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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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39/409

決着へ(3)

「リクモン流奥義『烈波(れっぱ)』」

 ミュッセルの声がグレオヌスの耳に届いた。


 告げられた途端に目眩のようなものを感じている。身体の奥底まで浸透して、あわや意識ごと刈り取られる寸前だった。

 どうにか意識を繋ぎ止められたのは機体システムが発するけたたましい警報が耳に刺さっていたからにすぎない。それは左腕の使用不能を伝えていた。


(な……ぜだ? 左腕、丸ごと……使えないだって?)


 コンソール表示でレギ・クロウの左腕が真っ赤に染まっている。一部、ショルダーユニットまでダメージが及んでいるのがわかった。


(一撃……受けただけで?)


 なぜかはわからないが、本能的に危険を感じたグレオヌスはヴァリアントの掌底と胴体の間に左の肘をねじ込んでいた。掌底は肘に触れただけのはずだったのにレギ・クロウはノックバックするほどの衝撃を受け、実際に中破に相当するダメージを負っている。


(マズ……い。身体が動かない。今、一撃でも受けたら慣性力()で意識が飛んでしまう)


 バイタルロストしてしまえば撃墜(ノック)判定(ダウン)される。彼の負けが決する。それなのに身体は満足に言うことを聞いてくれない。歯を食いしばって力を込めても、わずかに右腕が持ちあげられるだけ。


「なんだ。動けんのかよ」

 ミュッセルの声が届く。

「じゃあ、終わらせてくれ。お前の勝ち(・・)だ」

「え? なんで……?」

「ヴァリアントはもう動かねえ。ブレードで一突きして引導を渡してくれ」


 そう聞こえた途端にヴァリアントの全身の関節各部が蒸気を吐き出す。それを追うようにピンク色の液体が漏れ出してきた。塊でボタリボタリと垂れるそれはアームドスキンの作動ジェルである。


「壊れ……! そうか」


 動かない身体に渾身の力を込めてブレードをヴァリアントのボディに近づける。そっと触れさせてこの試合を終わらせた。


「の、撃墜(ノック)判定(ダウン)ー!」


 声が嗄れかけたリングアナの宣言がグレオヌスの耳に響いた。


   ◇      ◇      ◇


「第5シーズン金華杯ソロトーナメントぉー! 優勝は、グレオヌス・アーフ選手ぅー!」

 勝利宣言がされる。

「とてつもない番狂わせぇー! なんと参加したばかりのビギナークラスの選手が優勝をかっさらっていったぁー!」


 エナミ・ネストレルはその瞬間を口に手を当てて見つめていた。もう声も出ない。


「出てきた」

 ビビアンもささやくように言葉にするだけ。


 カメラアイの光が消え、全身から血のように液体を滴らせているヴァリアントが前のめりに倒れそうになる。そのボディを、ブレードグリップを放り出したレギ・クロウの右手が支えた。

 どちらからともなくハッチが開く。ヘルメットをシートに放り捨ててミュッセルが軽快にレギ・クロウのアンダーハッチに飛び乗った。両腕を突き出す。


「そうなんだ」


 グレオヌスも応じて両腕を差し出してグータッチ。そしてハグ。互いに背中をバンバンと叩いて健闘を称え合っていた。ミュッセルは満面の笑みで。狼頭はまだピンとこないような面持ちで。

 美少年がグレオヌスの片腕を取って持ちあげる。目で促してもいた。そして、長身の男ははにかむようにもう一方の腕も掲げる。アリーナは爆発したかの如き歓声で彼の勝利を称えた。


(ああ……)


 自然に涙があふれる。感動の涙だ。肩を掴まれて隣を見る。ビビアンも頬をベチョベチョにしていた。なにも考えずにハグする。

 ユーリィ、レイミン、サリエリ、ウルジーとフラワーダンスのメンバー全員とハグしていった。皆が涙に濡れている。


「なんという結末ぅー! なんという戦いー! なんという友情ぉー! これだ! これがクロスファイトでぇーす! 皆様、惜しみない拍手を感動の舞台を作りあげてくれた二人にぃー!」


 万雷の拍手がリングに降り注いでいる。ようやく我に返った狼頭も嬉しさを隠しきれない笑顔を振りまいていた。そして、美少年はどこまでも満足そうな笑顔だった。


(素敵……)


 エナミは胸に手を置き、その光景を焼き付けた。


   ◇      ◇      ◇


 翌朝、テーブルには前日に勝るとも劣らない豪勢な料理がひしめいていた。グレオヌスはちょっと引きながら椅子に掛ける。


(昨日は疲れ切って食事もそこそこにベッドにダウンしちゃったからな)

 ミュッセルも似たような状態だったとおぼろげながら記憶している。


「しっかり食いな」

 チュニセルは褒めるでもなくいつもの調子。

「満腹になっても学校で寝るんじゃないよ。なんのために通ってんだか忘れたら承知しない」

「厳しいですね」

「親御さんに学費払ってもらってるのに贅沢言うんじゃない」


 ミュッセルはすでに旺盛な食欲を発揮している。皿を片っ端から空にする作業に勤しんでいた。彼も習う。


「やるぜ」

 落ち着いたところで話し掛けられる。

「なにをだい?」

「お前、俺と組め」

「組む? トーナメントを勝ち残るのに互いに便宜を図るって意味?」

 メーカーチームなどでそういう作戦も執られることもあると聞いている。

「違ぇよ。そのまんまペアを組むって意味だ。チーム戦に二人で殴り込み掛けっぞ」

「はあ?」


 とんでもないことを言い出したミュッセルを二度見した。

次はエピソード『ツインブレイカーズ』『再始動は大変(1)』 「嘗めてる?」

集中投稿を終了します。明日よりは朝7時のみの更新です。


構想ではここまで第一エピソードに入れるつもりだった。全然文字数読めてません(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 ]Д°)<……素敵…… まさかストーカーに?
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