再戦はド派手に(1)
「まだ学生の息子さんに命懸けの任務を課すなどどう償えば良いものか……」
ユナミも言葉を詰まらせる。
「気にしないでくださいな。どうせ、あれが行くって言ったんでしょうし」
「ですが、お母様」
「こう考えちゃどうですかい?」
意外にもほとんど会話した記憶がないほど無口な父親が口を開きユナミ局長は言葉を継げない。その顔にはあきらめというよりは自嘲に近い感情が垣間見えた。
「たかだか町工場のせがれがあんなに強く生まれちまったんだ。なにかお役目があるって思っても変じゃないと思わんですか?」
親が口にすべきでない、むしろ親でないと言えない台詞がもれてくる。
「それでも大事な息子さんです。親御さんを無視して誰かのために戦えなどと」
「過ぎた力なんですよ。そんなら他人様のために使わなきゃいけねえ。もし、自分のためだけに使おうとすんなら、儂はあれを勘当するしかありませんでしょうなぁ」
「そうまでお考えですか」
親の覚悟が問われている。
「局長さんだって思うでしょう? 息子さんも高い地位にいらっしゃるが、そうしたかったわけじゃない。良かれと思って子どもに正しい知識と意思を説いただけでしょう。その結果が花開き実になった。だったら、道を間違えんよう厳しい目で見続けるしかないじゃないですかい?」
「おっしゃるとおりです」
「じゃ、お互いに腹据えて向き合うしかありませんな」
ユナミは感謝の言葉を告げるしかできなかった。
父親も母親も息子を放任していたのではないとわかる。枷に嵌めるのではなく、ただどう育っていくのか見つめ続けていたのだ。健やかに、真っ直ぐ育つよう祈りながら。
「お父様の息子さんなら大きなことを成し遂げてくださいますでしょう」
心から思った。
「よろしければ孫娘の我儘も聞いてくださいますか?」
「なにを言うんだろうね。良くできた娘さんじゃないかい。驕らず控えめで、もっと我儘を言ってほしいくらいだよ。うちのミュウにはもったいない」
「そうおっしゃてくださるのはありがたいです、お母様」
チュニセルは笑い話にする。
「あれが馬鹿やって見限られる将来のほうが心配さね」
「ないでしょう。自ら日陰の花のように自分を律していたあの子がこの一年、どれほど活き活きした瞳に変わったことか。全ては出会いのお陰です」
「楽しみだねえ」
「ええ、楽しみです」
将来を思うことで未来を信じる。それができる強さをうらやましいと思った。あやかれるなら、彼らと繋がりを深めたいと願う。
「今後ともよろしくお付き合いお願いいたしますわ」
「だいそれたことだけど、そう願いたいねえ」
深々と頭を下げる二人にユナミは最大の礼儀をもって応えた。
◇ ◇ ◇
ゆっくりと開くメインゲート。ヴァン・ブレイズとレギ・ソウルは、万が一に備えて集結した星間平和維持軍のアームドスキンを背後に抱えながら進む。
(奴はなにを思って小さくなりやがった?)
ミュッセルは索敵ドローンで監視されている内部の様子にも目配りしつつ考えた。
(単に足りなくなったから小さくまとめたってんなら期待外れだぜ。そうじゃねえんだろう、なあ、カタストロフよ?)
最強レベルと言われた防御フィールドを抜けていく。確かに信号系統にノイズが増えるほどの磁場だった。ちりちりと焦げるような感覚が頭の輪環型σ・ルーンを介して伝わってくる。
「妙に大人しいのが不気味じゃないかい?」
狼頭の相棒が苦笑い気味に言ってくる。
「残念だがよ、言われてっほど怪物じゃねえんだろう。閉じ込められて、暴れて消耗するほど本能だけの奴だったら誰かに任せたかもな」
「そんなつもりもないくせにさ」
「買い被んな。俺だって無茶ばっかしてえわけじゃねえんだよ」
意味はある。そう考えている。でなければ、マシュリが自身の立場を賭けてまで立ち向かわせたりなどすまい。彼女の中にも孤独を厭う感情があるのを見出している。
「いよいよ第2ラウンドのゴングが打ち鳴らされようとしております。チャンピオンゲートから入場するは我らがチーム『ツインブレイカーズ』! 対するは挑戦者『カタストロフ』! 一度は退けた挑戦者を、天使の仮面を持つ悪魔と狼頭の貴公子は再び倒すことができるのかぁー! 注目の一戦が今始まろうとしております!」
フレディも律儀なことである。
「憶えてやがれ」
「まるで敗者の捨て台詞ではありませんか!」
「ばかやろ。俺だってそれなりに緊張してんだよ!」
彼らの会話もライブ中継に流れていることだろう。雰囲気が台無しだとでも思ってるか、グレオヌスは耳を前に寝かせている。ミュッセルも気が削がれて肩を落とした。
「お前にツッコんでる暇ねえから面白おかしく実況してろ」
「では、遠慮なく!」
ゲートからセンタースペースへの道を淡々と歩く。明るく照らされたリングに荒らされた様子はない。驚くほど静かなのは確かに不気味。反対側のロードの先、アリーナの高さに赤褐色の駆体が浮いていた。
「よぉ。そろそろ決着つけようじゃねえか」
「シュルシュルシュル」
警戒音とは違う鳴き方をしている。
ミュッセルは右手を掲げると、来い来いと人差し指で招いた。
次回『再戦はド派手に(2)』 「てめぇ、俺を真似しやがったろ?」