻撃法だから」
「とんでもねえ隠し玉持ってやがった」
裂けた右の上腕を突き出す。その先の拳はもう帰ってこない。格闘士タイプにとっては致命的なダメージだった。
「なんとなんとヴァン・ブレイズ大破ー! ミュウ選手、大ピンチです!」
リングアナは悲痛な叫びをもらす。
してやったりとカタストロフは走り寄ってくる。だからといって退く少年ではない。負けん気を前面に、右半身に切り替えて迎撃する。
「無理だ、ミュウ。それじゃ今までみたいな戦闘はできない」
グレオヌスがレギ・ソウルを割り込ませてくる。
「なんもしねえで休んでろってのか?」
「いや、換装してくるべきだ。そうしないとまともには対処できないだろう?」
「だがよ……。くそっ!」
怒りが湧くが指摘は紛れもない現実を示している。
「マシュリ、右腕出しとけ」
「それはすぐに。ですが、メインゲートの開放手続きのほうがすぐにとはまいりません。しばらくもたせてください」
「僕がメインに戦う。君はサポートしてくれ」
ミュッセルにとっては我慢ならない選択である。大破して自身がろくに戦えない状態など、ただの試合であればギブアップを考えるくらいである。しかし、相棒の命が懸かっている以上、負けを選ぶわけにはいかない。
「俺がいねえ間もつのか?」
「もちろん目算がある。そうじゃないと君を送り出したりしないさ。僕だって命が惜しい」
(そうは言ってもよ)
額面どおりには受け取れない。
グレオヌスに勝算があるくらいの手札があるのならばとうに使っているはずだ。勝負を楽しむほどのミュッセルと違ってそれくらいヴァラージを危険視している。
今まで使ってこなかったということは確実な手段ではないということ。狼頭にとっても賭けに近い方法を目算と言い換えているのである。
(それなのに俺は役に立たねえときてる)
腸が煮えくり返しそうである。
レギ・ソウルの斬撃がカタストロフを押し返そうと宙を刻む。しかし、踏み込みの足りない剣閃は甲殻に刻み痕を残すのみ。
蹴り技でリクモン流攻撃をくり出そうにもどうしてもモーションが大きくなる。腕による打撃での崩しから繋げなければ使えたものではない。
「ならよ!」
「なにを?」
グレオヌスの斬撃に繋げて脇抜きで蹴撃を放った。胸に決まった一撃で突き放す。嵩にかかって突っ込もうとするヴァラージの足元に、左手に持っていたそれを転がした。
「喰らいやがれ」
起爆すると直径30mあまりの消失点が生まれる。反物質爆弾を使ったのだ。危険性を察したカタストロフは飛び退って逃げた。
「マシュリ、開けろ」
「やってます。いらしてください」
ミュッセルは一気にヴァン・ブレイズを離脱させ、メインゲートの外に転げ出た。
次回『グレイ奮闘』 「戻ってくるまでに倒してたら文句言われるかな?」