封じ込めるも(2)
一時は喝采に包まれた星間管理局本部ビル作戦室。内部の様子を監視しているうちに再び不穏な空気に包まれていく。ユナミ・ネストレル本部局長も余談を許さない状態に目を細める。
「生体ビームの突破阻止を確認できました」
副局長のアレン・アイザックはクロスファイトドーム外観からも観察していた。
「現出力での耐久時間は二十時間と十分ではありますが、発生素子は交換が必要になってきます。専用対消滅炉もフルメンテナンスが不可欠になってくるということです」
「星間管理局興行部には保安予算から全額補償すると伝えておいて。部品も優先的に供給します」
「はい、準備しておきます」
不安の払拭も優先される。
「突入は待機中のどの部隊でも構わないと思われますが、おそらくアンチVによる撃滅は困難であろうと思われます」
「そうね。ろくに効かなくなってるみたいでした」
「ビーム兵器による集中攻撃での焼却しかありませんでしょう」
アンチVに耐性は得ても、ビームによる熱と物理の同時攻撃に耐えられる生体組織など考えられない。問題は当てられればの話であるが。
「どう見たかしら?」
ユナミの中に最善の選択肢は浮かんでいるが即断には及び腰になる。
「小型化しましたので強化変形までする余力はないものかと」
「しないかしら?」
「あくまで希望的観測を含みます」
正直に答えてくる。
「それは、現在の形態が隔離前より弱体化している前提よね?」
「強化されていると?」
「少なくとも軽くなったことでスピードは速くなっているのではなくて? それと、的として小さくなりました」
パワーアップというよりは滅しづらくなったと感じている。遠間からの狙撃で簡単に撃滅できるとは思いがたい。
「物量では押し切れないとお考えですか」
アレンも否定できない様子。
「小さからず損害を見込まねばならないでしょう。そして、離脱や補給が簡単な状況は作れないですわね」
「突入にメインゲートの開放をしても再封鎖はせねばなりません。苦労して封じ込めたカタストロフを素通しさせるわけにはまいりませんので」
「もし、人的損害が出ても内部の部隊でしか救助さえままならない。あの中は決死圏となるでしょう」
死を覚悟して挑まねばならない圏内となる。星間平和維持軍隊員ならば命じれば拒まないであろうが、命じるほうにも凄まじい覚悟を強いられる。
(あそこを決死圏としないだろう戦力はある。でも、わたしはそれを命じて背負い切れるのかしら?)
もしもを考えると怖ろしくて仕方がない。孫娘を笑えなくなる。
「おーい、あんま悩んでっと奴が痺れ切らして出てきちまうぜ」
当の本人から通信が入る。
「命じろよ、『お前たち二人で行け』って」
「酷なことを言うのね?」
「それ以外にねえだろ。あれは狙って捕まえられるようなもんじゃねえぞ?」
ミュッセルは断じてくる。
「そう見えて?」
「おう、確実に速くなってる。当てられる名手に心当たりがあんのか?」
「ないわ」
虚勢を張っても仕方がない。最も撃滅に近いのはこの少年とグレオヌスの二人以外にいない。
「だったらダメージ食らわせて足止めてから仕留めるしかねえじゃん。そいつをできんのは俺たちだけだ」
自信があるように言う。
「わたしもそれしかないと思ってます。でも、ご両親や世間になんと申開きできますか?」
「心配すんな。そんなに分は悪くねえ。グレイが防御面で頼りになっからよ。この野郎、自分が部隊を引き連れて入りゃいいとか抜かしやがる。俺様が相棒だけを行かせる腑抜けだと思ってんのか?」
「そんなこと言ったってさ、一番効率的じゃないか」
グレオヌスの案も頭にはあった。ただし、彼のキャパシティが測れない状態で行かせるのは賭けになる。その点、ミュッセルなら自身も防御手段を持っている。
「効率問うんなら俺が最適じゃん」
「あのさ、これ、エナも聞いてるんだから少しは遠慮しなよ」
孫娘を慮ってくれる。
「ばーか。ここで尻込みするような弱虫なんぞフラれるに決まってんだろ」
「君こそ馬鹿だ。行かせたくないに決まってる」
「喧嘩しないで。悪者は大人に任せておきなさい。ミュウ君、グレイ君、民間治安協力官として二人にカタストロフ撃滅を命じます」
決断する。
「ただし、状況によっては撤退を命じるかもしれません。引き続き対案も検討します」
「任せろ。そんなん決める前に始末してやっからよ」
「言っても聞かなさそうです」
グレオヌスは処置なしとばかりに狼頭を横に振る。赤毛の美少年は栄養補給のゼリーパックの飲み差しを咥えながらゲラゲラと笑っていた。
「体裁を整えてくださって感謝いたします」
「いえ、お願いします」
頭を下げるマシュリにユナミも深々と感謝を捧げた。
◇ ◇ ◇
「親父、お袋、もし……」
個人回線でチュニセルに連絡してきた息子に目顔でうながす。状況はダナスルと二人で観ていた。なにを言ってくるかはわかっていたが、珍しく口ごもる。
「……行ってくる」
「おう、お前ならそうするだろうと思ってた」
「晩御飯、用意しとくから時間までには帰ってくるんだよ」
わざと普段どおりにする。
「わかった。ちょっと腹減らしてくる」
「すみません。どうやら、これは僕たちの役目のようです。ご心配お掛けしますが……、いえ、待っててください」
「ああ、あたしたちじゃ食べ切れないからすっぽかすんじゃないよ」
礼儀正しく頭を下げて通信は切れた。
(早く帰っておいで)
チュニセルはこみ上げるものを振り切って夕食の準備を始めた。
次回『再戦はド派手に(1)』 「じゃ、お互いに腹据えて向き合うしかありませんな」