再戦はド派手に(2)
中空に浮いていた赤褐色の駆体はカタパルト放出されたかのようなスピードで突進してきた。一直線にヴァン・ブレイズめがけて飛んでくると拳を放ってくる。
(そうかよ)
ミュッセルは反応する。
右の掌底でこすって横に逸らすとカウンターの左を入れる。半身になりながら首元をわずかに削った拳打を躱したカタストロフはしっかりと地面に足を降ろした。
振り回された肘をスウェーで避けた真紅のアームドスキンは脇腹に掌底を当てる。ワンテンポ置いて放った烈波は踏み込んできたボディから外れて不発。ほぼ密着距離の隙間を縫ってきたアッパーを左で受け、同時に飛ばした肘は怪物の手に収まっていた。
「そんな気してたぜ」
理解しているかわからないが話し掛ける。
「てめぇ、俺を真似しやがったろ?」
「シュー」
「そのサイズのボディならこっちの戦法のほうが向いてるって思ったか、格闘戦するためにダウンサイズしたのか知らねえがよ」
話し終わるか否かのタイミングでレギ・ソウルが背後を取っている。閃いた剣撃は背中を襲うも螺旋力場で止められ、跳ねた踵に肘を打たれて上に跳ねた。
グレオヌスがすかさずビームランチャーをねじ込むも、腰の裏に移動していた副腕がブラストハウルを発射する。咄嗟にずらした砲身を叩いた衝撃波が抜けていき、照準を失った砲口はトリガーを押し込むに至らない。
「ここまで使えるのか。君のを学習したのかもな」
「いや、こいつは本能みてえなもんだろ。ほぼ反射的に動いてんぞ」
「良いのか悪いのか。いや、厄介か」
軽くなってよく動く駆体を本能のままに振り回されるのは難しいと相棒は判断したらしい。一度間合いを切っている。
ミュッセルは試しに押し込んでみるがびくともしない。即座に抜きに入って機体を沈める。スピンしつつ軸足を固定。両手で地面を打ちながら芯を作る。リクモン流の後ろ蹴りを胸の真ん中に直撃させた。
「シャゴッ」
「どうだ? こうやって組み立てんだよ」
ブレードの剣先がひるがえり、飛んできたカタストロフを両断しようとする。ところが空中で半ひねりを入れた怪物はレギ・ソウルの渾身の斬撃をフォースクローで受け止めた。
着地し、ブレードを上に逃がしながらかがみ込んだカタストロフは仰け反りつつ膝を飛ばす。グレオヌスはそれをグリップエンドで叩いて止めた。ところが、反対の足も続いて跳ね上がる。膝を突いてどうにか頭部をかすめるに留めている。
「なんて器用な真似を」
「そこまで考えてやったんかわかんねえけどよ」
カタストロフは腰裏のスカートのような傘から生えたスラストスパイラルの二本でボディを支えていた。なので今の蹴撃には十分な威力が込められており、グレオヌスも姿勢を崩してまで躱すしかなかったのだ。
こういう場面も想定してスラストスパイラルの位置を変えたのかもしれないと思ったが、それは相棒にもミュッセルにもわからない。だが、特殊なアクションを可能にしているのは間違いない。
「自在に動く足がもう一対あるくれえに考えとけ」
「それはレギュレーション違反じゃないのかい?」
グレオヌスには軽口を叩く余裕があった。
すぐさま動けない相棒を両手の力場鞭が狙う。しかし、すでに起動していた空間エネルギー変換システムが変換点を生み出し、フォースウィップを還元してサイクロンディスクに変じさせる。
追撃の生体ビームも大輪の花と化しディスクに飲み込まれていった。レギ・ソウルは姿勢を立て直しながら一度下がっていく。
「シュシュシュ」
嘲笑うように鳴くカタストロフ。
「馬鹿にされてんぞ。そいつの出番はまだ先じゃねえか?」
「確かに。近接状態でビームランチャーを使わせてくれそうにないな」
「あきらめろ。お前ならまだ双剣のほうがマシじゃね?」
提案してみる。
「いや、それなら左手は遊ばせておく。僕だってリクモン流の掌底くらいは使える」
「なるほど、そっちのが崩しに使えるか」
「それに、ちょっと思うところがあるしさ」
突入前の準備時間に弾液カートリッジは十分に備えている。なんなら予備にとヴァン・ブレイズの腰にまでラッチしているが使い道があるか否かは不明である。
「さぁて、面白くなってきやがった」
「それは観客の感想だよ」
カタストロフは飛び立たない。完全に格闘戦をする構えである。
踏鳴一つでヴァン・ブレイズはまるで瞬間移動したように動く。縮地のような歩法とは違うショートジャンプである。リクモン流は芯の抜ける瞬間を極力避けるために抜き歩法は使わない。
踏み込み足の膝と肘を合わせつつ左の掌底を突き上げ短めの芯を作る。不用意に受ければ弾き飛ばすだけの威力はある。察したか、カタストロフはスウェーで避けた。仰け反ってさらした顎を狙ったストレートも左手の一閃で弾かれる。
「なんと意外な展開ー! カタストロフはツインブレイカーズと同じ格闘戦を選んだのかぁー!? 無謀とも思える挑戦ですが今のところはわたくしの目にも五分に映っております! やはりヴァラージは恐るべき存在だったぁー!」
フレディは興奮した声音で実況する。
ミュッセルは変化した怪物の戦法に難しさより喜びを覚えていた。
次回『再戦はド派手に(3)』 「御愛嬌で片づけるにも笑えねえな」