再戦はド派手に(3)
フォースクローとブレードナックルが衝突し、派手に紫電が撒き散らされる。空気が脈動しているかの如く走る紫雷が明るいリングを不気味な印象に変えてしまう。
(真っ向勝負ってのは性に合ってんだが、いつまでも付き合ってくれねえよな)
ミュッセルは打ち合いながらも考える。
カタストロフのパワーはヴァン・ブレイズとの打撃戦も可能としているが、心得のある彼相手に五分以上に戦えるとも思えない。それを覚ったとき、どう反応するか。
「テクニックで君には劣る。どこで切り替えてくるかわからないから注意しておいてくれ」
相棒も同じ懸念を抱いている。
「また中距離戦に出てくると思うか?」
「いや、それは元の駆体で敵わないと身に沁みてるだろう。なにをしてくるか読めないから警戒するよう言ってる」
「だよな。誘いで手ぇ抜いても意味ねえし」
わざと劣勢を演出しても押してくるとは限らない。押してきたとて、以前のアンチVのような確実な決め手がないのなら一発勝負ともいかない。
「駆け引きにも頭がまわるような感触じゃん。厄介な進化しやがって」
研究者を一人取り込んだことで思考することを憶えたと思われる。
「つくづく思うよ。これじゃ、ヴァラージでさえ人間は滅びたがってると感じるかもしれない」
「御愛嬌で片づけるにも笑えねえな」
「だから君みたいなピースが必要になってくる」
変化はやってくる。
意図的に、ぶつかる拳打の芯を外して力を外に逃がす。流れるように脇に腕を差し入れて引き込みつつ膝を飛ばした。組み付いての一撃は避けようもなく突き刺さる。
折れたボディに畳み掛けようと間合いを取りつつ低く構えるも、放った拳はスラストスパイラルに衝撃して跳ね返された。攻勢に出るかと思いきや、地を蹴って下がり障害物の影へと逃げ込む。
「スティープル使って混戦に持ち込む気……、っとぉ!」
追おうとしたヴァン・ブレイズにポール型スティープルが倒れ込んでくる。毎日の配置転換には反重力端子キャリアを必要とする障害物だ。それだけで質量の暴力である。
「そう来やがったのかよ」
「根元をフォースウィップで斬ったな」
「ちっ、倒れねえもんだって思っちまう」
いつもの試合ならばスティープルを傷つけるような出力の武器は使用できないから安心していられる、しかし、今はカタストロフの武器もそうだし、レギ・ソウルのブレード一本だとて簡単にスティープルを斬り倒せてしまう。
(馴染みすぎた場所だけに固定観念が邪魔くせえ)
ミュッセルは顔をしかめる。
フォースウィップだけではない。生体ビームも放たれて次々とスティープルが倒されていく。ポール型だけではなく、断面の平たいプレート型やL字のアングル型が含まれている分、複雑な倒れ方をしてしまう。結果、上に伸し掛かって斜めになっていたり、途中で寄り掛かり合って止まったりしていた。
「これは複雑怪奇な戦場を作ってくれる」
「ったく、ただじゃねえんだからポンポン斬るんじゃねえよ」
あとの処理が大変そうだ。
二人は複雑に絡み合って倒れたスティープルのハードルを跳ねたりくぐったりして赤褐色の駆体を追っていく。ひそんでいる心配はなくとも、生体ビーム警戒で不用意に飛べないだけ手間だ。
「これはカタストロフの作戦勝ちかぁー! 状況は摩訶不思議になっていくぅー! いや、これはこれで興味深いー! クロスファイト運営はどう見るかぁー!」
フレディは障害物の複雑化を面白がっている。
「気楽に言うんじゃねえ!」
「二人の戦況はさておき、クロスファイトの将来が見えた気がいたします!」
「さておきやがるな!」
スティープルが半壊したところでカタストロフの背中を捉えた。だが、絡み合って倒れた鋼材の林は隠れ場所が多い。
幅広のアングルに手を突いて跳び越すなりフォースウィップが振り下ろされてくる。姿勢が悪く回避できない。ブレードスキンで引っ掛けつつ機体を逃がした。回転した力場の鞭がスティープルを両断する。磨かれたほどに輝く断面にゾッとした。
「くそ、油断も隙もねえ」
走る白光をブレードナックルで打ち砕きながら言う。
「オープンスペースで君と打ち合う不利を察したヴァラージの苦肉の策だな」
「さすがにこれは予想してなかったぜ」
「ああ、難しくしてくれる。足留めにはもってこいだ」
生体ビームをサイクロンディスクで受け止める。レギ・ソウルにとってはさほど不利になっていないが、ヴァン・ブレイズは思い切った技を出すスペースを封じられた形である。
「それならそれで俺にも考えがあるがよぉ」
「どうするんだい?」
「格闘以外がお望みなら付き合ってやるっつーんだ」
三本が絡み合っているスティープルの下をくぐり抜ける。そこを崩そうと生体ビームが放たれた。無理せず抜けて、発射姿勢のカタストロフを睨みつける。
「蓮華槍」
鋭く曲げた左の肘。その手に拳を叩きつける。コークスクリュー気味に打ち付けて増幅した螺旋の力は左腕を突き抜けて衝撃波となって突き進む。怪物の駆体に衝撃すると跳ね転ばせた。
「ギャシュッ!」
「離れてっとこいつを喰らうだけだぜぇ?」
ミュッセルは嫌味ったらしく台詞をぶつけた。
次回『再戦はド派手に(4)』 「そんな塩っぱい勝ち筋狙わねえで正面から勝ってやっからよ」