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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
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封じ込めるも(1)

 カタストロフはもうエナミの視界から消えている。全ての観測パネルのどこにも映っていない。

 白いアームドスキンが互いにハイタッチを交わし、赤や灰色の機体とも拳を合わせている。意味の伴わない歓喜の声がリフトトレーラーのドライブルームまで伝わってきた。


「見事な指揮でございましたよ」

 メイド服のエンジニアが肩に手を置いてくれる。


 ほどけるように背中をシートの背もたれに預ける。緊張感と身体の強張りが同時に溶けていく。そのままシートと融合するのではないかと思えるほどに力が抜けていった。


「とんでもない快挙だぁー! 並みいるクロスファイトチームの選手たちがメルケーシンの危機を救ったぁー! とうとうカタストロフをドームに封じ込めることに成功しましたぁー! 皆様、惜しみなき賛辞を彼ら彼女らにー!」

 さすがのフレディの声帯も限界を訴えるようにかすれ始めている。


 疲れと一緒にはらはらと涙がこぼれゆく。自分がどれほどに感情を高ぶらせていたかようやくわかる。


「良かった……。誰も死なせないで済ませられた。ほんとに……」

 声にならない彼女をメリルが理解できるとばかりに強く抱きしめてくれる。


 エナミは流れ続ける涙を止める術がなかった。


   ◇      ◇      ◇


 それ(・・)は身体の各部にある全ての子脳を連結させる。交感物質が分泌され、高速で思考し始めた。


(ここはどういう状況か)


 眼球はまだ再生していない。ただし、感覚器官が強力な力場に包まれているのを感知する。小さくはないが、それほど広範囲でもない強固な磁場系の力場帯がドーム状にそれを覆っている。


(以前の陳腐なものではないが檻のようなものか)


 眼球だけをまず再生させてみた。地面が広がる円形のスペースには数多くの金属製の柱がそそり立っている。断面の形状も幾つかある様子だった。


(奇妙な檻だ)


 力場帯の向こうにも見上げるような位置の高さに円周状に空間が広がっている。そこには無数の判別できないなにかが置かれているが、特に危険なものではなさそうだ。


(それよりもボディのほうが問題か)


 かなり損失してしまった。元の形に復元できるほどの容量がない。復元したとしても中身に隙間があるものになってしまう。


(やむを得まいか)


 それにとって大きさはそのまま力を意味する。内部に蓄えているものが全ての源なのだ。源の量があれば何度でも再生できるし、武器も使うことができる。


(待て?)


 しかし、現状がいつまでも続くとは思えない。打ち倒すべく敵が現れるのは疑いようもない。対抗せねばいけまい。


(生き残る。生き残り、貪り増える)


 それの根源的意思である。これは曲げようもない。そのために選ぶべき選択肢はなにか。


(あれは素晴らしい戦闘力を持っている)


 思考に浮かぶのは赤い金属兵器。兵器だというのに凄まじい速度で疾走し、強力な攻撃を放ってくる。埋もれた記憶から掘り出した別のなにかに重なる。


(あれを模倣すべきか)


 本意ではないがコンパクトにする方法を思い付く。コンパクトに、かつシャープに。そうすれば、まだ中身の十分詰まった身体を維持できるだけの容量は残っている。


(そのまま、は意味あるまい)


 四肢を持つ立位形状は遺伝子に残る戦闘情報を最大限に発揮できるものとして必須である。それとは別に各部の成形は遊びの余地がある。


(より使いやすくしよう)


 甲殻を形成し表皮に浮かせる。腱を生成し組織と繋げ線維化する。張力を生む線維組織化に成功すると配置を決めていく。


(やり速く、より精緻に)


 副腕を脇から移動させる。脇にあると主腕の動きに制限ができてしまうからだ。過去の情報から最適な位置を選んだ。腰の裏側である。そこなら衝撃波を前にも放てるし、背後の防御にも使える。


(足りないか)


 速い移動には推尾(すいび)も不可欠。時空界面を叩く推尾の配置も重要になろう。副腕の根元、腰裏から傘を広げる。防御甲殻を形成すると、その内側に推尾の発生器を生み出した。まるで二本の尾が生えたようになる。


(さて、どうなっているか)


 推尾で界面を叩き身体を浮かせる。強力に感じる力場帯へと近づいた。爪を伸ばすと、まとった力場と干渉して火花を散らす。それ以上押し込めないほど強力な磁場帯だった。


(これは良くないかもしれないな)


 少し離れて収束砲を発射する。普段使っている簡易防御力場でも防げない出力のもの。なのに貫けない。食い込みはするものの、あまりに分厚い磁場が減衰させ、貫くだけの力がなかった。


(これを狙っていたか)


 金属兵器も簡易力場を用いるが収束砲は防げない。思えば、敵は収束砲を使わせないよう露骨に発生器の破壊を目論んでいた。最も危険な武器と考え、外にもらさない檻を用意したのだと推察する。


(出られないことはない)


 磁場はそれのボディを妨げることはできない。閉じられた門を爪で切り裂いて再び外に出ることは可能だろう。


(それなりに力を要する。外であれらが待ち構えているのならば出向くのは得策ではない。このまま閉じ込めているつもりではないだろう。ならば、向こうから餌がやってくるのを待って蓄えを増すのが正解ではないか)


 それ(・・)は自己保存のために判断し、待ち受けるほうを選んだ。

次回『封じ込めるも(2)』 「物量では押し切れないとお考えですか」

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